青春ランチボックス
明日緣
第1話 変わらない日常
2時限目の終わりを告げる鐘が鳴る。座りっぱなしで凝り固まった筋肉をほぐそうと伸びをして、満足気な顔になった彼女ーー
「んあ?あさちゃん今日は一緒にお昼食べないん?」
「あっ、あのね、今日は先約があるの…ほんとごめん!!まいやん、ユキっち!」
椅子を持ち出し、机に各々の弁当箱を広げていた二人に向かって二葉が申し訳なさそうに両手を合わせる。そんな彼女に、まいやんとユキっちと呼ばれた二人は笑って応える。
「いーよぉ、そんな気にせんでも」
「いやー、イケメン幼馴染二人に囲まれてランチとは実に羨ましい限りですなあ。二次小説でも書いちゃおっかな。恋の三角関係って、王道も王道すぎてもはやノーベル平和賞受賞もんだよね。ちなみに私は優等生くんルートがおいしかったりするんだけど浅野はそこの辺どうなのかな?」
「え、えと、よく分かんないけどユキっちのいじわる!」
「ええ!?ごめんてー浅野に嫌われたら私は生きていけないよう」
「…どーでもいいけど、はよ行かんと、あさちゃん。お昼終わっちゃうよ?」
「ほ、ほんとだ!?じゃあまた後でね!」
二人の掛け合いを見ていたまいやんに指摘され、バタバタと慌ただしく教室を出ていく二葉。その様子を見届けた二人は、昼食を再開し始める。
「ユキちゃん、あさちゃん可愛いからっていじめんのよしなぁ?」
「へへ、面目ない。」
「なんであんなに可愛いのに彼氏出来ないんかね」
「そりゃあ、あのバカわんこが牽制してるからだよ」
「あさちゃんも大変だぁ」
「ヒロインの宿命だよ。様々な困難を乗り越えないと白馬の王子様はやって来ないってじっちゃんが言ってた」
「ふーん」
✱✱✱
今日の集合場所は屋上だ。新学期も半ばを過ぎたが、まだ春の陽気が続いている。誰がどうやって開けたのか、鎖にかかっているだけの錠前を外し、屋上へ続くドアを開けると、暖かな風が二葉の肩まで伸ばしている髪の毛をさらった。
「わぷ」
「おせーぞノロマ」
「うっさい、友達と喋ってたら遅れちゃったの!ちゃんと走って来たもん」
「廊下は走ったらいけないんだぞ、怪我するかもしれないだろ」
「バーカ」
「なにぃ!?」
キツい顔立ちをさらに険しくして(まるでサルみたいだ)怒るのは、二葉の腐れ縁その一の
「二人ともその辺にして、さっさと飯食おうぜ。二葉のデザート食べる時間がなくなっちまう」
仕方ないなという風に笑うのはもう一人の幼馴染の
「あ、そうだ。今日はね、桜のマフィンにしたの」
二葉は弁当箱の他に持ってきていた保冷バックからタッパーを取り出すと、それを三人の中心に置いた。小さなマフィンカップの一つ一つに桜の塩漬けが乗っており、ほんのりと春の香りが辺りに漂う。
「へぇ、おしゃれだなあ。一個くれよ」
「待て、まずは弁当が先だろ。その後にデザートだ」
「一、真面目すぎ。いーよ、一個くらい先に食べても」
「じゃあお言葉に甘えて」
「あっ、お、俺も…」
いただきます
まるで家族のように、三人で声を合わせていただきますと言うのが二葉は好きだったりする。高校生になって、クラスも別れて、それぞれの道に進んでいく中で、これだけはずっと変わらずに続けたいと思う。せめて高校生活が終わるまでは。
「おばあちゃんの味がした」
「優しい味で俺は好きだって言ってあげた方がポイント高いと思うぞー一君」
「は!?好きって、お前...!」
「どっちでも嬉しいからいいもん。...ねぇ、もし二人に彼女が出来てもさ、彼女さんも呼んで、こうやってみんなでご飯食べよーね。たまにでいいから」
「……」
「急にどうしたんだよ、二葉」
「んーん、なんでもない。この時間がずっと続けばいいなあって思っただけ」
「…そうだな、続くといいな」
「お前は彼氏出来ない前提なんだな、ちんちくりん」
「そーやってすぐ余計なこと言う!どうせあたしは二人と違ってイケメンじゃないですよーだ!バカ!!短足!!ツリ目!!」
「バカって言った方がバカなんだぞ!このバカ!!」
「んー、イケメンじゃなくてもいいと思うけどな、女の子なんだし」
柔らかな日差しと、暖かい風が三人を包み込む。二葉は、この幸せな時間がずっと続けばいいと再度願い、笑った。
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