修学旅行ニ日目は長崎観光だがなかなか濃い内容だった
さて、福岡のホテルで一泊したら、翌日は博多から国鉄の長崎本線を利用して、特急の”かもめ”で長崎へ向かう。
電車での移動時間は2時間ちょっとだから、電車の中でトランプなんかをしたりしていればすぐだ。
まず向かうのは長崎原爆資料館や平和公園。
日本で原爆が落とされたのは広島と長崎の二箇所だ。
本来の優先目標は福岡県小倉市の陸軍小倉陸軍造兵廠で、第二目標が長崎市の工業地帯であったが福岡県小倉市での爆撃に失敗したことで、急遽目標は長崎に切り替えられた。
そして長崎には海軍の重要な軍港である佐世保があった。
長崎の投下された原爆はプルトニウム239を使用する原子爆弾「ファットマン」で、広島に投下されたウラン235の原爆「リトルボーイ」の1.5倍の威力があったが、長崎市は周りが山で囲まれた特徴ある地形であったため、熱線や爆風が山によって遮断された結果、広島よりも被害は軽減された。
だが、最初の標的であった小倉市に投下されていた場合、周囲は平坦な土地が広がり、本州と九州の接点に位置する場所でもあるために、関門海峡とその周辺の北九州市一帯と下関市まで被害は広がり、死傷者は広島よりも確実に多くなっていた可能性が高い。
当初は原爆の優先目標は、京都と広島でその次が横浜と小倉・長崎だったが、京都には舞鶴、広島には呉、横浜には横須賀、長崎には佐世保と日本海軍の主要な軍港が近い場所に定められたのは日本の継戦能力を奪うためにも当然だったのだろう。
もっとも横浜に対しては通常空襲を行うために、原子爆弾の投下目標からは真っ先に外され、当初は4つの第一候補地とされていた京都は、フィリピン総督時代に京都を訪れたことのある陸軍長官の強い反対や、京都の破壊は日本国民より大きな反感を買い、統治に支障が出る可能性が高いということから、京都への原子爆弾投下も除外された結果、小倉・長崎と広島になったわけだ。
そして広島に続いて長崎に落とされた原爆は、浦上地区の酸素魚雷製造の工場の直上で爆発し、付近一帯を壊滅させた。
浦上天主堂では原爆投下時に告解を行っていたが、その場にいた全員が即死し、長崎医科大学でも大勢の入院・通院患者や職員が犠牲となった。
もっとも長崎では被爆建物の保存よりもその復興を優先的に実施したため、広島の原爆ドームのような被爆の状況を視覚的に理解できる遺構は極めて少ないため、長崎の原爆被害は広島に比べて認識されづらい状況であった。
で、原子爆弾の爆心地と、その北側の丘の上とを含めた地域に、平和を祈って設けられたのが平和公園で、その中に建てられたのが平和祈念像だ。
同じ公園には長崎原爆資料館があり、その館内には折れ曲がった工場の鉄骨や爆心地側の部分が熱線により焼けた橋げた、原爆投下で時が止まったままの「11:02の時計」など当時の様子がわかる被爆資料が展示されている。
「まったくもって戦争なんてやるべきじゃないよな」
俺がそう言うと斉藤さんはうなずいた。
「そうね。
でも、結果的にそれまでの欧州による植民地支配構造が崩れたのは良いことだとは思うわよ」
「まあたしかにな」
もっともそういった事もあって、日本は警戒されることになって、実質的にアメリカにその後も支配されて続けているわけだからいいとことは言えないが。
他国に侵略されないためには、相応の軍備も当然必要だとは思うのだが、米軍の存在もあってなかなかうまく行っているとは言えない状態だしな。
それから向かったのは軍艦島。
正式な名前は
端島炭鉱は良質な強粘炭が採れ、隣接する高島炭鉱とともに、日本の近代化を支えてきた炭鉱の一つであったが、1960年以降のエネルギー革命により衰退し、昭和49年(1974年)に閉山し、現在は無人島だ。
現状では島全体が三菱の私有地であり上陸することはできないので、その外観を眺めるだけだが、石炭産業の衰退はやはり日本経済に大きなダメージだったと思う。
「やっぱり石炭から石油への転換で全面的にエネルギーを海外に頼るようになったのは良くないよな」
俺がそう言うと北条先輩がうなずいた。
「現在買収交渉を進めている尖閣諸島沖の海底油田などから、石油を得ることができるようになればだいぶそれも変わりますわね」
「ああ、それにやっぱり木質ペレットの普及も大事だよな」
俺がそういうとやはり北条先輩がうなずいた。
「木炭に代わる新たな使いやすい燃料を自国内で普及させるのは大事ですわね」
それから長崎市内へ戻って、ちゃんぽんや皿うどんといった長崎名物の昼食をとったあと、大浦天主堂を見にいく。
大浦天主堂は長崎にあるカトリックの教会堂で江戸時代幕末の開国後、元治2年(1865年)に建立されたが、日本に現存するキリスト教建築物としては最古のものである。
なんせ江戸時代ではキリスト教は禁教だったからな。
じゃあなぜ江戸時代にキリスト教が禁教扱いされていたかといえば、カトリックの宣教師は当時のスペインやポルトガルの侵略の尖兵であったことや、奴隷売買を行っていたこと、神社仏閣を破壊したことなどがある。
