鬼怒川温泉の物件も買っておくか、だいぶテコ入れは必要そうだけど

 さて、福島の各地にある温泉地を中心に旅館巡りをしてそれぞれで経営状態が悪いけど、旅館の建物の立地やサービス自体は悪くない温泉旅館の購入はしようと思う。


「なんだかんだで、福島の旅館も温泉も悪くはないんだよな。

 ただ東京からだと遠く感じるだけで」


 俺がそう言うと会長は頷いた。


「そうですわね。

 買い上げて伊東と同じようなテコ入れをして個人客や少数のグループ客に的を絞ればいけると思いますわ」


 しかし斉藤さんは首をかしげて言った。


「でも、どこも同じような料理では保養所として複数持つのはどうかしら?」


「たしかにな、海側の旅館は海の幸をおしておくのがいいと思うけど、山側も同じだとちょっとあれかもな」


 そこへ朝倉さんが言った。


「なら、会津東山温泉は喜多方ラーメンもあつかったらどうです?

 喜多方ラーメンは全国的にもかなり有名です」


「お、そりゃいいかも。

 B級グルメっていうのもあえてありだな」


 更に最上さんも言う。


「会津は蕎麦も意外と有名らしいですよー。

 後は福島牛とかとりめし、わっぱ飯ですかねー」


「じゃあ、磐梯熱海はそれらにしゃぶしゃぶとかも加えるがいいかもな」


「魚の刺身ばっかりじゃあやっぱりあきるっすからね。

 子供向けにはハンバークとかもいいんじゃないっすか?」


 明智さんがそう言うので俺は頷いた。


「ああ、ハンバーグとかもいいかもな」


「福島は地酒や地ビールも有名だぞ」


 上杉先生はやっぱ酒か、でも福島は良い水と良いコメの組み合わせでなかなか旨い酒があるらしい。


「ああ、そういうのはちゃんと押し出しておくべきですね」


 将来的には宿泊設備を備えたレストランであるオーベルジュを小さめのホテルを買い取って改装しフレンチやイタリアンのシェフやパティシエを捕まえて開いてもいいと思う。


 実際”前”も将来的には美味しいものにこだわってもホテルならバイキングやビュッフェ、旅館なら会席で季節関係なく同じような料理というのが定番でどこも似たような料理ばかりだったはずだ。


 それでも美味しいならいいんだろうけどどうせなら季節の地場食材に徹底的にこだわった郷土懐石とかB級グルメとか地酒地ビールとかの、地元の味にこだわりたい。


 東京などの大都市圏の客は東京のレストランや料亭で食えるものをわざわざ旅行先で食いたいと思ってないだろうからな。


 そして今は会津線から野岩鉄道を経由して、東武日光線の鬼怒川温泉へ向かっている。


「まあゆっくりローカル線の車窓からいい眺めを楽しみながら移動するのも悪くないよな」


「たしかにそうですわね」


 将来的には観光列車でトロッコ席・お座敷席・展望席のすべてが揃っているお座トロ展望列車も走るんだけど、今は野岩鉄道は開通したばかりで、まだないのが残念。


 鬼怒川温泉は将来的には熱海や伊東を上回る、ホテル廃墟だらけの寂れた観光地と悪名を轟かせることになり、箱根や熱海は客足を回復させ、伊東もそれなりの数字で横ばいになるのだが鬼怒川はその後も客足がどんどん減っていった。


 例えば箱根はバブル期は550万人の宿泊客がいたが、箱根の火山活動が活発になった2015年に400万人を割り込んだが、その後450万人ほどに戻ったし、熱海もバブル期には440万人ほど宿泊客がいて、東日本大震災のときには246万人まで落ち込んだがその後、308万人まで回復した


 しかし、鬼怒川温泉はバブル期に341万人ほどの宿泊客がいたものの、その後のリーマンショックや東日本震災などで客足が減り続け、最終的には200万人を割り込んでいた。


 しかも月野リゾートや大東京温泉物語といったところが物件再生をおこないながらでもである。


 鬼怒川温泉がそのようになった原因はいくつかある。


 まず、江戸時代は鬼怒川温泉は日光詣帰りの諸大名や僧侶達のみが利用可能な温泉であったことがおそらく原因で、日光とも共通するのだが接客が妙に上から目線な態度だったり、硬直的で割高な料金設定を替えなかったのがまず1つだろう。


