第11話 陰キャな僕は決意する



 どうも、本屋とコンビニに寄って自宅に帰ってきたら鬼のような形相で玄関前に立っていたファンキーゴリラにプリンを献上してきた阿久津来人あくつらいとだよ。


 回し蹴りされそうになったうえ、瞬時に袋ごと奪い取りその中身を見た御姉様クソあねが「ハー○ン○ッツが良かったなぁ。まぁこれでおあいこにしてやるよ」って頭ポンポンしてきながら言ったときには思わず殺意が湧きました。暴力振るわれなくて良かったです。

 

 今度仕返しにリアルなゴキブリのおもちゃを部屋の中心に置いておきたいと思います。世界(部屋)の中心で悲鳴を上げる御姉様クソあねの姿が楽しみです。へへっ。




「はぁ~~~、つ~か~れ~た~………! すげぇ疲れがどっと来た感じだぁ……!」



 僕は勉強の課題を何とか終わらせた後ベッドにうつ伏せでダイブしながら思わずといった感じで呟く。

 のろのろと視線を前に向けると、枕元には勉強する際に集中できないので放り投げていたスマホが鎮座していた。


 "来人くん、私(スマホ)のウェブ小説を見て元気出して!"って二次元美少女イラストが脳内で僕に囁いているように聞こえないでもないが、残念ながら今はそんな体力が無いんだ……。


 むしろ"アンタって本当愚図ぐず鈍間のろまな陰キャ野郎ねっ! ほらぁ、足舐めなさいよっ!"って罵って下さいビクンビクン。


 僕は仰向けに転がりながら、部屋を照らす天井の白い蛍光灯の光を見つめる。その後、溜息。



「はぁ、もしかして風花さんに引かれたのかなぁ……? ただ僕は椅子に座る風花さんが気になってちらっと見ただけだったのに……」



 思い出しながら呟く。


 うん、絶対そうだよ。昼休みのあと教室に戻ってきたのをちらりと見ただけで何故か風花さんが頬を赤らめながら『へ、変態じゃないんだからねぇ!?』って言ってきたもの。


 ………僕そんな風花さん自身が変態だと思っちゃうようなキモい視線向けてたかな? すぐさま『知ってるよ!? 見ただけだよ!?』って否定したけど、風花さんはそのあと午後の授業から放課後にかけて何も話しかけてこなかったしな。


 僕はといえばべらぼうに人気度の高い『天使』な風花さんに自分から話しかける勇気なんて全然なかったから、内心どぎまぎしながら過ごしてたぞ。チキンでごめんね。


 ……まぁすっごい隣からチラチラ視線を感じたんだけどね!! 僕を警戒してたのかなごめん風花さん!!


 結局彼女は『それじゃあ来人くん、また明日ねぇ……!』って言うと急いで教室を出て行っちゃったし。


 ………………。



「あああああぁぁぁぁぁ!!! なんでこんなに風花さんのことが気になるのかな!? 『天使』だから? シミュレーションを提案してきたから!? 揶揄からかわれたから!? 僕わっかんねぇ!!」



 顔を覆ってベッドの上をごろごろ転がりながら僕は叫ぶ。


 隣の姉の部屋からドンッ、っていう壁を叩いた音が聞こえたけど今の僕にはそんなの関係ねぇ。檻の中に居る飼われたゴリラよりも、ゆるふわ系美少女天使の事を考えた方が何百倍もマシだ。ぺっぺっ。



「結局、僕は風花さんのことをどう思っているんだ……?」



 高校に入学してから一切僕と関わりが無かったというのに、最近席が隣になっただけで急にぐいぐい話しかけてくるようになった『天使』と呼ばれているゆるふわ系美少女。

 僕が昼休みに読んでいたライトノベルがきっかけで、若干押し切るような形で何故か僕にシミュレーションを提案してきた。


 基本的にほんわかした雰囲気と口調と見た目なのに少しだけ口が悪くて、かといってクラスメートと会話するときはそれを見せる様子はない。


 風花さんと話していると、不思議と僕まで心が軽くなって、楽しくて、どきどきして………。


 僕が抱く感情の名前はまだわからない。でも、今までぼっちで本を読みながら過ごしていた僕にとって風花さんの笑みは、言葉は、僕自身が閉じていた世界を広げてくれたように感じたんだ。


 またも心が温かくなりながら彼女のことを考えていた僕は、はたと気付く。

 思い出すのは僕にシミュレーションを提案する際に言っていた言葉。



「"好きな人に恋する気持ちを実感できる"ということは、もしかして風花さん……」



 高校に入学から三か月も経つ。カースト上位である陽キャな風花さんはその容姿と話し方、誰にでも優しく接する事から『天使』と呼ばれて人気者だ。


 僕が彼女を気になるように、他の男子から好意を寄せられているかもしれない。でも、もし風花さんもそれと同じような感情を誰かに対して持っているとしたら?


 つまり、何が言いたいのかというと。



 ―――好きな人が、いるのだろうか。



「いるんだろうなぁ……」

 


 少しだけ、心に風が吹いた。そのもやっとした感情がなんだか僕を惑わすような感じがして、そっと蓋をする。


 だがそう考えると色々合点がいくのだ。

 僕に風花さんが最近よく僕に話しかけてくる事も、シミュレーションを提案してきた事も、きっと風花さんが好きな人の為の練習台。


 僕ならば、何があった場合でも彼女自身の評価には影響しないから。



「ってぇ、あぁぁーーもうっ!! もしそうだとしたらなんだよ。隣になっただけでこんな僕に話しかけてくれたんだからそれで良いじゃんか。………よし、これからはラッキーなことだと思って、話してくれた風花さんの為に全力で付き合おう!」



 僕としたことが、自分から底なし沼な暗黒面にダイブしちまったぜ……。ポジティブ、ポジティブに強く生きるんだよぉ僕ぅ!!

 ネガティブに陥りやすいのが僕の悪い癖!!



「うん。そう考えたらあんな可愛い女子と席が隣で、会話できる機会があるんだから十分役得だよね! 寧ろ天使に尊敬以外の感情なんてナンセンスだ!!」



 もしそうなったら、いつか夢に神様が降りてきて『処す?処す?』って聞いてくるに違いない。

 彼女がときどき頬を赤らめるように見えるのも、そういう勘違い・・・・・・・をしてしまう僕の心が未熟なせいだろう。



「ようし、月曜日から風花さんの為に平常運転で頑張るぞい!!」



 僕は気合を入れながら早めに寝ようとベッドの中に入るが、隣からまたもドンッ、という音が聞こえた。


 ………ドラミングうるせぇぞ御姉様クソあね!!!



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