2年ぶりに会った君はすっかり変わっていました。
香田 透
緋彩、成人式 〜再会〜
成人式。それは生きている内に一度しかない、20歳になった人達のお祝いの日。
この日は県外へ就職した人もこの地元へ戻ってくる。
「うっ...うわあ〜〜!」
「うるさ」
かくいう私、讃岐緋彩(サヌキ ヒイロ)も今日この地元で成人式。ギリギリまで袴と迷っていたが結局色んな面を考えて振袖にした。
「ひ、人が...こんなに居たっけ」
「まあこれくらいはいるんじゃないの
ていうかあんた性格とビジュアルのギャップすごいわ」
「えっ」
当たり前だけれど人が沢山。人見知りな私はただただ緊張で唯一の友人から離れられずにいた。先程の声は感動の声ではなく、恐怖の声である。
でも都会だともっと多いんだろうし、これくらいで怖がっていてはまだまだだな。
そう思い直して友人の方を振り返る。
「よし、行こう羽芽ちゃん!
...羽芽ちゃん?」
振り返ったそこには友人、羽芽(うめ)ちゃんの姿はない。一瞬でサァァアと血の気が引いていく。
はぐれたのだ。この数分のうちに。
「どっ......」
どうしよう、そう呟きかけてハッとする。
こういう時にスマホを使うんじゃないか!
焦りながらバッグを漁るもこういう時に限ってスマホは奥の方に沈んでいる。私は通り過ぎていく人を避けながらバッグを漁った。
「...あった!」
数十秒漁ってようやく手に固いものが当たる。ホッとしつつスマホを手に取り通話ボタンを押そうとしたその瞬間。
「ギャッ!」
「あ!すみません~大丈夫ですかあ?」
私と同じく振袖を身にまとった女の子数人がこちらを見ていた。どうやらあちら側からぶつかって来たみたいだった。ちなみに最初の色気のない叫び声は私のものである。
「あ、や、大丈夫ですので...」
「よかった~それじゃ!」
女の子達はカラッと笑って去って行く。
「......アハハ」
転けなかっただけまだ良かったものの......。
パリピ女子、やっぱり苦手だなあ。
そう思いながら何故か違和感を覚え手を見る。
さっきまで握っていたスマホがない。
焦り再び。私はキョロキョロと辺りを見渡した。
さっきの勢いで落としちゃったんだ!
「私ってなんでこんなについてないのさ......」
早速もう帰りたくなって来た。だけど、せめてスマホだけは見つけてからにしないと。
そう思っていつものように動き回ろうとするも今の格好は振袖。非常に動きにくい。やっぱり動きやすさ重視で袴にすれば良かった。今更ながら後悔して肩を落とす。
「あのー」
「ぎゃあ!!」
落としたての肩をポンと軽く叩かれまた叫んだ。ビビリにも程がある。
「うわっごめん驚かすつもりはなくて」
振り返るとそこには一人の男の子...じゃないか、この人も成人だろうし。一人の男性が立っていた。
「これ君のじゃない?」
そう言って彼はあるものを差し出す。
「...わ、私のです、ね」
私のスマホだった。握った瞬間安心感がドッと押し寄せる。
「良かった、焦ってたみたいだから」
そう言う彼はきっと笑っている。何故 " きっと " なのかと言うと、私が彼の顔を見ていないからである。緊張から見れないだけだけど。
でもせっかく拾ってくれたのだしお礼は言わなくては。
そう思って緊張しながら上を向いた。
「......」
「...ん?」
ピアスすげえ。
思わずそう思ってしまうほど、彼の耳には沢山のピアスが。今までの周りの環境から見慣れたって勝手に思ってたけどこんなに沢山つけている人は初めて見た。SNSなんかではよく見かけるけど。
おっとそうじゃなくて。
「拾ってくれてありがとうございました」
そう言って頭を下げる。返事がないので顔を上げると彼は私をガン見していた。
「な、何か...?」
何か気に触ることでも言ってしまっただろうか。
「もしかして、讃岐さん?」
「!?」
目の前の彼は表情を明るくさせたが私は混乱するばかり。
何故なら私を知っているということは知り合いなのだ。でもこんなにピアスをガチャガチャ付けそうな人は私の記憶の中では思い当たらない。
焦りつつ目の前の彼を見る。髪色も黒髪ではなく茶髪だし、背も私より高い。顔は───
「...あ」
中学生の頃の記憶が頭を掠める。
「......綾瀬くん?」
「そう!」
綾瀬くんはニコッと笑う。
その笑顔は私が何度も救われたものだった。
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