冒険者、食事
いくつかの理由から、基本的にダンジョン一階層につき、冒険者1パーティーが配置されていた。
そのもっとも大きな理由としては、ボリス村の冒険者が百人程度だということだ。過度な配置はできない。
モンスターを倒しながら、ダンジョンに留まれる最小単位が1パーティー。
上から順に配置したというのが、現在の図である。
それと普通のダンジョンなら地上に通じる低層に戦力を集中させて待ち伏せすればいいのだが、ここは転移陣を用いた特殊なダンジョンである。
空間座標が定かではないため、途中の階層の壁を破ればいきなり地上に通じる可能性もあるのだ。
バラバラに配置された冒険者たちは、ただひたすらダンジョンイーターの出現を待つことになる。
「ふぅ~、今日はザコモンスターが楽勝だな」
フロアのモンスターを掃除し終えた冒険者パーティー。
その手には薬剤を入れる小瓶が握られていた。
「これのおかげだな。魔剤っていったっけ……?」
それはブレイスが七番勝負のために作った魔剤弁当――の弁当部分を取り除いた強化薬である。
色々と不評だった弁当部分さえなければ、超一流の強化薬となる。
それを冒険者たちに支給したのだ。
「普段の三倍は動ける気がするぜ」
「ははは。そいつは言い過ぎだが、確かにこいつを飲めば、向かうところ敵無しって感じだな」
「……なぁ、そろそろ休憩しねぇか? もう敵もいないしさぁ」
「そうだな。休めるときに休み、食えるときに食う。それが冒険者の基本だ」
休憩場所に広げられた、各自持ち寄ったエルムのダンジョン弁当。
冒険者たちは、その食欲をそそる見た目にゴクリとツバを飲み込んだ。
米粒一つ一つが真珠のように輝き、立っている。
ウインナーも程よく焦げ色が付き、玉子焼きもフンワリ。
鶏肉からはスパイシーな香りが漂っている。
根菜の煮物、ほうれん草のバター炒めも彩りを添えつつ、身体にも嬉しい。
待ってましたとばかりに、冒険者たちがガツガツと食べ始めた。
「こいつぁ美味ぇ!」
「まず基本の米だけで食い続けられるな! 硬すぎず、柔らかすぎず、噛めば噛むほど味の深みが出てくる!」
「から揚げはガッツリと肉って感じだ! 冷めても柔らかジューシィ!」
「お、俺はタコさんウインナーが可愛くて好きだな……」
「「「女子か!」」」
良いお弁当というのは、一人で食べても、みんなで食べても盛り上がるものである。
エルムのダンジョン弁当も、そういうものだった。
「何というか、オカンを思い出すような弁当だぜ……」
「かーちゃん……」
「エルムかーちゃん……。いや、あの早着替えしてた村長は男だった気がするぞ……」
ここにいる冒険者たちは皆、故郷から出てきた者たちである。
なぜか懐かしい気持ちにさせる弁当は、家族や幼なじみ、恋人を思い浮かべさせた。
「俺、金を稼いで無事故郷に帰ったら、恋人にプロポーズする予定なんだ……」
「おいおい、何か死にそうな台詞だな。まぁ、俺たちがここにいるのは、そんなに危険な理由じゃないけど――。アレ? そういえば、なんで俺たちここにいるんだっけ?」
「そりゃ、ダンジョンに潜って、モンスターを掃除して待機するなんて……アレ? なんでだっけ?」
突然、冒険者たちの思考にノイズが走った。
なぜ、この階層にいるのかを思い出せない。
そのまま首を傾げながらも、気にしていないのか再び弁当を食べ始めた。
「まぁいっか。玉子焼きうめー! 酒がほしくなるな!」
――瞬間、地鳴りがしたと思ったら、地面から何かが出てきて冒険者が飲み込まれた。
「うわーッ!? ネネコちゃんが喰われたー!?」
地面の中から出てきたのは、巨大なダンジョンイーターだった。
「く、くそ! 弔い合戦だ!」
「ま、待てセロリー……!? 不用意に近付くな!?」
「うぎゃーッ!?」
当然のように攻撃は効かず、ダンジョンイーターは冒険者を平らげていったのである。
そして満腹になったのか、巨体を横たえてスヤスヤと眠り始めた。
***
「あの~、オールバックで悪い顔をしているエルムさん……?」
「ククク……どうした、ウリコ?」
「今回の作戦、本当にいいんですかね……? 冒険者の皆さんを餌にして、それで時間稼ぎをするって……」
「大丈夫だ。本人たちに承諾してもらったし、きちんとトラウマを残さないように精神操作もかけてやったからな」
「……このエルムさん、普段と違いすぎるような?」
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