閑話:浅井久子の決意
私の人生は長い間絶望とともにありました。
園長やその家族は「体罰は、創立以来の伝統」と公言し、それこそビンタ、ケリは当たり前。乾燥機に入られて死んだ子もいましたし、わたしも下着だけの姿で廊下に立たされたりしました。
でも、それはもうどうしようもないことと諦めるしかありませんでした。
”私たちは何のために生れてきたのだろう。
こうやってここでひたすらにいじめられるために生れてきたのだろうか?
親に捨てられた子どもなんだから、誰も助けてくれないのはしかたないのか?”
と、いつも怯えて泣きながら私達は話していました。
そのような状態から私達を救い出してくれたのは私と同じ年齢の前田くんでした。
園長が過去の悪事がバレそうになって姿を消し、その後施設の管理権限をゆずられた時には一体どうなるのだろう、今までよりひどいことになるのだろうかと絶望したのです。
でも実際は反対にその後の生活はぐっと良くなったのです。
夕方5時の食事に集まり、中高生でも夜8時には必ず消灯し、外出は禁止のためによその子と遊ぶことが出来なかったことも改善されました。
ちゃんとした食事をたべられるようになり、まともに学校の行事に参加できたり、きれいな普段着や制服を揃えてくれたり。
園長の虐待をなんとかしようとしておいだされて教護院に送り込まれた子たちもここへ戻ることが出来ました。
それはそれはみんな喜びました。
冬の暖房もちゃんとつけてもらえ、コートや手袋マフラーなんかの防寒具もみんなに揃えてもらえましたし、ホムコンやSAGAマーク3などのゲーム機をみんなでかわりばんこに遊んだりも出来るようになりました。
さらには全国から古着だけでなく新品のコートやセーターなどの防寒着や普通の衣服、ランドセルやカバン、積み木、パズル、野球盤や人生ゲームなどのおもちゃ、絵本や本などが園に寄贈され、現金での寄付も多額に上ったことで私達はそれまでとは全く違う普通の生活を出来るようになりました。
皆が泣いていた施設はみんなが笑顔でいられる場所に変わったのです。
そして高校へ行けていなかった私達30人ほどは前田くん同じ学校へ高校一年として行くことになったので寄贈品を持ってきてくれた彼に私はお礼を言ったのです。
「こ、この度は本当にありがとうございました。
皆様のおかげでたべられるものが美味しくなったり新しいお洋服を着たり綺麗なランドセルを背負えて何よりこれからは蹴られたり殴られたりバリカンで髪の毛をそられることなどもないとみんな喜んでいます」
彼は微笑んで言いました。
「うん、それは良かった。
なにか不都合なことがあったら言ってくれれば俺たちで対処できそうなら対処するよ」
と。
「あ、はい、本当にありがとうございます。
よ、よろしければ私にもお仕事を手伝わせていただければと思います」
そうしたら彼は唐突に言ったのです。
「じゃあ、今考えているアーケードゲームのヒロインの声を当ててもらおうか」
「ひ、ヒロインの声ですか?
わ、わたしが?」
まさかそんな事を言われるとは私はまったく思いませんでした。
でも救ってもらったお礼をなんとでもしたい私は決意したのです。
「う、うう、はい、一生懸命がんばります」
「そう言えば名前を聞いてなかったっけ。
俺は前田健二だ」
「私は浅井久子といいます。
どうかよろしくおねがいします」
そしてその後、ボイストレーニング、ダンスレッスン、お芝居の練習などを一生懸命しました。
そして私はジュエルス2もメインヒロインの声を入れ、超時間要塞マックロデス2のリンカ・レイ役をオーディションで手に入れました。
実は戦災孤児で当時の記憶を全て失っている、中華料理屋で働くアイドルに憧れる普通の娘が、その歌の魅力でトップアイドルへ上り詰めるというキャラクターですけど絶対にうまくやってみせましょう。
岡畑有希子さんや島津紗栄子に負けないように。
私を、私達をあの地獄のような状況からから救い出してくれたあの人のために。
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