色々買収が進んだな、国産ファンタジーTRPGとTCGの企画を進めようか

 さて、9月中旬になると大学の夏休みも終わり、西ドイツへ行っていた明智さんのお兄さんが日本へ帰国したし、島津さんと毛利さんも職場に復帰した。


 そして北条先輩から良い報告があった。


「以前にお話していた野球やプロレスに関しての実在する球団のチーム名や団体名、選手のデータを使ったゲームですが、どちらも協力が得られそうですわ」


「お、それはいいね」


「一応全国放送であるキー局のテレビto-kyo系列を買い取れたことで、特にプロレス団体とはかなり深いつながりができましたので、それが功を奏しましたわね」


「ああ、テレビto-kyoはプロレスの放送をよくやっているからな」


「野球に関してもテレビto-kyoに一定の影響力があるのが良かったですわね」


「じゃあ、プロレスゲームの開発に取り掛かりたいところだけど、俺たちが今から新しく開発するのは効率が悪いし、すでにホムコンでプロレスゲームの販売実績のあるゲーム開発会社のメンシュを買い取るか、それが無理そうなら下請けとしてあっちに企画を流そう」


「わかりました。

 ではその方向で行きましょう」


 ”前”におけるメンシュは昭和58年(1983年)に設立され、ホムコンのゲームソフトの受託開発などを手がけた後、平成元年(1989年)自社ブランドタイトルとなる『バーニングプロレスリング コンビネーションタッグ』をリリースし、その後バーニングプロレスリングシリーズおよび平成2年(1990年)に第1作が発売されたポジションサッカーシリーズは2大看板タイトルとなったほか、ホラーアドベンチャーの時計塔シリーズや、黄昏時シンドロームシリーズなども人気を博し、スーパーホムコン時代には結構有名なゲーム会社になった。


 ただ色々手を広げすぎた結果、平成10年(1998年)にアーケードゲーム事業から撤退した際には大幅な赤字を計上して、平成12年(2000年)に再建を断念し破産しているが結構もったいないと思うからできれば買収して取り込みたい。


 実際今年にホムコンの陣天堂名義で出した「プロレス」はディスクシステムの名作の一つと言われなかなか評判がいいしな。


「またガンガン・マジンダー・ゲットダゼロボのテレビto-kyo系列での再放送権利や広告会社の東創通とアニメスタジオの日本サンライスも買い取れましたわ」


「あ、それはありがたいね。

 これでテレビto-kyoでサンライス系アニメを再放送できるし、スペシャルロボット大戦に出せる作品も一挙に増えるよ」


 三好くんもかなり嬉しそうだ。


「どのロボ作品からスペロボに出すか悩みますね」


 三好くんの言葉に俺はウンウンとうなずく。


「そうだな、ロボそのものの参戦もそうだし、シナリオに絡ませるようになればありがたい。

 ただどっちも作品が増すぎると収拾つかなくなりそうだから、参戦作品は少しずつ増やしていこうぜ」


 嬉しそうにうなずく三好くん。


「そうですね」


 それに対してため息を付いたのは斉藤さん。


「これからはシナリオやバランスの調整がもっと大変になるのね」


 まあ斎藤さんの気持ちはわかるけど、冷静にシナリオを見られる人の調整も必要だからな。


「本来は嬉しい悲鳴、ではあるのだけどね」


 版権に関わることは本来かなり面倒でなかなか参戦できない作品が結構多かったりもする。


 そして北条先輩が話を続ける。


「タカイトクトイスでブラックゴーストのプラモデルを作って、模型誌に記事を載せる手筈が整いましたわ。

 やはり、雑誌で紹介してもらっての相乗効果を持たせるのは大事ですからね」


「そうなのだよな。

 どうしてもテレビCMだけだとカバーできないところもあるし」


 サンシャインとそのローンチタイトルのゲームソフトは、すでにテレビto-kyoのTVCMで宣伝はしているが、ゲームのせいでテレビ番組やCMを見ないという世帯が増えているというのも皮肉なことではある。


 またこの頃はメディアミックスと言うと門川の小説の映画化が目立つが、アニメのゲーム化も相乗効果を十分期待できるからな。


「またヘックスの買収もできました」


「おお、それもいいね」


 ヘックスにライジングのオリジナルハードで大作RPGのFFFファイナルファイトファンタジーを作らせたらきっとヒットするだろう。


 プログラミングはナセルさんに手伝ってもらってもいいしな。


 まあそれはそれとして他のゲームの開発なども進めないといけないけど。


 俺はまず島津さんに言う。


「島津さん、桃の子太郎討鬼電鉄もいろいろな施設を追加した上で、うちのオリジナルハードへ移植して来年には発売したいですね」


 俺の言葉に島津さんはうなずいた。


「ああ、そうだね。

 あの手のゲームなら読み込みが遅くてもあまり問題はないのもいい」


 そして次は毛利さんに言う。


「毛利さんはプリンセスプロデューサーが完成したら男の子バージョンもお願いしますね」


「ああ、了解だよ」


 そして俺は明智さんと明智さんのお兄さんへ向かっていう。


「明智さんのお兄さんは明智さんと一緒に日本向けのファンタジーTRPGデザインを優先して、以前からお願いしているTCGのデザインも進めてください」


 それを聞いて首を傾げている二人。


「日本向けのファンタジーTRPGデザイン?」


「どういうことっすか?」


 むむむ、もうちょっと具体的に言わないと意味がわからないか。


「ああ、海外のTRPGって地下迷宮龍なんかを考えても、最初は基本的に死にやすいし魔法使いとか僧侶の魔法がすごく使いづらいので、ドラクレなんかになれている日本ユーザーには敷居が高いんですよね。