狭義の意味での日本でのキリスト教に対しての禁教令は、慶長17年(1612年)に江戸幕府が発令したものであるが、天正15年(1587年)には豊臣秀吉がバテレン追放令を出しているし、永禄8年(1565年)には正親町天皇が京都から宣教師を追放するバテレン追放令を出している。
国家神道の大元締めである朝廷がそういった物を出すのは当然といえば当然なのだが、足利幕府や三好政権、織田信長によるカトリック教会の保護政策もあったためにほとんど効果はなかったようだが。
江戸幕府は当初は海外貿易を継続するためにキリスト教に対して、弾圧と呼べるような政策はとっていなかったが、幕府の支配体制に組み込まれることを拒否し、かつ活動は活発化していったキリスト教に対して幕府は次第に態度を硬化させていった。
キリスト教の教えが日本の封建制に合わない教えだったことも禁教の理由だろう。
さらに日本との貿易権を狙う新興国でプロテスタント国のイングランドやオランダの存在や、寺社仏閣を破壊された神仏勢力の抵抗活動もあった。
神道や仏教を絶滅させたいと切望したルイス・フロイスは伊勢神宮について天正13年(1585年)8月27日の書簡”我らの主が彼(キリシタン大名で伊勢の国の領主になった蒲生氏郷)に、天照大神を破壊する力と恩寵を与えるだろうと、我らは期待している”と送っているくらいだ。
朝廷の権力を自分が日本を統治するために必要としていた豊臣秀吉がキリスト教への態度を硬化させた理由の一つでもあり得ると思う。
江戸時代に入り徳川家康が江戸幕府を開いた後の慶長14年(1609年)にマードレ・デ・デウス号の事件が発生し、その事件処理を巡って当事者でありキリシタン大名として有名でもあった有馬晴信と目付役で同じくキリシタンであった岡本大八の収賄事件が発覚すると、この事件をきっかけとして幕府は慶長17年3月21日(1612年4月21日)に江戸・京都・駿府を始めとする直轄地に対して教会の破壊と布教の禁止を命じた禁教令を布告した。
さらに、戦国時代には人身売買、要は日本人を奴隷としてポルトガル商人が買い取って外国で売るということを、キリスト教の布教を認可した大名の領地の多くで行っていて、大友・大内・三好といった大大名も例外ではない。
無論当時と、幕末頃で、現代では奴隷制度や人身売買に対する認識は全く違うけどもな。
で大浦天主堂の正式名は日本二十六聖殉教者天主堂で、日本二十六聖人に捧げられた教会堂で、慶長元年12月19日(1597年2月5日)に豊臣秀吉の命令によって長崎で磔の刑に処された26人のカトリック信者のために作られたわけだ。
しかし2000年代には1832年に英国国教会とバチカンによって設立・運営され1970年に閉鎖されたモホーク研究所の寄宿学校内によるカナダにおけるモホーク族の子供達5万人以上の敷地内の集団墓地が発見され、大量虐殺が明らかになった事などキリスト教の危険性は近代でも変わっていなかった。
また2000年代にはキリスト教の運営する孤児院や学校、神学校などでの性的虐待が全世界的に行われそれは日本国内でも行われていることもわかっている。
そういった背景を理解もせずに殉教だと言うのはどうなのかと思うのだが。
しかも歴代の法王はそういった報告を受けながら特に対策をとらずにいてテレビやネットなどのメディアで取り上げられ大問題に発展したことでようやく重い腰を上げたというのが実情だ。
全世界に根を張っているキリスト級の闇は深いのだ。
その後はトーマス・グラバー別邸跡や出島などの観光をして、その周辺の石窯工房でカステラづくり。
「カステラ作り、すごく楽しみですね」
今まで甘いものを余り食べることが出来なかった浅井さんは特にカステラ作りを楽しみにしていたみたいだ。
「ああ、そうだな」
カステラ焼き体験は一人一本のカステラを作成するが、まず用意された材料の計量から始まる。
「計量をちゃんとやるのは美味しいカステラとかケーキを作るには大事なのだよな」
俺がそう言うと浅井さんが真剣な表情になった。
「そうなのですか?
じゃあきっちり測らないと駄目ですね」
それからボウルに食材を混ぜ入れて生地を作り、それを底にザラメが敷き詰められた型に流しいれて、石窯で20分ほど焼いたら完成。
そしてお待ちかねの試食。
「ん、すごく甘くて美味しいです」
カステラを試食してぱあっと笑顔になる浅井さんに横山さんなどもつられて笑顔になった。
「ちーちゃんは本当甘いものが好きだよね」
「え、えへへ、うん、甘いものは大好きだよ」
芦名さんや佐竹さんも同じようにカステラをすごく美味しそうに頬張っているな。
そしてバスで移動して雲仙温泉の温泉ホテルで一泊。
やっぱり温泉はいいなと改めて思ったよ。
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