中間管理職マオウちゃん 部下のスライムはチートモンスター?

@rakugohanakosan

第1話昇進

 来た。ついに来たぞ。このマオウちゃん、ついに部下を持つことになった。


 思えばここまで苦労の連続だった。


 小学校の時から、やりたいゲームも我慢して、お受験のための勉強に次ぐ勉強。クラスのやつらには『ドラクエの話もエフエフの話も通じないガリ勉』と蔑まれてきた。わたしのケツを蹴っ飛ばしてくる足が速いだけでスクールカーストの頂点に君臨するやつもいた。


 だが、猛勉強の甲斐あって、みごと一流中高一貫校に合格した。


 しかし、そこがゴールではない。その先には大学受験が控えているのだ。そのうえ、小学校時代に勉強だけでは一流のモンスターにはなれないとわたしは悟った。なにせわたしはモンスターである。人間界以上にモンスター界ではケンカが弱いとなめられる世界なのだ。


 わたしは勉強だけが取り柄の世間知らずの学者なんてものになる気はこれっぽっちもないのだ。


 大勢のモンスターを部下に従え、人間界を恐怖におとしいれる魔王の地位こそこのマオウちゃんにふさわしい。そのためにはスポーツでもトップにならなければならない。当然、この学校で実力ナンバーワンになるのはもちろんだが、それだけではダメだ。

 

 実力はあっても偏屈で、チームメイトからうとまれるようなモンスターがトップに立てるはずがない。実力でもナンバーワンで、人望もそれにともなわなければばらないのだ。『勝てば官軍』なんて言葉は学校では通じないのだ。どんな陰口を叩かれていじめの標的になるかわかったものじゃない。


 そのためにもわたしは努力を惜しまなかった。本を読み漁り、理論的なトレーニングを学んだ。うさぎ跳びをしろだとか水を飲むなとか非科学的なことを言ってくる威張り散らすだけが取り柄のバカな教師もいたが、そんな無能には言葉だけ『はいはい』言っておいて裏ではきちんとした休息をとった。


 無能な教師に馬鹿正直に従って、体をぶっ壊す愚かなモンスターもいたが、同情はしなかった。言われることに黙って従うしかできない能無しはいずれ誰かに利用されて骨までしゃぶられるからだ。むしろ、それに早く気付けて幸運ではないか。


 わたしの綿密な計画とたゆまぬ努力の結果、みごとにわたしは野球部でピカイチの実力となった。最初は『ガリ勉が無駄に張り切ってる』なんて笑い者にされたが、そんな声はわたしが三振を撮りまくり、ホームランを量産するごとに消えていった。


 無能教師が自分を名コーチと調子付くのは気分が悪かったが、学校内でそれなりのポジションにある野球部顧問に気に入られるというのは悪くない。


 わたしは野球部で嫌な教師や先輩にこびへつらい、生意気な後輩を裏で締め上げて言うことををきかす処世術を学んだ。実に有意義な経験であった。


 当然、大学は現役でトップ大学である帝都大学に合格した。たかがスポーツなんてものに熱中して、将来を棒に振るなんて愚かなまねをわたしはしない。あくまでスポーツは踏み台に過ぎないのだ。


 その踏み台をわたしは大いに利用した。帝都大学でも野球部に入り、即レギュラーでエースにして四番打者になった。勉強ばかりして体を鍛えることをおこたった将来を見据えていないガリ勉にわたしが劣るはずはないのだ。


 そして、帝都大学はマスコミにも注目されている六大学リーグに加盟している。帝都大学以外は私立で、スポーツ推薦なんてものを取り入れて、ほとんど野球部はプロ予備軍みたいなものだ。そんな野球マシーンにはさすがにかなわなかったが、そこがまた大衆の心をつかんだ。


『文武両道な国立大学の弱小チームを率いる四番エースが、野球エリートに善戦し、惜しくも敗れる』なんてのはこの上ない美談である。おかげでおおいにわたしは有名になった。


 そんなわたしには当たり前だがプロからもスカウトの打診が来た。実力をプロに見合わないが、客寄せパンダとして、そして将来の球団経営幹部候補生として誘われたのだ。


 だが、わたしは丁重にお断りした。


 わたしはたかが一プロ野球チームの経営者で終わるつもりはないのだ。わたしは満場一致で主将に選ばれたが、帝都大学の野球部主将ともなれば就職先は選び放題だった。わたしは迷うことなく大魔王軍を就職先に選んだ。


 この世界では大魔王軍とジュエルウエポン軍が双璧だ。小学生の頃は、ドラクエもエフエフも知らないとバカにされたが、そのドラクエを大魔道軍が売り、エフエフをジュエルウエポン軍が売って財をなしていて、ツートップ企業になっていると知ったのは中学生の頃だった。


 大魔王軍をわたしが選択したのは、ジュエルウエポンでは社員に怪しげな人体実験を施しているといううわさがあったからだ。わたしは会社を利用したいんであって会社に利用されたいのではない。


 七人の英雄軍や、亀の王様軍という選択肢もあったが、それを選ぶことはなかった。前者は大魔王軍やジュエルウエポン軍にいささか格が落ちるし、後者は仕事が姫をさらうだけのお仕事と聞いて除外した。わたしは魔王として人間を苦しめたかったのだ。


 入社してからも苦労は続いた。始発で大陸を端から端まで横断し、終電でその日のうちの戻り、寝る間もなく誰よりも早く出勤し、報告の準備をととのえ上司にプレゼンするなんてのは日常茶飯事だった。


 接待麻雀や接待ゴルフでも徹底的に上司にゴマをすり続けた。


 その苦労の結果がヒラ社員からの出世であり、課長マオウという地位なのだ。

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