二学期が始まったらなんだかあっという間に時間が過ぎたが体育祭と文化祭はやはり記憶に残るな

 夏休みが終わり、9月になれば2学期が始まる。


 始業式や防災避難訓練などが終わったら中学校最後の体育祭。


「今田くんは学級対抗リレーのアンカー頑張ってね」


「ああ、頑張るよ、前田くんも長縄跳びがんばれよ」


「あ、うん、がんばる」


 中学3年の体育祭は6月で引退した体育会系部員や文化系部員などよりも8月ぐらいまで試合に参加している体育会部員の活躍が目立つ。


「まあ、基礎的な運動能力の差だから仕方ないよな……」


 学級対抗リレーのアンカーは体育祭の花形で活躍すれば当然目立ちし頑張れば祝福される。


 それに比べると長縄跳びは団体競技だからね……。


 ああ、ちなみに俺のクラスは優勝できたし、今田くんはその活躍で一躍クラスのヒーローになったよ。


「かっこよかったわよねー」


「そうよねー」


 足が速いということも、体育祭のリレーのアンカーで一位になるとかみたいに結構抜きん出てればやっぱりモテたりもするんだよね。


 10月になれば模試に中間テストに文化祭。


 文化祭の出し物といえば、飲食の模擬店がやはり定番だが受験が近い3年生は気合が入ってるクラスとそうでないクラスの差が激しい。


 クレープとか焼きそば、ホットドッグなど本格的な飲食をやる組の隣が、過去10年間の市の新聞とか写真の展示とかだったりして結構カオスだ。


 ああ、ちなみにうちは定番のお化け屋敷なんだけど今はそこまで人気無いのか意外とかぶらなかった。


 お化け屋敷と言っても黒いカーテンで教室を暗くして、机やダンボールで通路の仕切りを作って、ちょっと怖い雰囲気の音楽をテープで流して、生徒がきたら脅かすという陳腐なあれだ。


「まあやるからには、ちゃんと怖くしたほうがいいよね」


 俺は斉藤さんとそんな話をしていた。


 受験が近いことで積極的に出し物に参加しようとするクラスメイトはそこまで多くないがそれはそれでしょうがない。


「それはそうだけど、難しくないかしら?」


「やり方次第かな?」


 仕切りは机を並べて、机の脚と脚をビニールテープでしっかりと結んでおき、なるべ長く歩くように通路は細くてくくねくね曲がるようにして、机の上にへ大きめのダンボール箱を縦に置いて黒い布を被せ、机の足の部分にもダンボールを貼り付けて、下から向こうが見えないようにする。


 机を重ねるのは崩れた時に危険だけど、中になにも入っていないダンボールなら崩れても大怪我はしにくいだろう。


 で、窓にダンボールを黒いガムテープで貼りつけたうえで、理科室などにある黒幕を借りてきて、これも黒いテープで貼り光が入らないようにする。


「こういうときは美術部や演劇部に協力を頼んだほうがいいね。

 そういえば“ハロウィン”とか“13日の金曜日”は見たことある?」


「有名なスプラッタホラーよね」


「ああいう話だと殺人鬼と被害者が両方出てくるけどどっちを見るほうが怖いと思う?」


「それは殺人鬼じゃないかしら?」


「いや、実は被害者を見るほうが実際は怖いとおもうんだ。

 自分もああなったらどうしようって想像するからね。

 今年のホラー映画のエルム街の悪夢でも大縄跳びをしながら、“フレディがやってくるよ……”って歌ってる、幽霊っぽい女の子は怖いし」


「確かにそうかもしれないわね」


「もちろん実際にそういう役を文化祭で演じるのは難しいけど、被害者っぽい仮装をさせたりマネキンや人形に細工をしたりはできると思うよ」


「結構エグいわねそれ」


「基本的には学校外の人間は入ってこないから大丈夫だと思うけど、子供が怖くないようにしたほうがいいとは思うけどね」


 そして元美術部や演劇部、音楽部や斎藤さんなどに協力を仰いで完成したお化け屋敷はというと……。


「ではこれをどうぞ」


「どうぞ」


 と男女のカップルが小さな懐中電灯を渡されて教室の後ろ側のドアから中に入る。


 ドアを閉めると部屋は真っ暗、お化け屋敷っぽいホラーなBGMが小さく流れて、その中で懐中電灯をつけて、奥が見えないようにとセットされた黒い暖簾をくぐって奥に進むと壁には御札や蜘蛛の巣っぽいもの、血しぶきっぽいものがあったりする。


