第7話 オタトーク
自宅の最寄駅から15分ほど歩いたところにあるファミレスで俺と楠木のオタトークが始まった。
美少女とファミレスに来た経験などあるはずもなく、どのように振る舞って良いのか分からない。
しかし、神田高校で1番可愛い美少女との会話でも臆しないという事を楠木に見せつけるため、緊張したそぶりを見せないよう楠木がゆいにゃんを好きになった理由を尋ねた。
「楠木がゆいにゃんを好きになったきっかけとかってあるのか?」
「もちろんです‼︎ 私が本格的にアニメを見始めたのが中学2年生になってからで、その時好きだったアニメのキャラクターの声優をしているのがゆいにゃんなんです」
なるほど、と相槌を打ち深く納得して頭を上下に振る。
誰しもが一番最初に見たアニメというのは印象深いものだ。
俺自身、最初に見たアニメの話は明確に記憶しているし、日菜がそのアニメに登場するキャラクターの声優をしていることが日菜を好きになったきっかけでもある。
「渋谷さんが日菜ちゃんのことが好きな理由はとにかく可愛いからなんですよね?」
「そうだ。それ以外何かあるか?」
「ふふっ。面白いくらい真剣に言うんですね。渋谷さんからの返信を見て思わず笑いそうになったんですよ。授業中に笑いを堪えるのに必死で」
会話の途中、俺の返信を思い出して笑う楠木の姿に見とれてしまう。
だ、ダメだ。何をしている俺。見とれている場合か。
楠木の可愛さにやられてしまわないよう、楠木が授業中にラインを送ると言う強攻策に出たことを咎める。
「楠木も楠木だぞ。まさか授業中にライン送ってくるなんて思いもしなかったわ」
「あー、やっぱりそうですよね……。久々にアニメの話が通じる人と話を出来そうだったのでつい盛り上がっちゃって……。早く渋谷さんと喋りたい気持ちを抑えきれずにラインしちゃいました。ごめんなさい」
楠木はてへへと首を傾け申し訳なそうに頭を掻いている。
というか今の言葉の破壊力やばすぎだろ。
渋谷さんと早く喋りたいって言ったよな? 聞き間違いじゃないよな?
アニメについて語りたいってことなのはもちろん理解してる。それでも今の言葉は素直に嬉しかった。
話の方向性を元に戻して会話を始める。
「ゆいにゃんのライブとか行ったことあるか?」
「それが……行ったことないんですよね。もちろんチケットの応募はしてたんですけど倍率が高すぎて当たらなくて……」
ゆいにゃんのライブの倍率は10倍にもなると言われている。
したがって、ゆいにゃんのライブに確実に行くには申し込みチケットが封入されたCDを何十枚と購入する必要がある。
「俺、最前列でゆいにゃんのライブ見たことあるぞ」
「――本当ですか⁉︎ それは羨ましすぎます……」
そう、俺は一度だけゆいにゃんのライブに行ったことがある。偶然にも1枚の申し込みチケットで当選を果たしたのだ。
本気で羨ましがる楠木を少しからかいたくなり畳み掛ける。
「最前列で見るゆいにゃんはそれはもう可愛くて可愛くて」
ぐぬぬ、と悔しがる楠木の姿を俺はケラケラと笑いながら見ていた。
すると楠木からまさかの提案が飛び出した。
「ゆいにゃんのライブ、確か今度地元でありますよね?」
「ああ。2ヶ月くらい先だけどな」
「あのライブのチケット、一人の応募枚数が2枚までなので一緒に応募しませんか?」
「……それは勿論構わないが」
「――やった‼︎ これで確率は倍じゃないですか‼︎ 私が当たっても渋谷さんが当たっても二人で行けますね」
パァっと表情を明るくした後で俺に向かってニコっと笑う。
やめろさっきから。あたかも付き合っているカップル同士の様な会話は。
まあでも俺も最近は楠木の影響でゆいにゃんを好きになってきているし、ライブに行けるのであれば嬉しいことに違いはない。
「あ、そうだ。近々日菜のライブも地元であるんだけど、それも一緒に応募してくれないか?」
「もちろんです‼︎ ゆいにゃんと日菜ちゃんの両方のライブのチケットが当たったら激アツですね‼︎ 2回もライブに行けるんですよ⁉︎」
目を輝かせ身を乗り出して会話するあたり、気持ちの盛り上がりようが見て取れる。
まあライブに行ったことがないんじゃ、行けるかもしれないと想像したらテンションが上がってしまうのも無理はない。
あれ、さっき楠木俺と二人でライブに行くって言ったか?
「ゆいにゃんのライブのチケットが当選したら俺も行って良いのか?」
「……? もちろんじゃないですか。むしろ誰と行くんですか?」
一寸の迷いもなく即答してくる楠木。アニメの話でテンションが上がり冷静な判断が出来てないんじゃないか?
俺と二人でライブに行くなんてデートでしかないぞ。
まあ普通のカップルのデートとは内容があまりにも違いすぎるが。
こりゃあ明日風磨に自慢だな。あ、でも楠木がオタクだって話は内緒なんだったな。
その後もひたすらゆいにゃんの自慢話を聞かされ、それにうんうんと頷くしか無く、そのまま今日の集会は終わりを迎えた。
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