伊東に続いて福島の温泉宿も回ってみようか、まずは海側のいわき湯本温泉から
さて、今年の夏休みはいろいろ忙しくてやるべきことはいっぱいあるが福島の温泉にも行っておかないとな。
「会長、福島の温泉宿の方はどんな感じかな?」
「福島の温泉宿も色々調べてみましたが、こちらは名所となる場所があちこちありまして、その数が多すぎて決めきれませんでしたわ。
いわき湯本と猪苗代湖周辺や会津若松などでいくつか宿をピックアップしましたので後は現地で確かめたほうが良いかと思いますわ」
「んじゃ、早速みんなで福島へ行こうか。
まずはいわき湯本温泉を目指そう」
俺がそう言うと斉藤さんがため息をついた。
「簡単に言うわね」
「え、準備できてないとか?」
「そういうわけではないけど、色々簡単に決めすぎではないかしらと私は思うわ」
斉藤さんがそう言うと朝倉さんや最上さんがウンウンと頷いている。
「まったくです」
「そうですよね~」
一方明智さんや浅井さんはそうでもないようだ。
「まあ、お金は会社からでるっすから自分は別にいいっすけどね。
兄貴にあちこちへ連れ回されてたから慣れっこっすし」
「こ、今度はどんなお宿なのか楽しみですね」
まあとりあえずは大丈夫だろう。
そういや女の子のスケジュール手帳ってすげえずっと先までぎっしり予定が決まっていたりもしたな。
「じゃ、じゃあ集合は京成船橋駅でまた朝7時でいいかな?」
「そこから京成線で上野まで行って、特急ひたちでまずは湯本駅まで行きましょう。
そこに常磐ハワイアンセンターもありますし、多くの温泉旅館もあるようですわ。
海水浴にもまだ間に合いますしね」
「ええ、私はそれでかまわないわ」
「わたしもいーよ」
「了解です」
「わかったっすよ」
「わ、わかりました」
「んじゃ、みんな京成船橋の上野方面行き踏切方面改札口で集合で」
そのことを上杉先生にも伝えて、京成船橋の上野方面行きの南側ホームの踏切側改札にみんなで集合。
「ここが噂の開かずの踏切っすか」
「ああ、京成線がひっきりなしに走ってるから自動車はほとんど通れないんだよな、ここ」
ここは平成18年(2006年)に高架工事が行われてそれまで京成線の線路の南北の人や車の流れを遮っていた踏み切りはこのあたり周辺からすべてなくなったが、それまでは自動車でここを通ると、めちゃくちゃ時間がかかったんだ。
船橋にららぽーとができても周辺住民は相変わらず駅前の商店街を使うことが多かったのは、それも理由の一つだと思う。
あと国鉄でなく京成を使うのはこの頃は常磐線が上野までしか行ってなかったから。
常磐線だけでなく高崎線とか宇都宮線とか東北新幹線も上野までしか来ていなくて秋葉原まで総武中央線で移動してまた上野で乗り換えはちょっと面倒だったからな。
京成線の特急に乗っている時間はやはり30分位なのであっという間だ。
ああ特急とか急行と言ってもあくまでも停まる駅が少ないだけで国鉄のような専用列車が走っているわけではない。
「さて京成上野から国鉄の上野へ乗り換えですわね」
「上野は動物園以外にも美術館とか東照宮とかいろいろ観光名所があるから見ていきたいところではあるんだけどな」
俺はそういうと斉藤さんがフッとため息をついていった。
「今は寄り道しているほど余裕はないわね」
「ああ、そうだなおとなしく特急ひたちに乗るとしようか」
上野から常磐線を走り特急ひたちに乗れば湯本駅までは2時間10分程度なので実は伊東へ行くのとさほど時間は変わらないのだけど、なんか遠いイメージがあるんだよな。
前と同じようにボックス席には俺・斉藤さん・会長・明智さんが座って、通路を挟んだ反対側に最上さん・浅倉さん・浅井さん・上杉先生が座ってぴったりだ。
で、上野駅の売店で買った駅弁の牛肉重やシウマイ弁当とかを食べながらみんなでトランプをして2時間ちょっとで常磐線の湯本駅に到着。
「あんまり乗り換えとかしなくていいのがいいな」
「そうですわね。
福島と言うととても遠い感じもしていましたけど、意外と近いですわね」
「だな、まずは常磐ハワイアンセンターに行ってみるか」
「ええ、買収予定物件の一つですわね」
ここは「日本にハワイを!」というキャッチフレーズで昭和41年(1966年)にオープンした結構古い施設でもある。
もともとここは常磐炭鉱を主な産業とする炭鉱の町で朝鮮戦争の戦争特需期にはかなり好況となったものの、1950年代後半には労働運動の盛り上がりによる炭鉱夫の給料アップによるコスト増や低価格な輸入石炭との競合、さらに昭和37年(1962年)の原油輸入自由化によって石炭から石油に燃料の主流が代わり、石炭業界は苦境に陥っており、常磐炭鉱の炭鉱夫の整理解雇は昭和30年(1955年)には既に始まっていた。
