バカップル、いつの間にか守護神に倒されていた

「クソッ……! 全部マシューとエルムのせいだ……!」


 聖騎士ガイと、女魔術師オルガは蘇生させられていた。

 ダンジョンの中で死んでしまっても、魂の拡散を防ぐ結界と、そこで息絶えた者の身体を復元する際の触媒割引が行われる。

 つまり外での蘇生と違って非常に楽なのだ。

 だから冒険者は、ダンジョンという危険度が高い場所にも潜る。


「パーティー抜けちゃったわねー、エルムとマシューの二人ぃ~」


「チッ、無能が抜けてくれて清々したぜ!

 装備さえあれば、オレたち二人で十分だ! なぁ、オルガ!」


「ま~ねぇ~ガイ~。無報酬でいいって、そのままどっか行っちゃったしぃ~」


 エルムは蘇生魔術を使ったあと、マシューと共にダンジョンの外に出て行ってしまった。

 ドロップしたSランク装備も放置して。

 その歯牙にもかけないという態度に腹を立てて、イライラしながら地上に出てきたガイとオルガのカップル。

 早速、お宝を売りにウリコの防具屋へとやってきたのであった。


「しっかし……誰もいないな、ここ……」


「そうね……」


 ウリコの複合店舗と化した建物は、いくつかやってきた追加の別パーティーの相手で大変なことになっていた。

 人手不足だ。

 ウリコとジ・オーバーで何とか回しているが、宿屋と酒場側で手一杯。

 そのため防具屋が無人になってしまっている。


「でも……いっぱい高価な装備が置いてあるな……」


「ねぇ~、アタシぃ……思っちゃったんだけどぉ~、誰もいないならぁ~」


「へへっ、オレも同じ事を考えてたぜ。不用心にしてる方が悪いんだ……!」


 ガイはニヤニヤしながら、聖騎士らしからぬ行動に出ようとしていた。

 店のSランク装備を盗もうというのだ。

 目の前にはプラチナ色をした立派なロングソード。

 それを手に取ろうとした瞬間、元気な声が聞こえてきた。


「──ラシャッセー! ボリス村の防具屋へようこそー!」


 そのウリコの声に、ガイはビクッとするも、悪事は慣れているので表情は平然としたままだった。


「お、おう。商品を見せてもらってるぜ。買おうか迷ってるんでな」


「そうですか! どうぞどうぞ、試し斬りとかしてもいいですよ!」


「はっ、オレくらいの一流冒険者になれば、見ただけでパッとわかっちまうもんさ」


 その言葉を真に受けたウリコは、表情を輝かせた。


「おぉ! 武器を見ただけで! すごい!

 いや、実はですね……。さっきも言ったように、本来ここは防具屋なのですが、武器も取り扱うようになってきていて、知識が足りなくて困っていたのですよ。

 どうですかお客さん、アルバイトしてみませんか?」


「アルバイトかー、最強職の聖騎士には必要ねーなー。

 ああ、それで買い取りはやってるか?」


「はいはい! ドロップ品の買い取りはお任せ下さい! いくつでも平気ですよ!」


 ガイは背負っていた袋から、ダンジョンのドロップ品を取りだした。

 カウンターに載せられたそれらを、ウリコが鑑定を始める。


「どうだ? SSSランク装備だろう?」


「ん~、Sランク装備ですね。

 一層ボスの物ですが、それなりに需要がある品なので勉強させて頂きますね」


「チッ、ぼってんじゃねーだろうな?」


「あはは~、高額品を取り扱う店が信用を失ったら終わりですよ~」


 営業スマイルのウリコから、金貨を受け取ったガイ。

 そのまま、先ほどいじっていたプラチナ色の立派なロングソードを購入。


「マシューなんかが選んだ雑魚ショートソードなんて使ってたから、ダンジョンで苦戦しちまったんだ。

 オレに相応しい武器があれば次の二層も楽勝だぜ」


「あ~、確かにねぇ~。

 アタシも宝石が散りばめられた、可愛い金属杖を買おーっとぉ」


 オルガも見た目でSランク杖を選び、特に何も考えないまま購入してしまった。

 差額で足りない分は、マシューから吸い取っていた金だ。


「アリャシャッシター!」


 ウリコとしては、買い取りより販売価格の方を数割高くしてあるのでガッツポーズである。


「あ、大丈夫だと思いますが、村の中で武器は使わないでくださ──……。

 聞かずに行っちゃった~」




* * * * * * * *



 ──後日。

 ボリス村ダンジョン二層。

 雑魚のスケルトン相手に、ガイとオルガは苦戦していた。


「クッソ! なんだよこれ! 剣が長くて使いにくいぞ!」


 当たり前だが、ロングソードとは、長い剣という意味である。

 ガツンガツンと狭いダンジョンの壁にぶつけ、普通に振るうこともままならない。

 ガイにショートソードを選んでいた、ウェポンマスターのマシューの武器選択は正しかったのだ。


「が、頑張ってよガイ!

