第九章 勝負! 日替わりダンジョン弁当!
竜装騎士、双子を紹介する
「では、商談は成立という事で! エルム辺境伯がお望みなら、さらにさらに商売の規模を拡大しても――」
「いや、村人が取引したい分だけでいい。これからも必要な分、定期的に頼む」
「はい……そう仰るのなら現在の規模の交易で……。しかし、村が発展していつか“町”になった暁には、さらなる協力をお約束致しましょう!」
商売のことに関しては真摯な商人たちは、満足げな表情で村を後にした。
その場で買い付けたものだけでも、かなりの利益を出せるのだろう。
よくわからないが、それほどにボリス村の品々は価値が高いらしい。
「さてと、あとは――」
村に残されたのは大量の食材や、村人達が希望していた土産、それと――。
「レンっていうの。仲良くして欲しいわ!」
「コンだ! 何かママに命令されて、今日からここに住む事になったぞ!」
ここはウリコの店の酒場。
そこに元気な子供の声が響き渡った。
ニジン伯爵夫人である、アビシニが根性をたたき直すために――もとい、村での生活が教育に良いと愛ある言葉で送り出された双子。
「え、この子たちは母親に捨てられ……」
「まさか……」
「可哀想に……」
テーブルでジュースを飲む双子を囲むように集まってきていた、いつもの面々。
何人かは色々と察したような表情で哀れみの視線を向けている。
エルムはそれに対して、違う違うと否定をした。
「たくましすぎる双子に、たくましすぎる母親のアビシニ。なんだ、まぁ、そういう愛のないことじゃなく、レンとコンのためにというか……」
「あ、わかりました! なるほど!」
「ウリコ、珍しく理解が早いな」
「つまり獅子が我が子を谷底に突き落とす的な!」
ちょっと捻った例えが出来てドヤ顔のウリコ、それを見てバハさんがため息を吐いた。
「はぁ……。ウリコ、キミは自分が住んでいる村を谷底扱いするのかい……?」
「あ、確かにそうですね。地形的に崖とかありませんし」
「いや、そうじゃなくてだね……」
険しい場所とか、底辺とか、そういう意味での“谷底”にしか聞こえないと突っ込もうとしたが、すべてが“ウリコだし”で済みそうな気がして止めておいた。
そのやり取りを見て双子が一言。
「個性的な人が多いんだね!」
「とってもユニークだわ!」
「んっふっふ、このウリコちゃんを褒めても何も出ませんよ! あとで飴ちゃんをあげましょう!」
『わーい』
もしかしてウリコって十歳の子供より知能が低いのでは? とバハムート十三世は訝しんだ。
「まぁ、細かい紹介は後にするとして、レンとコンが住む場所を先に決めた方が良さそうだな」
「エルム、レンはブレイス様のところに住みたいわ!」
「ふむ……同じ猫獣人なら教わることも多いか。ブレイス、どうだ?」
近くに立っていたブレイスは思案げな表情をしたあと、首を横に振った。
「ん~、
「それもそうだな。村人の誰かの空いてる部屋が良さそうだな」
「じゃあ、コンはエルムの家でもいいぞ! エルム強いし!」
エルムは、双子が自らの家に住む事になったらどうなるかを考えてみた。
まず、部屋は余ってるので、そこは大丈夫だ。
何なら“緑”モードで改築して広くしてもいい。
しかし問題は同居人である。
一癖も二癖もあるバハさんと、外見は幼女だが中身は魔王のジ・オーバーがいる。
イタズラ盛りの双子が、もし寝ぼけている二人にでも近づいたら、パワー差で大変な事になるだろう。
それにバハさんはたまに黒い事を言うので教育によろしくない。
「俺の家も……諸事情で止めた方がいいかな……うん……」
「あ、エルム! ボクの方を今チラッと見なかった!? 子供の教育に悪そうとか思わなかった!?」
「……ちょっとだけ」
「あ、また目をそらした! 本当にちょっとなの!? ねぇ!?」
エルムは、何故かショックを受けて涙目になってる子竜をスルーして話を進めた。
「他だと~……三人組や副官の従業員組は、宿屋に住み込みだしなぁ」
「ふっふっふ、このウリコちゃんの出番――」
「却下。お前と一夜を共にしたジ・オーバーが可愛がられすぎてトラウマを負っている」
「双子猫ちゃんに可愛い服を着せるチャンスが……ガックシ……」
うなだれるウリコもスルーして、エルムは視線を一人の女性に向けた。
「勇者なら性格には問題ないし、礼儀作法も教育も頼めそうだ。剣の心得もあるしな。どうだろうか? 宿屋住みでも、大きな三人部屋に移ってくれるのなら差額はこちらが持つし――」
「すまない、エルム殿。わたしは部屋では一人で過ごしたいのだ」
「ああ、そうか……忘れていた……」
未だに性別を隠すため、普段からフルフェイスをかぶっている甲冑姿の勇者。
さすがに部屋では脱ぐので、双子に知られて、それが外部に漏れるのが嫌なのだろう。
「うーん……もうこの場にいるメンバーじゃ無理だな……。どうしようか……」
エルムが頭を悩ませていると、酒場に眼帯で白髪の老人――ショーグンが入ってきた。
機嫌良さそうに話しかけてくる。
「おぉ~、小僧。ここにおったか。で、だ! 注文しておいた米とか醤油、それとアレだ、アレ! ククク……例の清酒は手に入ったか!?」
清酒とはいわゆる米から作られた日本酒の事である。
このノガード大陸ではワインや蜜酒、エールなどが主流なので手に入りにくいのだ。
「ああ、酒場でも使えると思って結構な量を仕入れておいた」
「小僧! やるではないか! さすが拙者の見込んだ
ショーグンは老人特有のしわくちゃな顔だが、その表情は少年のようなわんぱくな笑みを見せていた。
それに抱擁されながら、エルムはふと思いついた。
「ショーグンって、確かお孫さんがいるんだったよな?」
「ん? ああ、いるともいるとも。しばらく会っていないが、年の頃なら十三だ」
「なるほど……それなら頼みがあるんだけど……」
「ハハハ! 久しぶりの清酒が飲めるのだ! 小僧、何とでも頼みを言えい!」
――こうして双子の住む場所が、ショーグンの家に決まった。
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