☆【一巻発売記念幕間】きっとこんな変更に違いない編

※書籍化記念! 内容にはジョークが含まれています。書籍化は本当ですよ!


――――――――


 ガラス窓から眩しい陽光が差し込んでいた。

 ここはボリス村にあるエルムの自宅。


「ふわぁ~、もう朝か~」


 ベッドで大きく伸びをしたあと、指で目を擦りながら起床する竜装騎士エルム。

 それと、その横にチョコンと座っている子竜のバハムート十三世。


「おはよ~、エルム。今日も退屈で、いつもと変わらない良い天気だね~」


「おはよう、バハさん。変わらない日常っていうのは案外良いモノだぞ」


「ボクは変わらないのは――天気だけとしか言ってないけどね」


「んん? それはどういう……」


 エルムはまだ気付いていなかった。

 ここは何かが“変わってしまった”、普通の世界ではないということに。

 ――突然、パリーンとガラスが割れる音と共に、ある人物が飛び込んできた。


「エルムさん! おっはよーごっざいまーっす!!」


「うおぉ!? 朝からこの突発的なパターンは一人しかいない!?」


 散乱して、きらめく窓ガラスの破片。

 エルムが振り向くと、腕を前方クロスさせながら、窓から跳躍してきた見慣れた防具屋エプロンの――


「出たな! 不法侵入常連、防具屋の看板娘ウリコ! お前、ついに二階の窓ガラスを割って入ってくるようになったのか!?」


「すみません、何か私のキャラ弱いかなーって?」


「迷惑な方向でキャラが強くなっても困るのだが……」


「あ、でもエルムさん。まだ寝ぼけています?」


「へ?」


 ウリコに指摘されて、エルムは違和感を覚えた。

 窓ガラスを破ってきたウリコはベッドの上にボフッと飛び乗ってきたのだが、いつもより若干重いというか、体格がいいというか……。


「私の名前はウリコじゃなくて、防具屋の一人息子ウリオ。看板“娘”じゃなくて、言うなれば看板“息子”ですよ。も~」


「……ウリ……オ? ……は? お前、ふざけているのか……ってぇ!?」


 違和感の正体は骨格だった。

 少女の骨格から、少年の骨格に変わっている。

 胸の膨らみはなくなっていて、肩幅や首、腕などが太くなっている。

 髪型や顔つきは一緒なので、気が付くのが遅れてしまったのだ。


「あの……ウリ……オ君? ボリス村の防具屋に兄妹とか双子とかいるかい……?」


「いや~、だから、ボリス村の防具屋の子供は私、ウリオだけですって~」


 しばし無言になるエルム。

 デキる竜装騎士はパニックを起こさず、冷静に事態を分析する。

 自らに乗っかるような形でペタンと座っている少年――ウリオ。

 もしかしたら、からかわれている可能性がある。

 男性的な体格でいえば、ダンジョンに潜ることによって筋肉が発達した可能性もあるし、胸はサラシなどで押さえれば少年に見えなくもないだろう。

 確かめねばならない。


「よし」


「あ、え、ちょっとエルムさん!? なにをするんですか!?」


「本人かどうか確かめる」


「えぇ……まぁ別にいいですけど」


 エルムは真顔のまま、ウリオの上半身を触ってペタペタと確認。

 真っ平らだった。生物的に男だった。

 念のため合意の元に服を脱がせてみたが、曝け出された肌的にも完全に男だった。


「……よし」


「いや、エルムさん。何が『……よし』なんですか!? 男同士だからって、恥ずかしいのですが!?」


「落ちつけ、おおおおお落ちつけ……。俺は、お前が“性転換TS”してしまったかどうか確かめようとして、胸を触って脱がせて確認しようとしただけなんだ……」


「も~、冗談が過ぎますよ。男の私だったからよかったものの、女の子にやったら大変なことになっていましたよ~」


「あ。ああ……すすすすすすすまない」


 エルムは見事にパニックを起こしていた。

 デキる竜装騎士でもアタフタするらしい。


「そんなことより、ほら。エルムさん。今日はお店を手伝ってくれるって約束だったじゃないですか。早く一緒に行きましょうよ~」


「そ、そうか……覚えがないのだが、そんな約束をしていたのか……俺は……」


 ウリオに引きずられていくエルム。

 それを眠たげに眺めながら、バハムート十三世は尻尾をフリフリして見送ったのであった。




 酒場まで連行されてきたエルムは考えていた。

 ここにならガイ、オルガ、マシューの三人組などが働いているため、男になってしまったウリコのことを聞くことができる。

