舞浜のアレと学校の遠足や修学旅行
一方その頃、舞浜のテーマパークへ来ていた四人はその独特の世界感に浸っている多くの客に圧倒されていた。
「ふう、ここはいつ来ても異世界という感じがしますわね」
北条会長がそう言うと朝倉が首をかしげていった。
「いつ来てもって何度も来てるんです?」
北条会長は苦笑しながら言う。
「学校の遠足などで利用するようにと、旅行会社の人間が接待に理事などの関係者をここへ連れてきたりするんですわ。
何百人という生徒が入ればそれだけで大きいですからね」
北条会長の言葉に納得がいったように頷いたのは斉藤。
「ああ、なるほどそういうことなのね」
斉藤がそういったことに浅井が首を傾げた。
「そ、そういうことっていうのはどう言うことなのでしょうか?」
「ここの入場者数が多いのは、旅行会社が学校に遠足や修学旅行の行き先に勧めているからと言うのもあるのだと思うってことね」
「ええ、そうですわね。
もっともそれは別に悪いことではないと思いますけど。
そうしなければ潰れてしまう可能性もありますもの」
「なら、谷津遊園でも同じことをすれば良いようにも思えるけど」
「電鉄と不動産という資金力をもつ所と札束の叩き合いで旅行代理店の行き先争いに勝てるわけがございませんわ」
「なるほど、そういうことなのね」
「今の私達とは資金力で二桁は違いますもの。
それこそ蟻と巨像以上の差ですわよ。
そして修学旅行では一つの学校に対して何千万という金額を取り扱うこともありますわ。
もちろん学校割引で地元の旅行代理店などに学校遠足を勧めてもらうことは出来ますけども、それで投資したお金に対して十分な入客が見込めるかは微妙ですわね。
多くはこちらを勧めるでしょうし」
なおバブル期からその直後は旅行代理店による中学校高校の修学旅行の宿泊費、取り扱い料金などは大手旅行代理店の談合で決められ、ホテル旅館代の2重価格で利益を上げ、一つの学校を数社で交代のローテーションで担当し、学園の担当教師に対しての呑ませ食わせの接待も常態化しており、旅行中は夜の店、終了してからは反省会と称する宿泊を伴う宴会を行っていたともされる。
最もバブル期に海外旅行に行ったりなどして交通費が膨れ上がるばかりになり、世間の目も厳しくなるとそういったことも行われなくはなったようだが。
「そんなことまでよく考えられるわね」
「ただお金をつぎ込めば戻ってくるわけではございませんもの。
ちゃんと考えて行動しなければお金は残りませんのよ」
「単なる銭ゲバ女ってわけじゃないのね。
少しだけ見直したわ」
「そこはちゃんと見直してくださいませんかしら?」
そんなやり取りをしながらもアトラクションを体験したりなどもするが、実際にここの人気の理由である独特の魅力はキャラクターたちや売店、アトラクションまで統一された世界観で、アトラクションに乗らなくても、パーク内を歩いているだけでもその雰囲気は十分伝わってくるし、エリアごとに違う雰囲気が味わえ、パーク内からは外の景色が見えないことで非日常の中に二つ上の風景が入り込むことで、それが壊されるということもないということにある。
この頃のバイトの給料としての900円スタートというのはかなり高く、それだけにスタッフの離職率も低くキャストもやる気があっって、なにか聞かれたときに「分からない」という言葉を絶対使わない、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」が基本で「いらっしゃいませ」とは言わずゲストがスタッフとのコミュニケーションを取りやすいように考えている、パーク内にはたくさんのゴミ箱が設置されているので売店で何かを買っても、ゴミをすぐにゴミ箱に捨てられるようになってもいるが、15分に1回掃除をすることを基本にしているために場内にはゴミひとつ無いなどは徹底して見た目にもこだわっていることなどもある。
「流石にいろいろ徹底して考えられてますわね。
お金もめちゃくちゃかけてはいますけど、これも人気の秘訣のひとつなのですわね」
「確かにここまできれいな遊園地は他にないです」
「デパートのトイレとか汚いものね」
「そ、そうなのですか?」
もっとも2010年代後半には大阪にできたテーマパークに勢いで抜かれて集客数も減り、業績が低迷していて、これはスタッフの時給が1000円から上がらず、スタッフのサービス低下や離職率の上昇に加えて、変わらないメインキャラクターのマンネリ化やパレードの良い場所を占領してしまうコアなファンに対しての新規客の失望によるリピート率の低下、酒が販売できる方での学生服のゲストに対して年齢確認を行わずに酒を販売することが平気で行われ、未成年が飲酒や喫煙をしていてもキャストが注意することはほとんどなく、面倒を避けたいリーダーや社員も見て見ぬふりをして注意しないという夢の国をぶち壊すような状況も起きていたのもあるが。
「売店でもここでしか手に入らないという希少価値があることが良いのでしょうね」
「それは強いわね」
京都などの土産物屋などではなんだかどこにでもあるようなものしか置いていなかったのとは対象的に、ここはここでしか手に入らないキャラクターグッズなども多い。
最もここからでたら恥ずかしくてつけていられないというようなものも多いが、この中ではそういった物を付けても違和感がないように配慮もされているのであるし、そういった物をつけている他の客を見れば自分も買いたくなるというのが人間の不思議なところでもある。
クラブ13で特別な雰囲気での食事をしたりしてからエレクトリカルなパレードや花火を見て、テーマパークを後にする四人。
「資本力が違いすぎてまったく参考にならない所も多いですが、参考にするべきところもありますわね」
北条会長がそう言うと朝倉が頷いた。
「挨拶の仕方とか、ゴミ箱の多さとか綺麗さは見ならうべきです」
斉藤も同じようにうなずきながら言った。
「それにセイント・リオを扱うところは他が見えないようにしたほうがいいわね」
浅井は残念そうに言う。
「ま、待ち時間が長すぎて少ししかアトラクションに乗れなかったのは残念です」
その言葉に北条会長は頷いた。
「そうですわね、そしてそれが最大の問題でもあると思いますわ」
何れにせよ意見交換は後日皆が集まった時に行なうことになるだろう。
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