閑話:その頃のイザナミ様
冥界から自分が送り出した者がようやく成功を収め始めた様子を見た伊邪那美はご満悦であった。
「うむ、なかなかうまくやっているようではないか」
しかし、成功して高額なカネを手に入れた人間やそもそも周囲よりも金持ちだと思われている人間には、唐突に知らない親戚や不仲だった友人がすり寄って来たりすることもある。お金持っているんだからと理由を付けて、金品をねだったり、金を貸せと言い出したりすることもよくあるのだ。
金を得る前にはほとんど、もしくは関わりあいのなかった人間が、成功した途端に自分の周りをうろうろし出すこともある、金を掠め取ってやろうとするものもいる。
伊邪那美が前田健二やその家族などの様子をうかがっていると、大きな悪意を持つものの存在がいくつも感知できた。
「やれやれ、今も昔も変わらず、ろくでもないやつがいるようだな。
多少は蛆がたかるのは仕方ないが、悪意をもって近づく蝿のたぐいは皆殺しにするか」
その頃の健二の父は社用車で営業先から移動中であったが、唐突に道路に走り出て来て車の前に飛び出そうとしてきた人間がいた。
「なに?!」
「くくく、これで当面は病院でラクラクの生活だ」
健二の父親からたっぷり慰謝料を搾り取ろうとする当たり屋である。
「うわ、なんだ?」
しかし当たり屋の足元に漆黒の闇を思わせるどこまでも底が見えない穴が空くと、当たり屋はその穴へと転落しその穴の存在が消えると、当たり屋の存在自体がそもそも存在しなかったように健二の父は車を進めたのである。
「あたた、ここはどこだよ?」
一方の当たり屋は気がつくと女性らしい姿をしているが全身に蛆がたかり、頭・胸・腹・陰部そして両腕と両足に蒼白い蛇をまとった、とても強力な何らかの存在の目の前であった。
「うぎゃー! ば、ば、化物っだ!」
「ふん、今まで多くの人間を食い物にしてきたお前のほうがよほど化物であろう。
だが私が力を与えたものに手を出そうとした以上はただではすまぬと思うがいい。
奈落の底に落ち落ちて、永遠の責め苦で狂うことも死ぬこともできずに永遠に心身をさいなまれることになるのだからな」
伊邪那美は彼をさらに冥界のはるか下にある地獄へ突き落とした。
そこは無間地獄、盗みでも特に多額の金を盗んで他者を破滅させ、間接的に人を殺害したのと等しい罪を犯したものなどが落とされると言われる地獄である。
地獄でも最下層に位置し、まず地獄へ到達する前にそこまで落ち続けても2000年かかり、刀山でバラバラに体を切り刻まれては再生して、舌を抜き出されて100本の釘を打たれ、毒や火を吐く虫や大蛇に貪り食われて責めさいなまれるということを、349京2413兆4400億年、宇宙が誕生しそれが消滅するとされるまでの時間の間続けられるという。
この地獄に落ちた者は気が遠くなるほどの長い年月にわたって、およそ人間の想像を絶する最大の苦しみを休みなく受け続けなければならないのだ。
恐喝して金を巻き上げようとした不良、嫉妬して健二の上履きに画鋲を入れた男子上級生、嫌がらせに脅迫的な手紙を贈ろうとした男子上級生、ほとんど繋がりがない遠縁なのに両親などに金をせびろうとした者たち、健二と他の女性部員達の姿を撮影してスキャンダラスに写真週刊誌でそれを晒そうとしたカメラマンや、無知につけ込んで詐欺まがいの契約を結んで脱税をさせようと考えた税理士など、健二やその家族、そして部活動の仲間たちに危害を加えようとしたり、悪意を持って近付こうとした者たちは次々に無限地獄に落ちていき、その行為を永遠に近い時間に渡って悔やむことになるのだが、当然そんなことは健二たちにはつゆ知らぬことであった。
何れにせよこの伊邪那美バリアにより彼が他人の悪意によって肉体的、精神的、経済的、社会的に破滅するということはほぼなくなったわけである。
尚、伊邪那美は以前に日本を悪くしているものを皆殺しにすれば日本が結果的には良くなるのではないかと、少しでも日本を悪くしているであろうものを皆殺しにしてみたことがあったが、何度かやり直しても、むしろそれにより衰退が早まったので、そういった行動はもうやめているのである。
「人間とはよくわからぬものだ」
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