【風邪】罰【小麦粉】
“今朝五時過ぎ、身元不明の男性が四奈川区の路地裏にて発見されました。警察は急ぎ身元を調べています。──…続いてのニュースです“
「また1人童貞野郎が死んだか?」
テレビから発せられたニュースキャスターの言葉は淡々としていてたが、聞いていた俺こと、『猿渡 ツムジ』は怒りを手に、握りこぶしを作っていた
【闇】を持つ罪人は深夜に徘徊し、白い看板を丁度出現させた人間に対して【闇】を無差別に与え、支配下におく特性があった
何を思って仲間を増やしているかは知らないが、俺が過去に【闇】持ちの支配された人間と戦った際には情報遮断の為か、闇を操り、自爆したのだ
俺の背負う罰は、【風邪】罰【小麦粉】
じわじわと精神を狂わせる風邪に、密室での小麦粉をふんだんに使った粉塵爆発で、相対する罪人を屠ってきた
まぁ小麦粉なんて、最初にパンが好きだからという理由に過ぎないのだが…
だが、【闇】持ちと対峙した時は拷問にかけ、【風邪】にした際に、黒い泥のようなものが拷問対象者の口や鼻、耳から皮膚に至るまで大量射出し、溺れさせたのは軽くトラウマを抱えるレベルだったほどだ
自爆をしたのは正直驚いたが、【風邪】を使いながらの拷問前、軽口を叩き合いながらではそういった兆候は見られなかった
支配者である【闇】持ちの本人による関連された情報を告げようとすると、発動する仕組みだったらしい
つまり、次に別の【闇】持ちと出会っても自爆される危険性があるため、拷問は意味をなさないことが俺の中では証明されたのだ
【闇】を背負う罪人、そのほとんどは危険だ
支配下に置ける分、【闇】持ち本人に近づくことも出来ず
また、運良く出会ったところで対策の練りようがないのも事実
俺の場合は相手が阿呆だったのか、運良く“【闇】罰【マッチ】“と言うことが分かり、長引く戦闘での勝利を経たのだ
【マッチ】の赤い部分だけが暗闇の中を発火するのは、能力者アニメでもそうそうないだろう
最近の近況を知らせるニュースは終わり、天気予報に入ったテレビを俺は消して、ソファから立ち上がる
気温が低いこともあり、暖房の入っていないリビングでは、キンキンに冷えたコーヒーが俺の喉を刺激し、脳を醒ます
「……仕事、行くかぁ」
時刻は7時を回るか
あと1時間で開店するパン屋は、俺の食事代を浮かせる場所でもあり、仕事場でもある
ボロのアパートを出て、私服のままママチャリで店先に向かう途中だった
天気予報は聞いていなかったが、空を見上げると快晴であった
しかし、人混みがない
小学校が近くにあり、登校する少年少女がいてもおかしくないのだが…
「まずいか…?」
齢33歳を先日迎えた俺
3年経って色んな罪人を倒した俺でもわかる人気のなさ
「人混みを消す罪人か…?にしては、このレベルは騒ぎになるぞ」
過去に地区ひとつを廃墟レベルまでに人を消した奴がいたが、後処理で面倒になったニュースを俺は見ている
都会ではなく、発展途上の田舎みたいな、観光地だったことが幸いだったか
しかし、今回はどうだろうか
小学校の予鈴が鳴り、この時間になると急いで走り込む小学生もいるのだが、気配はない
────ふと、目をこらす
電柱があり、朝日が影となる場所
そこに立つ人は、フードを深く被っていた
「【闇】持ちか?」
俺が声をかけるも返事はない
それもそうだ、自身の罰を晒す罪人などほとんど居ない
「敵対行動は自身の命を縮めるぞ?あと俺は仕事に行かなきゃならねぇんだ」
と、自分は急いでいますよと主張するが、相手は佇むだけで動かない
「返事なし、ね…まぁ面倒だから好きにしてろ、俺は面倒がゴメンだ」
「面倒にはならない、我が寿命のために貴様を殺す」
声が掛かる
それは佇んでいた人間の物で、発言とともに襲いかかる【闇】と、謎の白い霧は俺の顔面目掛けて襲いかかる
「朝っぱらから堂々と…っ!これだからテロリストは嫌いなんだ!」
俺は一気に小麦粉を手から噴出し、姿を晦ます
【闇】と白い霧は小麦粉の煙幕をすり抜け、既に居ない場所に向けて黒白く塗りつぶした
(黒いのは【闇】で間違いないな…しかし、白い霧はなんだ?氷属性系なら当たった瞬間に即座に冷凍拘束だろうが…)
