ぶどうの香りと血の匂い

 窓の外を見ると夜になり、ゆっくりと扉が開くと村人たちが入ってくる。

 とても正装な格好ものが居れば、私服のものもいた。

『多いな……。部屋の広さから人が入るとしたら100人以上かな?』

 あらめて部屋を見渡すと体育館のような二階に廊下があり、広さ的に60m×40mくらいだ。

 とりあえず脅迫文のこともあったので少し考えてみた。

『犯人は王様に怨みはあるのは間違いない。ただ謎なのが対象者ターゲットである区与原くよはらに仕打ちを受けた可能性はあるかもしれない。ただ……』

 妙に引っかかるところはあった。それは王様の態度からしてだ。暗殺が考えられるにも関わらず余裕な感じだ。恐れてもいいはずだが、目の奥底には覚悟があった。

『……ダメだな。事情が把握しきれてないから区与原くよはらが犯人とは考えられない。王様だから怨まれると思われる犯人が多すぎる』

 眉間をシワを寄せて。色々と考察してみたが情報が少なすぎた。ここはあえて聞いてみるのも手かもしれない。

 そこで近くにいた緑色のドレスを着た。おばさんに聞いてみる。

「すいません。王様のことを聞きたいのですが」

「あら見慣れない服装ね旅人かしら? 知ってる範囲でいいなら構わないよ」

「ここの王様は人柄とかどうですか?」

 素朴な感じでアズサは聞いてみた。服は確か動きやすいようにベージュのジョガーに白いTシャツと黒いカーディガンを着ていた。

『や、やべぇ。今思い出したけど服装のこと考えてなかったわ〜〜』

 内心ではやってしまった感はあったが何とか乗り切るしかなかった。

「そうね。王様はとてもいい人だわ。戦争があった時は指導力があって。信頼がとても厚い方なのよ。他国から恨まれてるかもしれないけど、この国の人達は結構支持してるわね」

 なるほどね。王様が信頼があるなら国内の人。いわゆるここに参加している村人は犯人と考えない方がいいかもしれない。

 ただあり得るとしたら他国からの刺客がありえる。

「そうでしたか。ありがとうございます」

 優しい笑みでお礼を言うとおばさんは手を振ってくれた。

 村人からの聞き込みでわかるが、穏やかな人が多い。それだけ治安がいいという証かもしれない。

 この後は何人か王様のことを聞いたが似たような答えが多かった。

『……やはり外部かな。事情を王様に聞きたかったけど信頼関係の方で崩れたら厄介だな』

 ほとんどの人はストレートに聞いた方がいいと思う人は多いが、探偵はそんなことはできない。

 それは。直接聞くというのは場合によっては命の危険性や信頼関係の面で警戒されることがある。

『でもよくよく考えたら、何も起きなければ終わりか。深く考えない方が良さそうだ』

 何気なく考えていると横から飲み物が入ったタルのカップがあった。

 渡された方向を見るとユミナがいた。

「お疲れ様です。良かったらお飲み物をどうぞ」

「あ、ありがとう。お酒じゃないよね?」

 警戒気味になっていたが飲み物の匂いを恐る恐る嗅いだ。

「大丈夫ですよ。この土地で取れた新鮮なぶどうジュースです」

 アズサは『ふーん』と思いつつ飲んでみる。

「お、おいしい」

 あの世界のジュースとは違い。ぶどうの濃厚な香りと甘みがぎっしり舌に伝わり、飲んできたジュースの中では上位に入るくらいだった。

「お代わりが必要でしたら、私に声をかけてください」

「うん。ありがとう」

 まだジュースを飲み。気持ち的に休めることにした。

 そう言えばレノフィが遅いな。感覚で的に1時間経っているが、そろそろ来てもいいが……

 すると金管楽器の音が流れて、家臣の1人が王座の隣の方にスポットが当てられた。

「これより! 王様が入場されまーす! 盛大な拍手でお迎えください!」

 村人たちは拍手をするとドアが開き、大きな赤いマントを巻いた王様が王座の方に向かって歩く。

 その周りには兵士たちが護衛として付いており、速度を合わせていた。

「すごいな……」

 口を開けた状態ですアズサは見ていた。

「王座の儀式は後継者に王冠を引き継ぐものがあります。まだアズサ様はお会いされてはいませんが、ここには王子もいます」

 ユミナはこの儀式について教えてくれた。

 王子の存在は初めて知ったが、どんな人だろうか。

 王様が王座に着いて、そのまま座っていく。

 周りを見渡すと弓矢での暗殺は難しいとアズサは考えた。2階の通路を見ると兵士達が見守っている。

「次は王子の入場です!」

 少し間を置いたあと家臣が言うとまたドアが開いた。

 何となくイケメン系の王子かと期待をしていると……

 ポヨン。ズンッ! ドシン!

『……は?』

 その様態を見て思っきり幻滅をした。

 それはそうだ。ぽっちゃりしていて、背は一五〇cm代の小さな身長。そしてブサメン!

 これが王子なのか……。おとぎ話よ。おしえてくれ……

「……ぷっ」

 失礼かもしれないがアズサはユミナに見られないように、顔を背いて笑いを堪えていた。こういうのもあれだがイメージとのギャップもあるが、格好の合わなさに耐えきれなかった。

「アズサ様? どうされましたか?」

「い、いやなんでもないよ」

 これ以上笑ってはいけない。ユミナだけでなく、ここの人達に反感を買われる。

『いやぁ……笑った。とりあえずオレの世界のコスプレがひどい版に見えてしまったけど、外見で判断をしてはいけないな』

 アズサが笑ってるうちに王子は玉座の前まで近づいていた。

 膝を着いていたため、そろそろ儀式が始まるのだろう。

「これより! 王家継承の儀をはじめる!」

 王様はゆっくりと立ちあがり、王子の元に向かった。

 そして彼の前の方に着くと被っている王冠を脱いで、王子に被せようとする……


 ビュン!


 空気が切れる音に気づいたアズサは向かった方向を見る。そして時間が経つと共に血の匂いが鼻に通ってきた。

「きゃ、きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 王様の脳天に矢が刺さっており、王座の方で空中でぶら下がるように張り付けられていた。

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