第69話 逆告白

 路地の曲がり角からゆっくりと姿を現した風磨に驚きの色を隠せない花宮は、風磨を見たり俺を見たり首を右、左と交互に振っている。


「なんで風磨がここに⁉︎」

「それは後でちゃんと話してやるから。風磨、今の花宮の言葉話聞いてただろ?」

「ああ。一言一句逃さずしっかり聴いた」


 花宮は俺に話していた風磨への思いを、風磨に聞かれてしまったのではないかと焦っている。

 しかし、俺は花宮の正直な気持ちを、花宮の口から発した言葉で風磨に聴いて欲しかった。


 だからこの場に風磨が来るよう仕向けたのだ。


 俺に協力して、風磨をこの場に連れてきてくれた祐奈と楓も俺の方を見て若干のドヤ顔でグーポーズをしている。


 祐奈と楓以外にも、実は陽キャグループのメンバーにも声をかけて協力してもらっていた。


 今の花宮の言葉を聞いて、風磨は何を感じただろうか。


「どうだった? 今の花宮の言葉は」


「ちょ、何聞いてんのよ。そんなこと聞かなくてもいいって。風磨だって一回振った女の子となんか話しづらいだろうし」


「――ごめん咲良‼︎ 俺、お前の気持ちを考えもせずに告白を断っちまってた」

「べ、別に風磨は何も悪くないよ。私が風磨に振り向いてもらえるだけの女の子じゃなかったってだけで風磨が謝ることなんか……」


「いや、謝らせてくれ。じゃないと俺の気が済まない」


 そう言って頭を下げる風磨の姿は、これまでのおちゃらけた雰囲気の風磨とは別人のようで、誠心誠意謝罪しているように見えた。


「今まで色んな女の子に告白されたけど、殆どの女の子は俺の顔に惚れただけの表面しか見ていない女の子だったんだ。実際、俺が振った女の子が影で俺の悪口をボロクソに言ってたのを何度も聞いたことがある。だから女の子なんて男の顔しか見てない生き物だって決めつけてた。本当にごめん」


 実際に振った相手から影で悪口を言われていた事があったのか。

 それなら女の子のことを嫌いになるどころか、恐怖心すら芽生えるだろう。


「今の咲良の言葉を聞いて本当に嬉しかった。咲良も俺の表面しか見てないんじゃないかって勝手に思ってたから……。そうやって咲良のことを疑ってた自分にも腹が立つ」


「で、風磨はどうしたいんだ?」


「虫のいい話なのは分かってる。それでも言うよ」


 風磨は大きく深呼吸をした後で目つきが変わる。


 何かを決意した目だ。


「咲良が告白してくれたとき、自分勝手な酷い理由で咲良を振った俺のことを許してくれとは言わない。だけど俺、花宮が好きだ。俺と付き合ってくれ‼︎」


 風磨の放った言葉に両手で口元を押さえる花宮。その姿からは先ほどまでの悲壮感漂う花宮の面影は消え去り、心地よい風が嵐山の街を吹き抜けて行った。

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