思考が適切だろうと外れてるだろうと、謎の攻撃を受けてまで判断はしたくなかった
仕事開始までの時間は30分くらいか
それまでに仕留めなければ店長に大目玉を食らってしまう
朝日が零れる中、次々と襲う白い霧混じりの【闇】は全面展開した小麦粉を飲み込み、視界を晴らす
「やはり近くで発動しなければ当たらぬか!」
どうやら相手は最初の一撃で仕留めたかったらしく、二射、三射共に外れるところを見ると相当焦っていることがわかった
相手が焦る理由としては
日常に負担がかからない為
それか、己の欲求の為
予想は後者だ、対峙する前に発言した「我が寿命の為」を思い出せば行き着く結論だ
俺は焦る相手を視界に捉え、接近する
【小麦粉】は密室でしか使えない
煙幕としては有能だが、屋外となると風等に巻かれてしまうのがオチだ
【風邪】もまた遠距離攻撃としては不向きだ
近付いて口元に発動しなければ効果を得られない
故に近づく
その判断が正しいか否かは、その後にわかったことだったが
「んなっ!?」
謎の白い霧が、相手を包んでいたのだ
これではどのような攻撃を食らうか分からない
すぐさま後退しようとしたが、俺と相手は瞬時に白い霧に包まれた
「捉えたぞぉ!」
相手はそう言うが、俺は無視して突っ込んだ
【小麦粉】を手に纏わせ、クリーム無しのパイ生地を作り出す
そのパイ生地に【風邪】のウイルスを注入し、相手の顔面に叩きつけた
「おぶっ!!」
見事命中し、俺は相手の後方へと通り抜ける
その際に触れた白い霧の正体は、綿生地のような感覚だった
「シルクのような肌触り…──綿毛かこれ?」
「ゲッ、ゲホッ!せ、正解だケーキ屋さんよ!……ゴクンッ!クリームのないパイ生地かよ!」
キャラ作っていたようだが、化けの皮が剥がれたフードの男は顔面をパイ生地でフカフカにしていた
てか、普通に食べたなこいつ
「うっ!な、なんだ…体が熱い?寒気が!足も震え…っ!お前何をした!」
誰が言うものか
と俺は表情が笑顔で歪まないように、無表情を貫いた
【風邪】の効き目は健康体には即効性がないものの、虚弱体質には瞬時に効く
【闇】罰【綿毛?】の男は体が弱かったのだろう、一口食べて効いていたようだ
「あ、ガァァァ!こ、こんなことで死ぬ訳には!」
無論、ただの風邪なので睡眠時間を増やし、適切な薬を飲めば1週間で治るものだ
今すぐ治すには?
各自の罰で治せるのだ
なので、【闇】持ちの相手からすれば全てを吸収する【闇】の一部の能力を使えば容易いことなのだ
以前拷問をかけた男はそれを行い、俺の風邪をなかったことにしたのは正直凹んだが…
「ハァー…ッ!ハァー…ッ!クソ!なんなんだよこれぇ!」
知恵が回らないのか、相手の男は俯き出し、地面へと倒れ込んだ
決着が着いたのである
なんともアホな勝ち方だが
「救急車呼んでやるが、来るまでに聞きたいことがある」
俺は携帯をだして911をする
掛からなかった
パン屋の軽いボケだ、次はちゃんとする
119をし、救急に病人の状態と場所だけを教えるとすぐさま切る
名前を教えるほど間抜けではない、説明など面倒だからだ
「それで…と、綿毛野郎。【闇】の支配人はどんな奴だ?」
「ゼェー…ゼェー…びょ、病人に無理難題押し付けんじゃねぇ…」
「あっそ、んで?誰なん?」
「ゼェー…、い、言えば治るのか?」
「あー、うん、わからん、悪化すると死ぬからな」
「わ、わかった、言うよ…と言っても俺は下の下だから、支配人を知ってる人間の居場所くらいしか言えないけど…」
ん?本人を直接知らなければ自爆しないのか?
様子を見る
「ゼェー…そ、それで場所ってのが四奈川区の廃校した小学校の教室にいるんだ、何年何組までは知らない…これでいいだろ!?治してくれよ!!」
「ん、あぁ、わかった。じゃあな」
場所さえ特定出来ればもう用済みだな、こいつには病院のベットの上で素数でも数えててもらおう
「え、ちょ、ちょっまっ!嘘だろおい!まって──…」
俺がパン屋にたどり着く頃、横を救急車が通り過ぎたのは記憶に新しかった
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