 実際に現在邦訳している魔法石探索なんかはやっぱり日本にはちと馴染みにくいかなって思います。

 クトゥルフの呼び出しはああ言う世界観だからPCが死にやすくてもいいんですけど」


 ちなみに今年は小説の首輪物語をもとにした、首輪物語TRPGが発売されているがこれがまためちゃくちゃ死にやすかったりする。


 俺がそう言うと二人は納得したようだ。


「なるほどたしかにそうかもね」


「確かにドラクレに比べると地下迷宮龍の魔法使いはかなり大変っすよね」


 ある程度理解してもらえたようなので俺は話を続ける。


「あと、ボックスだと専門ゲームショップがある都市部以外ではかなり入手しづらいですし、やはり文庫でルールブックは出したいですね。

 基本システムは、メインクラスとサブクラスを組み合わせる事ができるマルチクラス制で乱数発生には6面ダイス2個だけを使用するようにしましょう」


 俺がそう言うと明智さんのお兄さんがうなずいた。


「そうだね、間口を広めるなら6面以外の多面体ダイスはなかなか入手しにくい所も多いし、その方がいいだろうね」


「俺たちはボードゲームが売っているような専門ショップが近くにありますから、普通に入手できますけど大抵はそうじゃないですからね。

 それにボックスはやはりちょっと高すぎると思います」


「まあ、箱を開けたらペラペラなルールの冊子がちょっと入っているだけとかも多いからね」


 そこへ明智さんが聞いてきた。


「桃の子太郎討鬼伝説TRPGと同じような感じ、じゃあ駄目っすか?」


 俺は明智さんの言葉にうなずいた。


「桃の子太郎討鬼伝説TRPGでは基本的にはわかりやすさを優先するために勇者や剣士、忍者、巫女、陰陽師と言った固定クラス制で10面ダイスを2個使う100%ロールの下方判定にしたね。

 でも今度のシステムは違うようにしたいんだよね」


 まあ目指す所は”前”の日本TRPGの覇者の”剣の世界”なんだけどね。


「まあ確かに10面ダイスを2個ずつプレイヤーやゲームマスター全員ないといけないっていうのは結構きついかもしれないっすね」


「それと桃の子太郎討鬼伝説TRPGでは魔法の種類そのものが少なかったし、戦闘に関する魔法ばかりだったけど、通常行動で役に立つ魔法とかも加えたいんだよね」


「なるほど、それもそうっすね」


 ”前”ではTRPGのルールブックなどがどんどん売れたのは平成3年(1991年)か平成4年(1992年)くらいまでで、そこを頂点にTRPG関連商品の売り上げは年を追うごとに右肩下がりでどんどん下がっていった。


 その原因は、それまでのTRPGルールブックの粗製乱造もあるが、昭和63年(1988年)2月10日に発売されたホムコン用ロールプレイングゲームの『ドラゴンクレスト3』が社会的現象になるほどの影響がありTRPG人口の流入が減ったこと。


 平成元年(1989年)に剣の世界が発売されて人気が集中したこと、平成5年(1993年)にTCGのMTCマジックザキャスリングが発売されて、翻訳してゲームを遊ぶということが苦にならない古参TRPGプレイヤーがそっちに流れ平成7年(1995年)には日本語訳版もでたこと。


 さらに、80年代後半にTRPGを始めた高校生や大学生が就職してしまうと、一日集まってセッションするのが困難になったこと、バブル経済が弾けてそもそもそれどころではなくなったこと等色々だな。


 これはこの頃まで盛んだったPBMや雑誌の読者参加型企画も同様だったりする。


 でまあ、TRPGルールブックとして剣の世界が大成功した要因は、サイコロが6面ダイスだけで良かったことに加えて、キャラメイクもダイスを振って決めればいいので、ポイント割り振りやクラス選択などに時間がかからないことで、コンベンションでも使いやすいルールだったこと、リプレイやシナリオ集・ワールドガイドが沢山ありどのように話をすすめればいいか、どのような世界なのかゲームマスターにもプレイヤーにも理解しやすかったこと、公式シナリオも多かったのでゲームマスターがシナリオを用意するという苦労が比較的少なかったこと等があるだろう。


 つまるところ剣の世界並みに世界設定を構築してリプレイ集やシナリオ集・ワールドガイドを充実させある程度初期キャラでも派手に魔法を使えて、キャラメイクが楽なシステムというのが理想ということ。


 ではあるのだがもうそこまでするなら剣の世界とその後の人気ルールのアリアンフロドのルールをうまくパクって、いらないかなという部分は切り捨ててしまったほうがいいと思うんだよな。


「とりあえずゲームシステム的なところの骨子はある程度俺がまとめようと思うんで、世界設定なんかを二人にはメインでやってもらいたい。

 できれば桃の子太郎討鬼伝説のTRPGと世界自体は一緒にして地方が違うという状態にしたいね。

 桃の子太郎討鬼伝説は当然日本だけど、ファンタジーの方で想定する場所はアメリカ大陸とか。

 もちろんゲームシステムの細かいバランス調整なんかには二人の力が必要なんだけどな」


 同じ世界だけど地方によって文明とかが違うというTRPGシステムは結構あるしな。


「ん、じゃあそれで行こうか」


「わかったっす」


 TCGについてはまだ焦らなくてもいいだろうと思うから、まずはTRPGの市場を押さえることを優先しようか。


 なんだかんだTRPGは息の長い市場になるのも間違いないので、後にまで残るルールにするのは大事だからな。

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