「へえ、結構本格的だな」


「そうね、結構本格的」


「じゃあ進んでみるか」


「うん」


 そしてちょっと進むと、ダンボールがくり抜かれ凹んだところに血のついたような赤ん坊の人形が置かれている。


「うわ、なんだこりゃ?」


「人形?」


 人形にはメッセージが添えられている。


 “この世に残されてしまったこの赤ちゃんを外へ出してあげてください”


「これを持って出口まで行けってことかな?」


「なんか怖いけどそうする?」


 彼女のほうが人形を手に取るとのれんの方からところどころに赤い血についた着物をきて、髪の毛で顔のわからない生徒がよたよたと歩きながら近づいてきて彼らに言った。


「わたしのあかちゃん……かえしてぇ!」


 それを見てカップルは悲鳴を上げて奥へ逃げ出す。


「うわあーーーーーーーーーーーーーーー!!」


「きゃあーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 そして通路の曲がり角の正面は目から涙を流す生首(かなり精巧なマネキンの首)があった。


 彼らはそれを直視してしまいさらに悲鳴を上げて逃げ出す。


「うわあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!」


「きゃあぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!」



 そしてその先の暖簾をくぐった先には足元に毛布が敷かれている。


「ぎゃあ! なんか柔らかいもの踏んだ!」


「あ、ただの毛布だ」


 そしてその先に少し広くなった場所には誰かが倒れている。


 やはり服は血まみれでピクリとも動かない。


「なにあれ?」


「なんだろう」


 恐るおそる先に進むとゆっくりそれは動き出す。


「いたい……たすけて……」


 そう言う生徒の顔には血のついた般若の面がかぶさっていて、腕や脚には大きな傷(ティッシュや血糊で大怪我をしたように見えるように化粧を施している)そして何故か胸元から光があたっていた。


「うぉわああああああーーーーーーーー!!!」


「もうやだーーーーーーーーーーーーーー!」


 そして、とどめにガラスとスライドのプラジェクターを使ったペッパーズ・ゴーストの白い幽霊に追いかけられる!


「白い人影が動いた?!」


「もうやーーーーーーーーーー!」


 そして最後はなにもなくようやく出口に到着。


「はあ、ようやくでられた」


「思っていたより怖かったね」


 そして人形を返せばクリアという感じだ。


「あーぜんぜんこわくなかったよなー」


「そ、そうね」


「そうですか、では明日はもう少し怖くなるようにしてみましょう」


「あ、いや、やっぱすげー怖かったわ」


「これ以上怖かったらもうでてこれないよ」


 そして号泣したり失神する女の子が実際に出たりして少し問題になってしまったくらいだ。


 というわけで怖いと評判になったのだが、まずこのお化け屋敷では暗闇にこだわった。


 文化祭のお化け屋敷が大抵の場合怖くないのは、それなりに明るく安っぽいダンボールやカーテンが見えてしまうからだ。


 文化祭は明るい日中に行われるし、基本的に教室は窓が大きく光を取り入れやすいからしかたないのだけどな。


 だが、窓にダンボールを貼り付けて、さらに遮光カーテンで窓を覆うということをするだけで真っ暗に近くなるがそれだけでも十分怖いのだ。


 そして入り口と出口はどうしてもドアを開けると光が入ることで、最初から恐怖を和らげやすいので、入り口のドアのすぐ先にのれんをつけて奥が見えないようにしたのも大きい。


 ドアを開けて入ってそれをクラスの生徒が閉めた瞬間に真っ暗闇になり、おどろおどろしいBGMが聞こえてくるというのは想像以上の恐怖なんだ。


 そして一本道にすることで分岐点を作らないのは、後から入った人とかちあったりして安心してしまう要素を防ぐため。


 あと、廊下で椅子に座って客が待ってる間の暇つぶしのために、飴買い幽霊やかしまさん・てけてけをモチーフとした短めの心霊話を書いた紙を渡して、それを予め読んでもらって、内容を想像しやすくしたり、中の悲鳴が通りやすくなるようにもした。


 悲鳴はやっぱり恐怖感を伝染させるんだよな。


 美術部にはメイクや壁の演出を、演劇部にはやはりメイクや脅かし役の演技指導を、音楽部にはBGMのダビングや編集を、斎藤さんには怖くなるような心霊話の執筆を頼んで、お化け屋敷全体は俺が取りまとめたけど、これが将来の複数人で担当を分担してのゲーム制作のやり方の基礎になるかもしれないな。

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