☆【コミカライズ記念幕間】竜装騎士、絵物語になる
いつものボリス村の酒場。
すでに忙しい昼も過ぎ、暇を持て余している面々が集まっていた。
テーブルの上でアクビをする子竜、椅子に背を預けダラ~ッとしているウリコ、暖かい陽気でうつらうつらしている勇者――そして無理やり連れてこられたエルムがいた。
「……今日はなんで集まっているんだ?」
「よく聞いてくれましたね、エルムさん。実はですね~。今度、私たちが絵物語になるらしいのですよ」
「なる……ほど……?」
絵物語とは、動きのあるイラスト主体で構成された本のことである。
まだこの世界での供給は少ないのだが、他国から伝わってきて密かに人気らしい。
「モデルになったはいいのですが、どんな感じになるのか聞いてなくてですね……。そこで、私たちがどんな物語にされるのか予想してみませんか!?」
「それで集まったのか……。俺はそういうの苦手だぞ……」
「まぁまぁ。エルムさんの予想は大トリってことでいいですよ! それでは、まずバハちゃんからいってみましょうか!」
「ふぁ~あ、ボクも参加するの~?」
ウリコから話を振られたが、無関心な子竜は眠そうだった。
しかし、エルムは普段知ることができない相棒の一面に興味があった。
「バハさんが考える絵物語か。俺は知りたいな」
「よし、エルムが興味あるなら考えるよ! 超~考えるっ!」
子竜は、どうするべきかと思案した。
絵物語ならなんでも“アリ”である。
自分が望む世界を紡ぎ、そこに好きな人物を当てはめていくこともできる。
となれば、大体は決まったようなものだ。
「ボクの考える絵物語はこうだよ――」
***
60X年。世界は極大魔法の火に包まれた。
第三次魔法大戦によって文明社会は消え去り、ついでに人類も絶滅した。
――ただし、救世主エルムと、その相棒であるバハムート十三世を除いては!
「静かだな。俺たち以外は誰もいない」
「んふふ、ボクはエルムがいるだけで十分だよー! むしろ誰にも邪魔されないし、この環境がいい! 人類絶滅サイコーだね!」
***
ウリコが子竜の語りを遮った。
「ちょ~っと待ってください、バハちゃん! 開始早々、私が死んでる……というか全人類滅びてませんか!?」
「うん。あ、でも心配しないで。絵物語を盛り上げるための“謎の生物X”としてウリコっぽいのが背面四つん這いで登場するから~」
「せめて謎の美女役にしてくださいよ! 却下です、却下! そんなバハちゃんだけのピンポイントな絵物語では、大衆にウケませんよ!」
「ちぇ~。それじゃあ、ウリコはどんな絵物語がいいのさ?」
「ふっふっふ……。ズバリ、みんな大好き“成り上がりモノ”です!」
自信満々にウリコが語り出したのであった。
***
ボリス村を経済的に救った、美少女英雄ウリコの伝説は聞いたことがあるだろう。
その彼女が、今度はダンジョン発掘家のエルムを連れて裸一貫! 新天地の都会で成り上がっていく!
「ふふふ……。このウリコちゃんにかかれば、なにもないところから経済的に成り上がるなんて楽勝ですよ!」
うまくエルムに素材を取ってきてもらい、それを店で売りさばく! ひたすら売りさばく!
どんどん規模が膨れあがり、やがて世界を牛耳る大商人となっていくのであった!
「さぁ、お金ならいくらでもありますよ! マネーパワーでみんな跪きなさ~い! あっはっは~!」
「ウリコ、さすがにマネーパワーだけで一方的に人を跪かせるのはダメダメ。これはボッシュート。お金サヨナラ~」
「あぁっ!? 私の想像の中ですらエルムさんが厳格な性格に! でも、私の語彙力が追いついてなくて、なんか喋り方が頭悪い!」
こうしてウリコの店は潰れたのであった。
***
「……という私の……その……絵物語でした」
「なんか架空の俺が出てきて説教してるな」
「どんだけ私の中でエルムさんの存在デカいんですか~! も~!」
誰かが突っ込むことなく、ウリコの絵物語案は終了した。
次は――と全員の視線が向けられたのは、眠たげにしていた勇者だった。
「わ、わたしか……?」
「ほら、勇者さんも普段できないような想像とかあるでしょう! お金とかお金とか!」
「いや、金は別に興味が……。贅沢というものも飽きてるし……」
「あ、飽きて……!? これだから都会の人はー!!」
「なんか申し訳ない……。だが、そう考えれば飽きていない事柄を絵物語にする、というのがいいかもしれないな……。なにがあるのだろう……」
「うーん……。ラブロマンスとかですかね?」
「ら、ラブロマンス……。たしかに未知の領域だ。それで考えてみよう」
――それから勇者が語り始めたのだが、ウリコや子竜がジャンルは悪役令嬢などと言い争い始めたのであった。
***
可憐な令嬢アリシア――彼女は皇帝を兄に持ち、複数の許嫁がいた。
彼女のまれに見る美しさの噂は、城下街で知らぬ者はいないくらいだった。
そんなアリシアは病弱なため、今日も窓から外を眺めて、ため息を吐いていた。
「はぁ……。今日も許嫁たちが『自分を選んでくれ』とやってくるのか……」
その予感は的中し、部屋に許嫁の金髪少年が入ってきた。
「アリシアのアネキ、どうか僕を選んでください!」
「マシューか……。しかし、年齢差が……」
「大丈夫です! 実は僕、年上が大好きなので!」
マシューの熱い告白に心揺れるも、それを遮るかのように別の黒髪少年がやってきた。
「ふふん、このボクなら年の差なんて関係ないよ。キミの好きな姿で、死ぬまでずっと一緒にいてあげるよ。永遠を共にしよう?」
「バハ殿……」
人間の姿になったバハムート十三世が、騎士のように傅いていた。
そこにもう一人の男が、窓を開けて入ってきた。
「おっと、バハさん。いくらパートナーとはいえ、アリシアを渡すことはできないな。彼女は俺のモノ……、いや、俺は彼女の
「エルム殿……」
アリシアは三人を見比べて、ニコリと笑った。
「では、お三方が戦って、勝ち残った者と結婚しましょう。敗者は全財産を譲渡するという条件で……。愛しているのなら、それくらいして頂けますよね。うふふ……」
このアリシア――のちに悪役令嬢と呼ばれる者であった!