 何かアタシの方もおかしくて、攻撃魔術を数発撃ったら魔力が切れちゃって……」


 オルガは魔術師として、魔力総量が低い。

 そこでマシューは、威力よりも魔力伝達率が高く、効率重視の植物系の杖を選んでいた。

 だが、先ほど購入したSランク杖は、頑丈だが効率の落ちる金属製。

 しかも魔力を大きく消費して、威力を高めるという宝石触媒の効果もかかっている。


「ひぃ……ふぅ……。やべぇ……。なんかすげぇ疲れてきた……」


「ガイ!? ちょっと、ねぇ、ガイなにやってんのよ!」


 ガイは普段から基礎体力作りをさぼっているために、圧倒的に筋力が足りない。

 魔力による筋力強化も下手である。

 軽いショートソード以外では長期戦闘が無理なのだ。

 聖騎士という職特性の持ち腐れだといえる。


「や、やだ……ちょっと……オークとかも後ろから来たわよ……」


「やべぇ、やべぇ、やべぇ……オレたち死ぬんじゃねコレ!?」


 その通り全滅した。




* * * * * * * *




 再び蘇生させられて、ダンジョンの外に出てきたガイとオルガ。

 今度の蘇生はエルムではなく、通りがかった別の冒険者だったために、かなり高額の蘇生費用を取られた。

 使えないSランク武器だけは立派な──文無しとなった。


「……なんかアタシ、死ぬ直前の記憶が飛んでるんだけど腰が痛い……」


「オレも腰が痛い……」


 二人は妙に防具がボロボロで、汚れていた。


「クソッ! クソッ! クソッ! これもみんなマシューとエルムのせいだ!

 あのクソ野郎共……!」


「えぇ……そうね。見かけたらただじゃおかないわよ……」


 拳を握り、復讐心を燃え上がらせるカップル。

 ──と、そこへ通りかかってしまう運の悪い少年がいた。

 話題のマシューである。


「あれ? 二人ともどうしたんですか? ボロボロじゃないですか?」


 もう過去とも決別してスッキリした表情のマシュー。

 二人の事を冒険者として心配していたのだが、逆にそれが勘に障ったらしい。


「誰のせいでこうなったと思ってるんだマシュー!」


「あんたのせいで、うちのパーティーはメチャクチャよ……!」


「え? えぇ……?」


 いちゃもん過ぎてワケがわからないマシュー。

 まともな人間ほど、こんな八つ当たりは気が付かないものである。


「へへ……、丁度エルムもいねぇみたいだな……」


「あ、はい。エルムさんはダンジョンに潜っています」


「じゃあ、今お前をぶっ殺すのを誰も止められねぇなぁー!!」


「ひぇ~」


 ガイの無駄に長いロングソードが振り上げられ、正当性のない暴力がマシューを襲う!


 そのとき、それに反応した存在があった。

 常に村の安全レベルを魔力センサーで計測し、きたる時を待っていた守護神。

 暗く狭い場所に封印された巨大な守護神は、ゴテゴテと付けられた装備を切り離しパージ


 封印されていた格納庫をぶっ壊しながら跳躍──マシューの眼前に立ちふさがってかばった。


『マスターエルムの命令を実行。村での戦闘は許さない』


 それはエルムが作った、全長三メートルのミスリルゴーレムであった。

 ウリコの防具屋横にあった格納庫という名の物置を破壊しながら出てきたため、ウリコが損害賠償の計算を始めたとか、いないとか。


「な、なんだこの金属のゴーレム!? 魔王軍でも復活したのか!?」


「アタシたち何も悪い事はしてないわよぉ!?」


『マ”ッ』


 奇妙な声を出しながら、ミスリルゴーレムは二人を手で握った。

 右手にガイ、左手にオルガ。

 強い力に拘束されて、Dランク冒険者では脱出できない。


「ひぃぃぃぃ!?」


「こ、殺されるぅぅぅぅう!?」


 本来なら隕鉄蟲コアの性質から、普通にカップルを握り潰してしまうところなのだが、エルムのおかげで非殺傷モードになっている。

 そのために対象を弱らせるだけで済む。

 ただし、調節がまだなので──。


「ウギャアアアアアアア!?」


「や、やめて振り回さないで、酔う酔う酔……オベロゲロゲロボボオロロロ……」


 ミスリルゴーレムは、カップルを握った状態で両手をグルグルと大回転。

 キラキラと輝く汚い虹が架かった。


「ふー、今日もダンジョンで攻略法作りが捗ったな~……って、なにこの状況……?」


 丁度、そこにダンジョンから出てきたエルム。

 いつの間にか勝手に堕落して、ミスリルゴーレムにぶん回されているバカップルを見て、あまりの展開の速さに目をぱちくりさせていた。


 とりあえず、王国の時と違って、ゴーレムが人殺しになってなくて安心していたのだった。


「おい、エルムてめぇ! い、いや、エルム、エルム様!!

 早くこれ止め──オゲロロロォ……」

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