 またここも例によってバブル期は団体客中心の一泊宴会型の温泉地でとにかく多くの宿泊客を宿泊させればいい、飯なんてうまくなくてもいい、みたいな特徴のない個室に風呂やトイレがないホテルなども多く、食事もルームサービスがなくて大広間で食べるようなところが多くさらに、次にチェックインを早くしたり、チェックアウトを遅くしたりと言った柔軟な対応もなかったりすることで、バブル崩壊後の団体客の減少に対して個人客の増加の「客の変化」に対応することが出来なかったこともある。


 また鬼怒川温泉に乗り入れているのは東武鉄道だけで鬼怒川温泉にはロマンスカーで行けるので東武線沿線であればそれなりに行きやすいが、浅草が終点なためここから国鉄への乗り換えが不便であるのも問題なのだな。


 もっとも北千住駅では国鉄とつながっているし、亀戸線は亀戸駅で、野田線は船橋駅で国鉄とつながっているが、ロマンスカーの発着はあくまでも浅草が起点だ。


 これは箱根へ向かう小田急が新宿を起点にしているのと比べれば大きいハンデだと思うが、温泉以外のレジャーの多様化や円高に伴う海外旅行の一般化などに加えて、東北新幹線の上野までの接続で東北へのアクセスが良くなったことで相対的に鬼怒川のアクセスが悪くなったというのもある。


 さらには温泉なのに目立つのはでかいホテルばかりで、温泉街なのに温泉的な情緒がないし、鬼怒川ならではという地元の催しも、温泉卵や温泉まんじゅうと言った名物もないというのもある。


 このあたりは群馬の草津温泉とも大きく違っていたし、都内のスーパー銭湯・スパリゾートのほうがよほど温泉的な雰囲気を楽しめたりする。


 また熱海や伊東、箱根が関東だけでなく東海中京から、つまり東西の土地のどちらからも客を呼べるのに対して鬼怒川は北側には会津東山温泉などの温泉地が多いため南側からしか客を呼べないというのもある。


 さらに言えば鬼怒川温泉は温泉以外の観光要素が殆ど無い。


 熱海や伊東などは海水浴もできるし箱根であれば登山や芦ノ湖の遊覧などもできるし、福島の温泉地でも海水浴ができたり、会津若松や猪苗代湖、磐梯山と言った観光名所があるのに対して鬼怒川は温泉以外の観光要素が本当にほとんどなにもない。


 一応は龍王峡のような渓谷があって、スキー場が冬は稼働しているし、川下りや鬼怒川温泉ロープウェイもあるがどれもそんなにメジャーじゃないしな。


 九州の別府などはもともと中国や韓国にちかいこともあって外国客の受け入れを早くからやっていたらしいけど、関東の温泉はそういったのが遅れていたのも痛かった。


 とはいえ江戸時代からある温泉街だから古くからの情緒ある温泉旅館もちゃんとある。


 ただそれは目立たないだけだ。


「鬼怒川の旅館も一つくらい買っておいてもいいかな?」


「いいのではないでしょうか。

 知名度で言えばかなり高いわけですし」


「東部鉄道とタイアップしてきっぷと宿泊券のパッケージツアーをうつのもありか」


「そうですわね」


「食べ物は鮎とかニジマスみたいな川魚や山菜やキノコの天ぷらを押していくのもいいかもな」


 俺がそう言うと明智さんが言った。


「ニジマスの釣り場なんかもあれば面白いっすよね」


「ああそりゃいいアイデアだ。

 ついでに河原でバーベキューや花火もできればもっと良さそうだ」


「たしかにそうっすね」


 斉藤さんも言う。


「栃木のイチゴは結構有名らしいわ」


「じゃあ、それを使ったスイーツ、たとえばいちごパフェとかいちご大福とかを出すのも良さそうだな」


 なんだかんだでアイデアを出していってそれを実行すれば鬼怒川の旅行客も拾えそうだが、ブランド力はあるんだからそれを生かさないのはもったいないよな。


 今日は鬼怒川で一泊して明日は東武ロマンスカーで浅草へ移動して浅草観光だ。

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