第106話 何よりも綺麗な

 電車を降りてしばらく歩き、イルミネーション会場に到着した。


「祐くんは楓ちゃんとイルミネーション見に来てたんですよね?」

「ああ。さっきまで2人でここにいた。でも祐奈が倒れたって聞かされて病院に向かったんだ」

「楓ちゃん……。何を考えてるんでしょうか」


 楓が何を考えているのか、俺にはおおよそ見当が付いている。


 楓と別れた場所へと向かう俺は自然と早歩きになり、歩幅の小さい祐奈は小走りで俺の後ろをついてくる。


 イルミネーションは消灯時間間際。会場を埋め尽くしていた大勢の客は居なくなり、煌びやかなイルミネーションもどこか寂しく感じた。


 先程は邪魔くさい、ムードが無いと思っていたが、人が大勢いるからこそ賑やかでムードがあるのかもしれない。


 そして俺は楓がまだいるかもしれないイルミネーション本会場に到着した。


 辺りを見渡すが楓の姿は見当たらない。


「……はぁ。やっぱり居ないか」


 流石に楓はイルミネーション会場を後にしているようだ。

 俺がイルミネーション会場を飛び出してから1時間以上が経過している。

 それなのに楓がここにいるはずが無いよな……。


 俺は体を180度回転させイルミネーション会場を後にしようとした。


「……祐?」

「か、楓?」


 俺の前にはすでに帰宅したかと思われていた楓が現れた。


「祐奈ちゃんまで……。何しに来たの? 2人でイルミネーションでも見に来たの?」

「いや、違う。ケジメをつけに来た」


 楓は俺がイルミネーション会場に戻ってきた事に動揺し、俺と目を合わせようとしない。


「ケジメ?」

「……ごめん。俺、楓の気持ちには答えられない」

「……うん」

「楓は俺にとって本当に大切な存在だ。楓がいなかったら今の高校生活は無いし、もしかしたら不登校にすらなってたかもしれない」

「うん」

「楓の気持ちには答えられないけど、告白の返事と、感謝の気持ちを伝えたくて会いに来た」


 その瞬間、楓の頬をスーッと滴り落ちる涙。

 イルミネーションの光に照らされ、キラキラと光り輝いている。


 俺は楓を泣かせている。

 散々待たせた挙句、良い返事をしていないなんて俺は最低だ。

 楓を傷つけてしまった。この罪は一生をかけても償えないかもしれない。


 それでも、それでも俺は……。


「告白を断っておいてこんなもの、絶対にいらないと思うんだけど……。これは日ごろの感謝の気持ちだ」


 そういって俺は楓が欲しそうにしていたハンカチを手渡した。


「え、これって……。さっき買ってくれたの?」

「ああ。楓に対する感謝の気持ちだ。都合が良いのはわかってるけど、これからもずっと仲の良い友達でいて欲しい」

「もちろんだよ。私の方こそこれからもよろしくね。祐の方からそうやって言ってくれて良かった」


 声を震わせ、こぼれ落ちる涙を袖で拭う楓の姿を俺は一生忘れないだろう。

 いや、忘れないのではない。忘れてはいけないのだ。


「それより、祐奈ちゃんに言わないといけないことがあるんじゃ無いの?」


 楓に背中を押され、祐奈の前に立つ。


「あ、私ですか? というか話が全く理解出来てないんですけど……」

「私が祐に告白して、今まさに振られたところだよ」

「ーーえ⁉︎ 祐くん、楓ちゃんを振ったんですか⁉︎ なんで⁉︎」

「ああ。今まさに振ったよ」

「驚かせてごめんね。でも、私の事は気にしないで、祐奈ちゃんには幸せになってほしいから」


 おい待て。まだ俺の告白が成功すると決まったわけじゃ無い。祐奈が俺を好きかどうかは分からないんだからな。


「祐奈。ちゃんと楓にケジメをつけてから言おうと思ったから、この場に来てもらったんだ」

「は、はい」

「俺は祐奈が好きだ。最初はただのオタク友達だとしか思っていなかったけど、自分でも知らないうちに祐奈のことが好きになってたみたいだ」

「わ、私ですか⁉︎ 楓ちゃんじゃなくて?」

「ああ。祐奈だよ」

「な、なんで私なんですか……?」

「正直、自分でもよく分からないんだよ。でも、そういうのは理屈じゃないんだなってようやく理解出来た。どこぞの恋愛マスターの言ってたことがなんとなく理解できたよ」


 さぁ、最後の告白だ。この告白が失敗すれば俺も楓も、誰も幸せにはならない。


 それでもこの気持ちを伝えずにはいられなかった。


「祐奈、俺と付き合ってくれないか?」


 何故だろう。絶対に緊張すると思っていたはずの告白なのに、俺はいつもより饒舌になりすんなり告白をしてしまった。


「……はい。お願いします」

「……ま、まじか」

「祐奈ちゃん‼︎」


 そして楓が祐奈に抱きつき、2人は涙を流す。


 その涙はどれだけ綺麗に作られたイルミネーションよりも綺麗で大切で、かけがえのないものだった。

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