竜装騎士、数億の素材を使って修復を試みる
倉庫の中でエルムは、目の前に倒れて物言わぬ姿になっているガラテアに驚いていた。
「エルムさん。そのお人形さんを知ってるんですか?」
「ああ。王国での知り合いだ。名前はガラテア」
ガラテアは以前、王国の伯爵によって醜い岩のゴーレムに改造されて絶望していた娘だ。
それをエルムが元の身体に戻そうとしたのだが、魂とゴーレムの部分が密接に絡みついていて復元は不可能。
せめてもの結果として、服で関節部を隠せば人間とほぼ変わらない美しい人形の身体を与えたのだ。
「王国で暮らしていたはずじゃ……。それにこの胸に空いた大穴はいったい……」
ガラテアの身体は普通の人間より頑丈な造りになっている。
日常生活ではこうもなるはずもないし、浜辺に流されていたというのも気になる。
激流のような環境で、漂流物と激突したのだろうか……?
「いや、考えるより先にまず修復だ」
非常事態だ、村の素材だけを使う縛りなどは取っ払う。
エルムは“緑”モードにチェンジして、エプロンをなびかせながら、旧友が考案した複雑怪奇なツール類を空間に固定する。
「お兄さん。それ、ハンスの格好ですよね」
「ああ、自分の中の各最高分野を七つ選んだ結果がコレだ」
「そっかぁ。ふふ、そっかぁ。それで
何やらブレイスが涙ぐんでいたが、構っている暇はない。
これより神槍の召喚能力で取り寄せることの出来る複数世界の材料――数億種を無制限に使える修復作業を開始する。
エリクサー、賢者の石、オリハルコン、神龍の牙、世界樹の根、ミーミルの水、天女の羽衣、アラクネの糸、黄金の果実、ヒュドラの毒腺、プロメテウスの種火……。
どれも伝説級の素材。
最初に使う分だけ空中展開したそれらを見て、ウリコが目を丸くしていた。
「え、エルムさん……倉庫の中がすごいことになってますよ、これ」
「しばらくは俺と彼女の貸し切りで頼む」
完全なる身体の作成。
それは原初の“名も無き神”にしか許されない禁忌。
技術的には可能とされても、世界の理によって失敗する因果律に導かれる。
考えてみると、数多くいる神と名の付く上位存在でも不可能なのがわかる。なぜなら、自己の身体をいくらでも作れるのなら、無敵の自分軍団を作ってその地位を盤石のモノにしているだろう。
しかし、そんな神話はどこにもない。
例えるのなら時間遡行の証明が、時間遡行者がいないという簡単な解になるように、神々も一つの身体しか持っていないということは、完璧なる身体の錬成は不可能ということなのだ。
――その世界の理をすり抜けさせる解決方法としては、わざと不完全な身体を作るということ。
材料が泥であったり、岩であったり、または寿命の短いホムンクルスなどだ。
ガラテアという存在もそれである。
人形という不完全な身体ながらもエルムの心情から、なるべく普通に生活させてあげたいという葛藤。
完全と不完全のギリギリの領域で、この日常に条件付きで溶け込める身体が誕生したのだ。
「ボディは元には戻ったが……」
修復は丸一日かかった。
電気ではなく魔力稼働のために、内部に浸水してもそこまでの問題はなかったのだが、なにぶん細かい部分が多い。
自己整備機能も完全に止まっているために、ほぼイチからの調整である。
城を一つ造るより、ガラテアの身体を一つ修復する方が難度は高い。
それを無制限の素材を召喚して、“緑”モードで世界最高の技術力を発揮することで可能とした。
エルムにしか出来ない芸当である。
しかし――。
「問題は魂の方か……」
人形の身体に定着させている魂の調整が、今のエルムには難しい。
これが技術力単体でどうにかなるものなら平気なのだが、魂の調整に最も適しているのは魔法を掛け合わせた方法なのだ。
最初の時とは違い、ガラテア自身の魂が安定していないので非常に困難な作業である。
――ガラテアを復活させるためには、魔法の細やかな制御が必要だ。
「お兄さん、わかってますよね?」
「……ああ、わかってる」
何もかも見透かしたようなブレイス。
ガラテアの命がかかっているために、魔法は苦手意識があるとか言っていられない。
「お前の魔法の修行を受けるぞ、ブレイス」
「かしこまりました、お兄さん♪」
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