地球が無くなる日
椎名稿樹
前編
一年後、隕石が地球に衝突。
地球消滅――。
全てはSNSから始まった。隕石落下による地球消滅を示唆する投稿が世界中に拡散した。
初めはSNS上だけで盛り上がっていた話題であったが、アメリカのテレビ番組がこれを取り上げた。
それを皮切りに、世界各国のテレビ局がその話題を取り上げるようになった。
日本においてもほぼ毎日、地球消滅に関する話題がお茶の間を賑わせた。しかし、地球消滅を信じる人はほとんどいなかった。
にも関わらず、視聴率は鰻登り。テレビ局はそこに目を付けた。超常現象研究家やUFO研究家などのオカルトライクな研究家が度々テレビで登場し、大学の教授など有識者たちと地球消滅説について意見を交わす。激しい言い争いになることもしばしばで、むしろこれが恒例となり、高視聴率に繋がった。
二、三週間ほど盛り上が続け、その後は次第に鎮静化。地球消滅の話題を口にする人はほとんどいなくなり、テレビも通常の番組を放送するようになった。
ところが、事態は一変した――。
隕石落下の証拠となるデータが流出したのだ。またもやSNSで拡散。再び話題になった。
そのデータはアメリカのある機関に保有されていたものらしく、その機関は連日火消しに追われた。ついにはアメリカ政府まで乗り出し、そのデータはフェイクであると報道した。
しかし、アメリカ政府が乗り出したことが裏目に出てしまい、データは本物なのでは、という噂が流れてしまう。火に油を注ぐ形になってしまった。
日本のメディアもこれを大きく取り上げ、連日そのデータの信憑性について議論された。日本を含め世界の各メディアはデータの捏造説を推した。何処からかそういう圧力があったのだろうか。
データ流出事件から三日後――。
アマチュアの天文愛好家たちが隕石を発見。
流出したデータには、地球に落ちてくる隕石の座標等の詳細な情報が記されていたのだ。そのデータをもとに世界中のアマチュアの天文愛好家が我先にとその隕石を見つけようとしたのだ。
誰しも本当に見つかるとは思っていなかった。
その情報は瞬く間に世界を席巻したが、それでも信じる人は少なかった。
隕石が見つかったのも有名になりたい為の嘘だ。隕石が地球に衝突などありえない。映画ではあるまいし。多くの人はそう思い、ごく普通の日常が送られていた。
子供の間でもその話題は大いに盛り上がったが、大半はエンタメとしてのネタ的な要素が大きかった。『明日地球が無くなるなら何をする?』『地球最後の日に何を食べる?』そう言った会話が世間を賑わせたのだ。
しかし、続々と隕石に関する情報がSNS上で拡散。世界中のアマチュア天文愛好家たちの手によるものだ。
ここまで膨大でかつ詳細な隕石に関する情報が流れると、情報の信憑性が増して行った。
少しづつ悲観者たちはパニックに陥った。数は少ないものの世界で暴動が起き始める。
そして、ついに死者が出る。
アメリカ政府は暴動の鎮静化を図ろうとする。それに反して世界のあちこちで暴動が激化していく。死者数が日に日に増えて行った。
ついにアメリカ政府は真実を公表。
隕石落下は事実だと――。
アメリカ政府がデータを保有していた機関に公表に関して圧力をかけていたのだ。その機関はアメリカ政府の管轄下。公表によって世界がパニックに陥るのを危惧したからだ。
しかしこれ以上公表を控えても意味がない。すでに世界はパニックになりかけている。それを見かねて、アメリカ政府は公表に踏み切った。
アメリカ政府によると、隕石が地球に落下する情報は、二年前から把握していたらしい。水面下でその対策を考えていたらしいが、隕石があまりに巨大すぎた為、落下を防ぐ手段はないとの結論を下した。
隕石の大きさは、月の一回り小さいくらいで、衝突すれば地球そのものが消滅。生き残る術はない。
アメリカ政府の悲観的な発表で、世界は大パニックに陥った。
世界のあちこちで暴動が過激さを増し、人類史上最悪の状態に陥った。日本は他国に比べれば、暴動は比較的マシであった。しかし、日本でも死者が出てしまう。
暴動に参加した人たちは世界の人口の数パーセントであるが、やはりその影響は大きく、世界の秩序さは失われて行った。
暴徒化した人たちはグループを組み、グループ間で殺しあったり、ごく普通の人たちを襲ったりした。恐怖が彼らを暴徒化に導いたのだろうか? それとも、ただ愉しんでいるだけなのだろうか?
もちろん、彼らの行動は非難された。
人間らしい行動をしよう。最期くらい平和を実現しよう。
そういう運動が世界各地で行われた。
暴動は次第に鎮静化。戦争も終戦。
皮肉にも、隕石が人類に平和をもたらそうとした。人類が一つになろうとしたのだ。
一旦、勢いがつくと、その後の行動は早かった。
生活する上で欠かせない最低限の生産活動だけが行われた。もちろんそこには給与はない。お金はもう必要ないからだ。
すべてボランティアという形で労働が維持された。誰も文句は言わない。それどころかボランティアには多くの人が参加した。
みんながそれぞれするべきことを見つけ、それを実行し出したのだ。
生きるために働く。人を喜ばせるために働く。皆が無給にも関わらず仕事を愉しんだ。
街中を歩いても知らない人同士で声をかけ励まし合った。すべての人が絆を求め、繋がりあった。
科学者は何とかして地球を救う方法を模索した。しかし現実は厳しい。世界中の科学者が知恵を出しても、地球を救える抜本的な方法が見つからなかった。
科学者は思考を変えた。
地球を救うことを諦め、その代わり地球が存在した事実を残そうとしたのだ。
何処かにいるはずの宇宙人がきっと見つけてくれると信じて。
そして明日、地球最期の日を迎える――。
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