灰鳥
みずたまり
本編
そこには、赤青黄色、様々な虫たちの音色が満ちていた。その中心に一人、少年がその背丈と変わらない岩に腰掛けている。苔むしたその固い椅子には木の色をした小動物が数匹たむろしていた。季節柄、木々の枝には葉が宿り、青々としたその体で陽光を一身に受けていた。
その一つの大樹の枝に、灰色の鳥が一羽、周りを伺っていた。岩に座る少年と比べても、その鳥の大きさはひけをとらなかった。
ついに怪鳥はその巨大な梢から飛び立ち、切れ切れの光に身をさらしながら少年の周りを旋回した。途端、虫たちはなりをひそめ、小動物は散り散りに逃げ出していった。ただ一人、少年はその岩に佇んでいた。
怪鳥はその少年を不思議に思った。
「お前は何故俺から逃げないのだ」
大岩のすぐ近くの木の枝に羽根を休めたのも、そう問いかけるためだった。少年は何も答えなかった。怪鳥は黙っていたが、しばらくすると再び空中に身を投げ、もとの梢の中に消えた。
ある日は、雨が降っていた。太陽の光に照らされた雨粒は虹色に輝き、大地を潤していた。動物や虫たちは共に、恵みにその身を躍らせた。雨が彼らを撫でるごとに、色は一層鮮やかになっていく。しかし、怪鳥は以前のように飛ぼうとはしなかった。ただ、雨を避けるように大樹の元に座っている少年を見つめていた。その少年は自分の周りではしゃぎ回るものたちと戯れていた。
雨が上がると、すぐさま怪鳥は飛び立った。すると、いつものように少年以外は辺りからいなくなった。それを見た怪鳥は飛び立ったときよりも遅い速度で、今度は少年の定位置に居座った。しかし、少年は怪鳥を気にも留めず、巨木から椅子まで歩き出した。
「お前は何故俺を恐れないのだ。皆、俺から逃げ出しているのに」
再び、怪鳥は少年に問いかけた。少年はようやく口を開き、
「君は、皆に恐れられているんじゃないんだよ」
と言った。
「ならば何故皆は俺から離れていくのだ」
怪鳥はその翼を大きく広げ、少年を問い詰めた。
「皆はね、君を嫌ってるんだよ」
少年は残念そうに真実を伝えた。怪鳥はその返事を聞き、広げた翼を静かに閉じる。
「何故……皆は俺を嫌うのだ」
怪鳥はもう少年の方を向いてはおらず、代わりにその双眸は空を反射し、真っ赤になっていた。
「仲間じゃないからだって、言ってたよ」
その答えを聞くか聞かないか、怪鳥はその大きな翼を大きく一打ちし、うっすらと暗くなりつつある大空に舞い上がった。その体は一直線に天を目指していた――が、突如、雷鳴のような轟音が轟き、再び空は赤く染まった。
少年のすぐそばに、小さな曇り空は落ちてきた。ゆっくりと少年はしゃがみこみ、怪鳥に語りかけた。
「君だって、中は皆と同じだったんだよね」
群青になった空には金銀の星々が瞬いている。白銀の月は、今は鮮やかな真紅に染まった怪鳥を静かに看取っていた。
灰鳥 みずたまり @puddle-poodle
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