第82話 たった一人

 放課後、学校の屋上で私は祐くんを待っていた。


 約束の時間には少し早いけど、遅れるよりは早い方が良いと思い、10分前に屋上にやって来た。


 昨日祐くんを屋上に呼び出して、放課後に屋上に来てもらうようにした。


 屋上に立ち入る機会は少ないため、見慣れない景色が私の緊張を煽る。 


 裕くんを屋上に呼び出した理由は勿論、告白をするため。

 そんな私を応援してくれているのか、多くの鳥たちが屋上のフェンスの上に止まっている。


 緊張をしていた私は鳥たちが応援してくれていると考えると気持ちが楽になった。


「ありがとね。鳥さん」


 思わず小声で鳥たちにお礼の言葉を言ってまう。そんな言葉が鳥たちに伝わるはずはないのにそう言わずにはいられなかった。


 祐くんの事が好きだと気がついてから、私は祐くんを自然と目で追うようになっていた。通学中も、授業中も休み時間も、気付けば祐くんを目で追っていたと思う。


 そんな私はとある事実に気付いた。


 それは、楓さんも祐くんが好きだという事。


 祐くんと話している楓さんは他の人には見せない可愛らしい笑顔を見せるし、祐くんに身を委ねているような雰囲気があった。


 私が祐くんと知り合ったのは半年前。楓さんは私の何倍も長く祐くんと同じ時間を過ごしている。


 私が恋愛で楓さんに勝つのは難しいと思う。だから私は先手を打たなければならないと考えた。


 祐くんとは毎朝Bluetoothを繋げて曲を聞いたり、一緒にゆいにゃんと日菜のライブに行ったりもした。


 祐くんと一緒にいた時間は短いけれど、楓さんに負けないくらい濃密な時間を過ごしてきたと思っている。


 だから、私の想いを祐くんに伝えよう。


 その結果が良いものであっても悪いものであっても後悔はしない。もし後者であれば楓さんを応援するだけだ。


 抜け駆けみたいで楓さんには申し訳ないけど私は今日、祐くんに告白する。


 そう意気込んでから10分後、約束の時間になったのに祐くんは屋上に現れない。


 もしかしたら途中で先生に捕まったり、友達に話しかけられたらしているのかもしれないと思いその後30分は屋上で祐くんを待ち続けた。


 ……来ない。祐くんが屋上に来ない。


 放課後に屋上に来るというだけなのに普通は30分も遅れるはずがない。


 気になった私は昇降口に向かった。


 祐くんの靴があるかどうかを確認するためだ。


 祐くんの靴が無ければ祐くんはすでに学校を後にしたという事になるし、靴が入っていればまだ学校にいるという事になる。


 まさか約束をすっぽかして学校を出て行ってはいないだろうと私は祐くんの下駄箱を開けた。


 そこには学校内で履いているシューズが入れられていた。


 しかも何故か右足のシューズは裏を向いている。


 理解するまでに少し時間がかかったが、靴が無くて学校内で履くシューズが入れられていたという事は、祐くんは私との約束をすっぽかして家に帰ったか、どこかに行ってしまったということだ。


 もしかしたら家族の急病なのかもしれないし、家が家事になったのかもしれない。


 家に帰った理由は色々と考えられる。


 祐くんが理由も無く私との約束をすっぽかすような人ではない事を私は知っている。

 理由も無く連絡もしてこないで私を1人ぼっちにするような人ではないと知っている。


 だけど、私は我慢しきれなかった。


 誰もいない昇降口で1人、声にならない声で涙を流した。

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