そこで炭鉱労働者やその家族の雇用の創出や常磐炭鉱の新たな収入源確保のため、炭鉱以外の新規事業を立ち上げることになった。
そして、このころには『日本人が行ってみたい外国ナンバー1』だった「ハワイ」に着目し、炭鉱では厄介物扱いされていた地下から湧き出る豊富な常磐湯本の温泉水を利用してハワイをイメージしたリゾート施設である「常磐ハワイアンセンター」の建設を計画した。
先行きを疑問視する声や根強い反対もあったが社長が押し切る形で事業を進め、昭和41年(1966年)にオープンするとまだまだ海外旅行は一般庶民には高嶺の花の時代であったこともあったし船橋ヘルスセンターのような健康ランド的施設が流行していたこともあって、大型温水プールを中心にした高級レジャー施設として人気を集めたが、70年代のオイルショックによって人気は失速して、1984年には赤字を出していた。
車で来るにはまだ常磐自動車道が近くまで開通していないのもあったし、ボウリング場やゴルフ場等のスポーツ施設や遊園地などに娯楽がシフトしていたのもあっただろう。
常磐線湯本駅で無料送迎バスにのって約15分で施設に到着。
ここは観光ホテルとレストハウス、温泉の熱を利用した熱帯植物園の「バナナ園」や露天風呂などの温泉施設や温水プール、冷水プール、後はアイドルや演歌歌手の歌謡ショーやファイヤーダンスやフラダンスショーが中心なので船橋ヘルスセンターほどあれこれやっているわけでもないようだ。
まずはプールで遊んでから昼飯を食べ、その後はファイヤーダンスやフラダンスショー見たが、室内のプールにある会場でとても蒸し暑くてそのあたりはもうちょっと考えたほうが良さそうなんだがな。
「うーん、蒸し暑くってたまらないが、これはプールに入りながら見ればいいってことか」
「そうかも知れませんわね」
しかしショーのレベルは結構高いな。
フラガールたちが日本人らしく白くて細いので本場の太くて黒いフラガールのような迫力はないかもしれないけどこれは日本人の好みに合わせてるんだろう。
あんまり売れてないらしいアイドルや演歌歌手の歌謡ショーも見てみたが、これはまあ、ちょっと古い感じはするな。
まあ歌謡シューは谷津遊園でもやっているけど、俺達はドラマやアニメ関係に枠を絞ってるし。
「ここもちょっとテコ入れすれば売れそうな感じはするな。
ある程度したら施設のリニューアルも必要そうだけど」
「そうですわね。
今のうちに安く買えるのであれば良い物件ですわ」
「多分行けると思うぜ、最近は入場客はずっと減ってるみたいだし」
というわけで会長のお買物リストに常磐ハワイアンセンターがピックアップされた。
実際に買収交渉を行なうのはまた後日だけど。
そして泊まる旅館は「しゃぼん玉」をはじめ数多くの童謡を作詞した詩人、野口雨情が大正3年(1914年)に痔の湯治のために訪れて3年間逗留したという宿で湯本駅のそばなのもポイントが高い。
いわき湯本温泉は常磐湯本温泉とも呼ばれ、月岡温泉、磐梯熱海温泉とともに「磐越三美人湯」に数えられているが、その開湯の歴史は古く奈良時代であるとされ、延喜式神名帳に基づく三古湯には道後温泉、有馬温泉、いわき湯本温泉3つが並ぶくらいなのだな。
「ここも露天風呂もあるみたいだし、有名人が宿泊してるっていうのはいいな」
「とは言えここも経営状態はあまり良くないようですわ」
「伊東でもそうだけど、やっぱホテルに客を取られているんだろうな」
「そうだと思いますわ」
緑に囲まれてとても眺めが良く湯加減もちょうどいい庭園露天風呂を堪能した後の夕食の献立は会席でメインの海産物が新鮮で美味い。
「うんやっぱ飯がうまいのはいいな」
「そうね」
その日は宿泊してここも買い入れ対象に決定。
翌朝は常磐線の湯本駅から常磐線各駅停車で磯原へ移動。
「ここの温泉は海が見える穴場温泉なのですわ。
穴場だけに人はあまり訪れませんが」
「へえ、それはいいね」
磯原二ツ島海水浴場で海水浴や綺麗な景色の海を楽しみ、海の家で昼飯を食ったあと、北茨城市歴史民俗資料館(‘野口雨情‘記念館)や‘野口雨情’生家を見て回る。
そして宿では海が見える温泉露天風呂を堪能して、味覚の方は夏の代表の岩牡蠣や、河豚刺しを堪能したし、旅館の部屋からも海が見えるかなり良い旅館だ。
「こんなに良い旅館なのに人気がイマイチとかもったいないよな」
「そうですわね」
ここも買い決定だな。
福島と言うと磐梯山や猪苗代湖や会津若松などの山側ばかりが注目されるけど海側にもいい場所はあるんだよな。
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