***
「うーむ、途中からなにか雲行きが怪しくなったというか、すっごい悪女のわたしになっているというか……?」
「アハハ~。そんなことないよ勇者~」
「そ、そうですよ~!」
勇者に『こういう悪役令嬢が流行している』と吹き込んだウリコと子竜は、笑顔で誤魔化していた。
ちなみに悪役令嬢なだけで、転生した記憶を思い出して運命を変えていくなどの逆転要素は入れていない。悪役のままだ。
作中でエルムと勇者をくっつけないためである。
「そ、そろそろ勇者はダンジョンに潜らないか? ほら、ウリコもサボっているとジ・オーバーに怒られるぞ……」
微妙についていけないエルムは困り顔で、この場を解散させようとしていた。
しかし、他のメンツはまだまだ絵物語の議論が物足りないようだ。
「そういうエルムさんは、どんな絵物語を望んでいるんですか!?」
「そうだ! エルム殿も話さなければズルいぞ!」
「ボクもエルムがどんな望みを持っているか知りたいな~?」
三者に詰め寄られ、タジタジのエルムだった。
あまりの迫力で反論するのも諦めて、仕方なく望みを白状する。
「俺は……、今の生活が一番楽しいかな……。こうして田舎で普通に暮らせて満足だ」
恥ずかしげもなく出てきた純粋な言葉に、誰も口を挟めなかった。
ウリコと勇者が頷いて同意して、子竜も知ってたという顔をしている。
――と、そこへ怒りの表情をしているジ・オーバーがやってきた。
「こらーっ! サボってないで働くのであるー!」
「ひえっ、ロリオバちゃん!? ごめんなさーい!」
その一声で、ウリコは防具店の方に戻り、勇者はダンジョンに潜るための準備で席を離れ、子竜も家で寝直すために帰っていった。
エルムも席を立とうとしたのだが、ジ・オーバーの小さな手で引き留められた。
「エルムよ、実は密かに我も考えたのである! 絵物語なら、大きな争いをなくしていくために戦う話とか好きなのである! 平和が一番!」
「そうだな。……まぁ、元魔王軍を率いていたジ・オーバーが言うのもアレだが」
「わはは~! きっと我が世界征服をしても、割と平和になっていたと思うのである!」
なぜか満面の笑みで両手ピースをするジ・オーバーだったが、エルムも苦笑しながらピースを返した。
――――あとがき――――
コミカライズを担当される丸智之先生の代表作が『トライピース』です(直球)。
というわけで『月刊少年ガンガン』でも告知されましたが、本作がコミカライズされます! 読者様の応援のおかげです!
コミカライズを担当してくださるのは、丸智之先生です!(大事なので二度)
連載される場所はガンガンONLINEで、アプリ版が先行という形になっています。
あとからブラウザ版でも公開されるので、そちらもよろしくお願いします。
……よし、これで必要な告知はした! ここから個人的な感想を話せる!
いや~、先にコミカライズの原稿を見せて頂きましたが、感動しますね。
小説一巻でイラストがなかった戦闘シーンが、コミカライズだと描かれているのですよ!
エルムが神槍を呼びだして、SSSランクモンスターを倒す!
これが迫力ある感じに、格好良く描かれていました。
神槍には細かなルーン文字まで……原作者より細かく作ってる丸智之先生! ステキ! 抱いて!
バハさんも格好良く、また子竜状態のシーンではコミカルに可愛いコスプレをしていたりと、原作の良さを500%引き出していると思います。
あと読んだのが序盤なのでウリコの登場シーンが多いのですが、ウリコがウリコしてます。めっちゃウリコです。マンガでもウリコはウリコなんだなという説得力がすごいです。
それに村人たちや、ボリス村も描かれており、小説版では知り得なかった外見情報が盛り沢山! こんな感じだったのか!? と作者もテンション上がりました!
チラッとジ・オーバーも出ていましたが、ロリ……ゴッホンゴホン! 少し幼めな感じで可愛くなっていましたね!
勇者はなんというか、なごんでいました。
というわけで、原作者のタックも読者として楽しんでしまったコミカライズが始まります!
面白いので、見に来てくれると嬉しいです!
(※このあとがきは、なろう連載当時のものでコミカライズは既に始まっています。そちらも是非お楽しみになって頂ければ幸いです)
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