クリスマスは恋人と過ごす日になったのはごく最近

 あれこれやってる間に月も変わって12月になった。


 期末テストがあったがまあ今の俺には余裕で全教科満点だったよ。


 そして12月といえばクリスマスで、クリスマスソングの定番となるイギリスの音楽グループのワムウ! が1984年に「ファイナルクリスマス」を発表して大ヒットする。


 昨年の1983年12月に日本で発売されたクリスマスソングである緒方亜美の“ぼっちのクリスマスソング”なども流れてくるわけだけど、その後の山上達三の“クリスマスイブイブ”やボーズの“5日のメリークリスマス”などクリスマスソングはなぜか男が失恋するものが多いわけだが、それもそうなったら大変だと男女の狂騒を一層激しくさせたわけで、クリスマスは恋人たちのイベントが浸透したのは1980年代半ばくらいから。


 80年代後半から90年代初頭のバブル時代のクリスマスは恋人にとっては狂騒の一大イベントで、男性は3万円のディナーをおごるのが当たり前、人気のレストランを予約したければ半年前も当たり前、一晩3万ほどする赤坂プリンスホテルなどの高級ホテルのクリスマスイブ部屋の確保に奔走し、さらにこれまた3万はするティファニーやらカルティエなどの高級ブランドのプレゼントを用意して、“クリスマスは10万円近くのお金をかけて女性をもてなさなければならない!”と大学生や若い社会人の男たちは必死になっていた。


 クリスマスは夏の海水浴やバレンタインデーと共に男女にとって恋人を作るための勝負のイベントで、恋人たちにとって特別な一日になってしまった、この時期にはクリスマスには恋人と一緒に過ごせないやつは惨めという刷り込みがあったんだよな。


 もっともバブルが完全に弾けた2000年代は、クリスマスソングもクリスマスのドラマもヒットせず、恋人と過ごすクリスマスのイメージがかなり薄らいで、「草食系男子」などの流行語ができ、クリスマスだろうと女性と過ごしたいとか別に思わない男も急増した。


 街中とか店とかで流れてるクリスマスソングもバブル期とか90年代とかの歌ばっかりだったりする。


 2010年代のクリスマスになるともはや特別感は特になく、クリスマスには恋人と過ごしたいとか、クリスマスに恋人がいないと恥ずかしいなどという考え以前に、恋人自体がそんな簡単に自然にできるものではなく、無理して作るものでもないと男女ともにシングルベルも珍しくなくなり、クリスマスイブを高級レストランと高級ホテルで過ごして高級ブランドのプレゼントなんてやることは、ほぼなくなったわけだが。


 そうなったきっかけは、1983年に雑誌『アーン・アーン』や『ノーン・ノーン』などに“クリスマス特集 今年こそ彼の心をキャッチしよう!”と題した特集が掲載され、そこでは“クリスマスを彼氏と素敵なレストランで過ごして、そのあとシティホテルで泊まり、ルームサービスで朝食を摂りたい”と言い出し、これは昭和30年代生まれの“少女漫画世代”にガッツリ支持されて、そうしなければならないという雰囲気を作り上げたわけで、まあはっきり言えば広告屋に踊らされたわけだ。


 と、男性側はそれよりもだいぶ遅かったが4年ほどで、男性用の『プルート』や『ウインナードッグ・プレス』などで“クリスマスの過ごし方バイブル”などが特集されて、男もそうしないといけないという雰囲気に飲み込まれた。


 派手なクリスマスイルミネーションなどがもてはやされたのもこのあたりから。


 この当時はバブルで金を手に入れた人間も多かったしな。


 ちなみにそれまではクリスマスはプレゼントが貰えて、ケーキが食べられる、子供にとって数少ない楽しみな日でしか無く、恋人の日などではなかった。


 ちなみにバレンタインが女性から男性にチョコを渡すようになったのも1970年代に渡すのが普通のイベントになったみたいだけど。


 まあ、まだ“カップルなら可能なかぎりクリスマスはロマンチックに過ごしなさい”という空気がバブル世代の親には残っていたりもするので、その子どもたちはそういった空気を押し付けられていたりもするのだけど。


