竜装騎士、皇帝に羨ましがられる
それから三人は色々なところを観光した。
大衆浴場であるテルマエ。
「竜の飼い主よ、貴様は早着替えが得意なのだな。一瞬にして水着になってしまった」
「早着替え……?
勇者のやつ、竜装騎士のことはボカして説明する配慮はしてくれていたのか……」
「それはそうと、さっきからベタベタしている男は知り合いか?
バハムート十三世の姿も見えぬが」
「ボクはただの通りすがりだよ~」
「ふむ、ただの通りすがりでも民草はそのくらいのスキンシップなのか。
どれ、余も負けてはいられぬ!」
「ええい、シャルマも、バハ……じゃなくて自称通りすがりもベタベタするな離せ!」
マシューの実家である武器屋。
「ここにあるSランクの武器は見事だが、余の大剣には届かぬな。
そういえば……竜の飼い主、貴様の槍もかなりの一品と見受けるのだが……」
「いや、ただのランクのつかない槍さ──っと、いけない、店員がこちらをじっと見ている、逃げるぞ!」
真実を言わないと手を食い千切られるという石のオブジェ。
「余は……ただの民草である……偽りなど言っておらぬぞ……」
「エルム~、シャルマが本気にしちゃってるよ~」
「うん、もう五分くらい手を入れるのに躊躇して固まってるな」
そんな他愛もない帝都観光をしていたら夜になった。
三人は心地良い疲労感と共に、勇者が用意してくれていた宿で休んでいた。
最高級のスィートルーム。
寝室には大きなベッドが三つ。
バハムート十三世はまた少女の姿に戻っていたが、エルムもシャルマも、女性と一緒の部屋というのを特に気にしない。
「ククク……余は満足であるぞ。
まさか、民草がここまで愉快で充実した生活を送っていようとは……!」
「いや、毎日じゃないけどな。休みの日くらいだろう」
ベッドに大の字で寝転んでいる皇帝シャルマに、その横で腰掛けているエルムがツッコミを入れた。
バハムート十三世は、長く人間体でいるのに違和感があるのか、ゴロゴロと左右に転がっていた。チェックのスカートから白いものがチラチラと見えている。
「こら、バハさん。はしたない」
「え~、シャルマはそういうの気にしないっぽいし平気じゃないか~。
それに、良い奴っぽいし~」
「まぁ、そうだが……いや、そういう問題か……?」
エルムとバハムート十三世のいつものやり取り。
それを見てシャルマは、フッと笑った。
「余は貴様らに認められたということか」
「認める認めないも、今日一緒に過ごした仲だしな」
「つまり、それはアレか……噂に聞く……と、友というやつか……?」
そのシャルマの言葉を聞いたエルムは何かを思いついたらしく、ニヤッと悪戯っぽくオーバーリアクション。
「……えぇ、そんなわけないだろう!?
たった一日遊んだだけで友達とか、シャルマどんだけ友達がいないんだ!」
「う……。そ、そうであるな。余の勘違いだ……ハハハ」
エルムの言葉に、悲しそうに笑うシャルマ。
今度はエルムが笑い出した。大きく、楽しそうに。
「嘘だよ、冗談だ。冗談。
お互いに友達だと思えば、もう俺たちは友達でいいだろう?」
「ほ、本当か竜の飼い主!? 余と貴様は友なのか!?」
「シャルマ、せめて名前で呼んだ方が友達っぽいぞ」
「竜の飼い主……ではなく……その……エルム。余と友になってくれるのか?」
「俺としては、もうとっくに友達だと思ってたよ、シャルマ」
皇帝は嬉しすぎて、表情が崩壊した。
とても誰かには見せる事ができないので、枕に顔を埋めるのであった。
エルムとしては、その孤高と言う名のぼっちの気持ちが理解できず、首をかしげるばかり。
バハムート十三世はそれを面白そうに眺めていた。
「しょうがないな~。
エルムが
キミがエルムを裏切らないのなら、少しだけ助けてあげる」
──ただ、裏切った場合は王国のように──と小声で呟くのだった。
それから三人は、深夜まで話した。
皇帝の苦悩、王国での葛藤──。
互いの立場をぼかしながらだが、確かに通じ合っていた。
中でも盛り上がったのは、ボリス村の話だ。
シャルマには物珍しい、小さな村のできごと。
それはありきたりのように思えて、刺激的で、人々の優しさがあったり、心の豊かさがあったり。
今日の出来事と同じくらい、胸躍らせるエルムの話。
幼き日、母が語る昔話のように聞き入った。
「そんな素晴らしい場所で村長をしているのか、エルムは……」
「ああ、俺自身はあまり活躍していないが、周りのみんなが優秀でな」
「羨ましい、余は羨ましいぞ! いつか、村を案内しろ!」
「よろこんで、シャルマ」
皇帝は喋り疲れたのか、目をつぶった。
そしてポツポツと、まどろみの中で語る。
「もうすぐ生誕パレードがある。余は、下らないと思っていた。生まれた日など無意味、何を成して……どう死ぬかが一番重要だと思っていたからな。
だが……民草が生誕パレードを楽しみにしているのなら……、それに答えてやるというのも勤めかもしれんな。
余にとって……民草は数字だった、今までは。……エルム、貴様が……教え……て……」
スゥスゥと寝息を立てる、金色の髪をした一人の青年。
今はただの民草として、ゆっくりと眠っている。
「おやすみ、シャルマ。明日からはまた若き皇帝として頑張れよ」
エルムは優しく毛布を掛けてやった。
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