第83話 噂話

 泣き疲れた私は教室に鞄を取りに戻ってから家に帰る事にした。


 目の周りが誰かに殴られた様に赤くなっているだろうと思い、この顔を見られないよう下を向いて歩いた。


 下を見て歩くと沈んでいる気分は余計に沈み足取りは重く感じた。


 思わずこぼれるため息、それでもため息を吐くと幾分か気持ちが楽になった。


 教室を出て家に帰ろうとしたその時、私の後方からものすごいスピードで走ってくる音がして思わず後ろを振り返る。


「祐奈ちゃぁぁぁぁぁぁぁん‼︎」

「ひゃっ‼︎ ど、どうしたんですか⁉︎」

「やばいやばいやばいやばい、ほんっとにやばい‼︎」


 風磨くんの慌て方を見て何事かと思った。もしかしたら祐くん自身が病気で病院に運ばれたとか?


 そう考えた途端内臓が口から飛び出しそうな気分だった。


 いや、でも落ち着いて風磨くんの顔をよく見ると、焦っているけどどこか嬉しそうな表情を見せている。


「まだあの噂話は聞いてない?」

「噂話? 何も聞いてませんけど」

「わかった。じゃあ俺は今から祐奈ちゃに俺が聞いた噂ってのが何なのか話すけど、嘘だって思わないで聞いてくれ」

「わ、わかりました」 


 あまりに真剣な表情の風磨くんのをみて唾をゴクリと飲み込む。


 風磨くんがそこまで驚く噂話とは一体何のことなのだろうか。


「楓の話なんだけど」

「楓さんがどうかしたんですか?」


 ま、まさか祐くんと楓さんが付き合ってるとか⁉︎ そういう事⁉︎


 だとしたら、私だけ1人で勝手に盛り上がって祐くんに告白しようとしていた事が恥ずかしくてたまらない。


 そうか、祐くんは楓さんと付き合っていたから私が屋上に呼び出しても来てくれなかったんだ。


 大抵の男の子は女の子に屋上に呼び出されたら告白されると気づくだろう。


 いくら朴念仁の祐くんだってそれには気付いていたはず。


 だから屋上に来ないで私に黙って家に帰ってしまったのか。


 一度は止まった涙が再びこぼれそうになる


「楓が日菜らしい」

「――え? 日菜ってどの日菜ですか?」

「祐が大好きな声優の日菜だよ」


 私は状況を飲み込むことができず、もう一度風磨くんに詳細を説明してもらう事にした。


「あ、あの、状況が全く飲み込めないのでもうちょっと細かく説明してもらっても良いですか?」

「俺たちの友達、古村楓が実は大人気声優の日菜で、それを隠してこの学校に通っていたらしい」

「え、そんなことありえるんですか⁉︎」


 信じてくれと言われたものの、流石に大人気声優の日菜が楓さんで、毎日一緒におしゃべりをしていたとは到底信じられなかった。

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