 12月7日にはディスコ・クラブのマハーラージャ麻布十番店がオープンしてその後全国展開していくディスコブームがバブル崩壊ぐらいまで続く。


「クリスマスには斎藤さんのお家のお母さんと娘さんをお呼びしてパーティをしますよ。

 ちゃんとプレゼントも用意しなさいね」


「あ、うん、確かにプレゼントは用意したほうがいいかもね。

 贈るなら本が良いかな」


「本……? だめだめ、もっと高くて、ちゃんと心がこもったものにしないと」


「お母さんが得意な刺繍をするとか、花束を贈るとか?」


「ああ、それはいいわね。

 手袋とかマフラーを編むのもいいと思うわ」


「お母さん手編みのセーターとか余裕で作ってるもんね。

 ミシンで洋裁とかもするし」


「女の子はそういうの好きなのよ」


 たしかに、この頃はファミコンなんかのゲームやゲームソフトがプレゼントでは人気の1位で、もう少し小さい子供なら「超合金のロボット」や「リカちゃん・バービーちゃん人形やそのおよび関連グッズ」なんかも人気だし、「ガンプラ」なんかの模型も男の子なら喜ぶだろうけど、女の子は多分喜ばないよな。


 しかし今からナプキンやハンカチにきれいに刺繍施すとか、マフラーや手袋を手編みで作るのはちょっと難易度が高すぎだ。


「うーん、実用的なところだとパスケースとかもありかな」


「それもいいわね、来年から通学するから定期入れは喜ばれると思うわ」


「そしたら雑貨屋さんでいいもの見繕わないとね」


「お母さんも一緒に行く?」


「あ、そうしてもらえると助かるかな」


 そうして日曜日に母さんと一緒に雑貨屋に行った俺は、さんざんダメ出しされたが、なんとか良さげなパスケースを手に入れた。


「うん、これならきっと喜んでもらえるわ」


「そうでなかったら俺の苦労はいったい……」


 12月20日には電電公社民営化法案が成立した。


「パスケースにクリスマスカードと花束に図書券もつけておけばいいかな」


「うん、いいんじゃないかしら?」


 そして、クリスマスツリーなども飾り付けて、迎えたクリスマスイブ。


 斎藤さんはおかあさんといっしょにいつものセーラー服とコートでうちに来た。


「こんばんはー」


「こんばんは」


 斎藤さんの母さんと斎藤さんが挨拶してくるのでお母さんと俺も挨拶を返す。


「はい、いらっしゃい」


「こんばんは、寒い中ありがとうございます」


 俺もそう言って挨拶しつつ頭を下げる。


 料理はクリスマスケーキにローストチキン、スパゲッティミートソースにコンソメのスープ、クリスマス風ゼリーとやたらと洋風、そして全部手作り。


 残ったものは父さんが食べることになるんだろうけど。


「うふふ、皆さんのお口にあうといいのですけど」


 お母さんはそう言っている。


 俺は手元にクラッカーを掲げてみせた。


「じゃあ、クラッカーでも鳴らす?」


 みんなはそれにうなずいてくれた。


「ええ、そうしましょう」


 “パンパン”とみんなでクラッカーを鳴らしたら食事開始。


 で最後はみんなでプレゼント交換。


「斎藤さんこれを」


「あら、嬉しいわね。

 私からもプレゼント」


「あ、うんありがとう」


 二人の母親はニコニコというかニヤニヤといった感じで俺たちを見ている。


「それじゃまたね」


「あ、うんまた」


 プレゼントをその場で開けることはお互いにしないで、とは言えまあプレゼントの花束は丸見えだけど、自分の部屋で開けた斎藤さんからのプレゼントは筆箱やボールペン、シャーペン、定規や消しゴムなんかの文房具とノート。


「ああなるほど、これはいいな」


 色々なアイデアを書き留めておくのにこのノートなんかはきっと役に立つだろうしな。


「俺のプレゼントが斎藤さんに喜んでもらえるかどうかが問題だが」


 とりあえずその翌日の終業式で斎藤さんに会ったときには俺のプレゼントには満足してくれてる感じだったのが救いだな。


 プレゼントってのは難しいもんだぜ。

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