 ウリコと二人きりのときはエルムの方がおかしい風に言われていたのだが、酒場なら味方を作って自分が正常だと主張を通せるのだ。


「わ、悪いウリ……オ。ちょっと先に厨房に挨拶しに行ってくる!」


「は~い、エルムさん」


 酒場に入って、ダッシュで厨房に向かった。

 三人組の中で一番立場が強く、ウリコへの指摘に役立ってくれそうな人物――女魔術師オルガに会いに行くためである。

 彼女なら性転換してしまったウリコの状態を冷静に受け止め、相談に乗ってくれるだろう。

 エルムは大きな希望を抱きながら、厨房の扉を一気に開け放った。


「あ、エルムぅ、いらっしゃあ~い。……アタシをジッと見詰めちゃってどうしたのぉ~?」


「……お、オルガ……? だよな……?」


「うん~。どこからどう見てもオルガよぉ~ん?」


 エルムの眼前には、中性的な……男性が立っていた。

 記憶が正しければ、オルガはスタイルの良いお姉さんタイプの女性だったはずなのだ。

 それがお姉さん口調の長身イケメンになっている。


「なにやってんだ、オルガ。もうすぐ客がくっぞ、早く準備しろー!」


「はぁ~い、了解よ。ガイ~」


 後から入ってきたガイは、男性化しているオルガやウリオに対して疑問を持たず普段通りだった。

 自分一人だけが取り残されたような異常な世界。

 エルムは希望を打ち砕かれ、呆然と立ち尽くすのであった。




 エルムは死んだ目をしながら、夕方まで酒場の手伝いをした。

 途中、男性化した勇者と魔王ジ・オーバーとも顔を合わせた。

 勇者の方はショタっていて、ジ・オーバーの方はヒゲ面長身おっさん化していた。

 もはや元の人物の面影がない。

 ここは――女性全員が男性化した世界だったのだ。


「た、ただいまバハさん……」


 自宅に戻ってきたエルムは力尽きるように、ベッドに倒れ込んだ。

 それを楽しそうに眺めるのは、今にも笑い出しそうな子竜。


「おかえりエルム。色々と大変だったようだね~」


「ああ……どうやら寝ぼけていて、ウリオとかのことを女性だと思い込んでいたらしいんだ……ハハハ……」


「本当に寝ぼけてるなぁ。ウリオって誰さ? 防具屋をやっているのはウリコでしょ。性別は人間のメス」


 それを聞いたエルムはガバッとベッドから起き上がった。


「そ、そうなんだ! やっぱりそうだよな! ウリオじゃなくて、ウリコだ! 俺の記憶違いじゃない、今日はみんながおかしいんだ! ここは何かが変わってしまった世界なんだ!」


「寝ぼけているのなら、もう一回寝れば解決するかもしれないよ? だって――」


 バハムート十三世は眠たげに、アクビをしたあと、フワフワと笑った。


「――所詮、世界は胡蝶の夢だから」





***




 ガラス窓から眩しい陽光が差し込んでいた。

 ここはボリス村にあるエルムの自宅。


「ハッ!? 朝か!?」


 ベッドから飛び起き、左右をキョロキョロしながら起床する竜装騎士エルム。

 それと、その横にチョコンと座っている子竜のバハムート十三世。


「おはよう、エルム。今日も退屈で、いつもと変わらない良い天気だね~」


「か、変わらないか……? 本当に世界は変わってないか……?」


 エルムは窓の外を覗き込んだ。

 そこにはゴーレムに掴んでもらい、二階の窓へ投げ飛ばしてもらおうとしているウリコが見えた。

 性別は――


「男……じゃなくて、女だ。ウリオじゃなくて、ウリコだ! ここは元の世界だ! やった、やったぞ! 俺は戻ってきたんだ!」


 感激に打ち震え、エルムは勢いよくガッツポーズ!

 これで男性化世界の夢は覚めた。恐ろしい喜劇は終わったのだ。

 ――しかし、揺れた。


「え? 俺のどこが揺れ……?」


 エルムの胸が――おっぱいが揺れた。




―――あとがき―――


 担当編集さんと初期に話したネタがキッカケで、結構前に書いていたおふざけ幕間です。もちろん書籍化ではキャラの性別は変わりません……!

 レーベルはカドカワBOOKS様。

 イラストレーターは天野英様となります!


 追記

 一応、担当編集さんにチェックして頂きましたが、何故か「オチが面白い」と褒められてしまいました。

 大丈夫か、私の担当編集さん!? おっぱいが揺れたオチですよ!? そこを褒められると私の方が恥ずかしくて、いたたまれない気持ちになりますよ!?

 ちなみにそんな作家と担当編集さんの赤裸々なやり取りの一部は、書籍版の後書きに載るかもしれません。

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