どこかの魔女達の物語

ねど

――棘の中に眠る魔女の話――

 姉はいつも私の先を行っていた。それは勿論、当然のことだ。私より先に生まれ、先に学び、先に経験をしていたのだから。

 だから私がいつも周りからちやほやされる姉に嫉妬をし、姉を殺そうと考えるのは至極当然のことだと思う。そういうことにしておいてほしい。姉は特に私の行動も咎めなかったし、止めようともしなかった。

 どうしてだろう、と考えなかったことはなかった。いつも早く邪魔をしてほしいと思っていた。何故そう思ったのかは、私自身、わからなかった。

 姉は最後のその時まで、私を止めようとしなかった。私は結局、この手で姉を手にかけた。かけてしまった。姉はごめんね、と一言残して永遠に眠った。私が眠らせた。私は泣けなかった。姉が死ぬ間際に、そういう呪いを掛けたのだろう。看取る時、瞼を触られたから、恐らくその時だ。その手をどうして振り払わなかったのか、それもわからなかった。

 魔女の同士討ちは、魔女の仲間内でもとても重たい罪だった。特に血族が血族を殺すのは万死に値する。でも私は強い。魔女の中でも、ほとんど敵がいないほど強かった姉の妹なのだ。その姉を殺したのだから、それは至極当然のことだ。誰もが私を死刑にするために捕まえようと必死に追ってきたが、全て返り討ちにした。消し炭にして、この世に残らないようにしているうちに、私はいつしか一つの目標をたてた。

 魔女を全て殺そう。私のように悲しい魔女が生まれないように。魔女は全て無くせばいい。そうすれば才能の違いに悩まず、唯一の愛おしい家族を殺すような、悲しい子どもは生まれないはずだ。

 親は私達姉妹の才能を恐れ、早いうちに姿を消した。魔法を教えたのは両親だったが、その両親をも遥かに凌ぐ魔術の才を私達姉妹は持っていた。新しい目標をたてた私は、まず両親を探し出して殺した。両親は、早いうちにお前たちを始末しておけばよかった、と言い捨てて死んだ。そう、それなら私達を作らなければよかったね、と嫌味を言ったが、彼らの耳に届いたかはわからない。

 それから魔女の長を殺すのに、時間はかからなかった。向こうから出向いてきてくれたので、あっという間に終わった。私の目標は終わった。目標が無くなってしまった。同士の暮らしていた隠れ里を燃やした。これで魔女はもういない。私を除いて。

 最後の時はどうしようか、と考えていたら、姉の最後を看取った場所へ来た。ここへは人間はやってこない。私が姉の墓を建て、この地に呪いをかけたからだ。ここへ来れば、呪われると人間には伝えておいた。その呪いの対象は、私も例外ではない。姉の墓の前に座り、私は姉に向けて呟いた。


 「つかれた」


 こんな感情を持っているのも、行動も、全て疲れた。微かに風が吹いた。姉がお疲れ様、と労ってくれているかのような風だ。柔らかく、優しく、愛おしい。

 姉の墓を守る魔法が発動した。巨大な棘でここら一帯を覆い、凄まじく強い毒を放つ。私はその中心で、姉の墓の膝下に寝転んだ。ああ、こんなに穏やかな気持ちで眠りにつくのは、いつ以来だろう。いや、生まれて初めてかもしれない。

 視界が棘で埋め尽くされ、肺に毒が満たされていく。すっかり空っぽになった私は、静かに闇の底へと落ちて行った。


もう二度と目覚めない、闇の底に。

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