弁当七番勝負! 魔法猫組の魔剤弁当!④
「ブレイス様とレンの三分クッキング!」
村の外での食材収集を終えて、いつものように店の厨房にやってきたエルムだったのだが、既に何やら始まっていた。
レンが謎の台詞を言ったあとに『テレレッテテテ~♪』と歌い、ブレイスが厨房作業台の上に食材と調味料の入った器を並べていく。
「……二人とも何をやってるんだ?」
「あ、エルムがきたわ!」
「やぁ、お兄さん。これはバハムート十三世から『流行の料理スタイル』だと聞いたのですよ」
エルムは溜め息を吐いた。
またバハさんが異世界の常識を持ち込んだのかと。
しかし、エルムの弁当監察官の立場としては、特に危険でなければ止める権利はない。
仕方なく黙って見ていることにした。
「よし、それじゃあ三分で弁当を作ってしまいますか」
「おー!」
(……三分で弁当はさすがに無茶だろう?)
エルムが心の中でそう思うのも仕方がない。
弁当のメインであるご飯すら、まだ炊いていない米の状態で置かれているのだ。
常識的に考えて不可能である。
それにブレイスが料理をしているところを見たことがない。
鍋を使うことといったら、魔術用の触媒を調合するときくらいだろう。
「まず、お米を炊きましょう」
「はい! ブレイス様、でも……お米を炊くってどうやるんです?」
「簡単です。煮れば何かできます」
「さすがです! ブレイス様!」
(えーっと……マジか)
ブレイスは大鍋に入っている米に向けて、水魔術をぶちまける。
それをそのまま魔石式のコンロで火にかける。
(米……研いでない……ぞ……)
「あれ、何かおかしいですね。……ああ、そうか。気が付きました」
(そうだブレイス、米を研ぐんだ! あと、しばらく水につけておくのもいいぞ!)
「魔石式のコンロだと火力が足りないんですね」
気が付いたというのは、火力が足りないことだった。
レンが『さすがです!』と完璧なタイミングで相づちを入れる。
エルムは研がない米程度で危険と止めるわけにもいかず、真顔で見守るしかない。
「魔術……いえ、魔法の領域を行使します。まぁ、プチ煉獄や重力魔法などで調整してやれば、一瞬にして米を炊くなど造作もないことです」
「わぁ、柔らかくなった! ……でも、ちょっとベチャベチャっぽい?」
(そうだ、よく言ったレン! やはりキチンと手順を踏んで味見をしながら――)
「じゃあ、風魔法も使って乾燥させましょう。これに調合した竜角の粉を振りかければ一品完成です」
「手早い! さすがです、ブレイス様!」
ご飯という名の、白い固まりが完成した。
上に黒い粉が振りかけられたが、あれは炎竜からゴリゴリと削った角だろう。
「次に、帰り道の途中でちぎってきたドリアードの葉っぱです」
「あの緑のお姉さんのですね!」
実は密かに、元樹魔将軍の森に立ち寄って葉っぱを譲ってもらっていたのだ。
炎竜の角と違って、いくらでもあるらしいので快く摘ませてくれた。
その新緑に染まった葉は、瑞々しく水滴を弾いていた。
「これを弁当箱に詰めます。二品目完成です」
「わー、すごい! もうお弁当ができあがりそうですね!」
(そのままか……そのままなのか……!)
塩すらかかっていないサラダといったところだろうか。
(ヘルシーにも程がある……!)
「最後に、熱帯雨林で調達してきたコレを使います」
ブレイスの背後に積まれていたのは、水場で戦った巨大蜘蛛型モンスターの足である。
追加で狩ったのも入っているために、かなりの量だ。
「この巨大蜘蛛――正式名称は“カニング・ジャイアント・ジャングル・アリアドネ”なので、まぁ縮めて“カニ”でいいでしょう」
(なっ、アレをカニと言い張るのか……!?)
「……さ、さすがですブレイス様……」
いくらレンでも、死闘を繰り広げた巨大蜘蛛を目の前にしてはテンションが下がるらしい。
「このカニを茹でます」
カニと言い張る足を、水の入った大鍋にボチャンボチャンと放り込んでいく。
(これも塩すら……入れないのか……!?)
「おっと、もう三分経ってしまいますね。まぁ生っぽくても、きっと食べられるでしょう。これで完成です」
「本日のメニュー、魔法猫組の魔剤弁当の完成ですー!」
呆然とするエルムに向けて、ブレイスとレンが謎の決めポーズをして三分クッキングが終了した。
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