第6話 ファミレスデート
楠木からラインが送られてきた俺は興奮気味だったが、俺が興奮し焦っていることを悟られないようクールに返信する。
『時間はいくらでもあるけど。アニメの話でもするのか?』
話があると言ったらこのまま放課後に告白されるってのが定番で、誰しもが予想する展開だ。
しかし、今日初めて喋った楠木が俺の事を好きだなんてありえない。
『はい‼︎ 今まで我慢してた分、思い切りアニメの話をしたくて』
予想は大当たり。
それから俺たちはラインを続け、集合場所をお互いの自宅の最寄駅に程近いファミレスに設定した。
俺がいつも通学時に電車に乗る自宅の最寄駅は楠木の自宅の最寄駅でもあることが最近判明した。
楠木とは2年近く同じ駅を利用していたはずなのにその存在に気付かなかったのは、俺がアニメにしか興味が無い証拠だ。
お互いの自宅の最寄駅が同じということでその駅の近くにあるファミレスを今日の会場にした。
自宅の最寄駅のファミレスを会場にした理由はそれだけではなく、学校からある程度離れているという部分も考慮した。
学校近辺のファミレスに行くと俺と楠木が2人でファミレスに行っているところを誰かに見られる可能性がある。
最悪、俺は楠木とファミレスにいることがバレても僻ひがまれる程度で済むので問題ない。
しかし、楠木はそうはいかない。
俺とファミレスに居たことがバレれば陽キャグループから追放される可能性もある。
そうなることを避けるため、あえて学校から少し離れたファミレスを会場にした。
楠木とは初めて会話をしたわけだが、まさかその日に2人でファミレスに行くことになるとは思わなかった。
学校も下校の時間になり、部活動をしている生徒は部室へ、帰宅部の生徒は正門へ向かって歩き出す。
俺もその波の中にいて、自転車通学の生徒たちを傍目に電車通学の生徒は駅へ向かう。
楠木はどうやら帰宅部のようで、学校が終わるとすぐ駅に向かって歩き出していた。
あの枠に収まりきらない可愛さをこうして街中に解き放っても良いのだろうかと疑問を持つ。世の中の不審者は楠木を放っておかないだろう。
鞄を持ち小さな1歩を踏み出すのは俺と同じ距離を歩いていても俺より倍疲れるだろう。
楠木からすればそれは普通なわけで、一歩一歩駅へと歩みを進めていった。
駅に到着すると俺と楠木は同じ車両の別の入り口から電車に乗り込む。
電車に乗り込む直前、楠木がこちらを見て俺の存在に気づく。
すると楠木は俺に向かってほんのり微笑み会釈をした。
その微笑みはテレビやBDなど画面越しで見る日菜の笑顔を凌駕しているのではないかと感心した。
電車に乗り込むとイヤホンを装着して曲を聴く。俺のイヤホンに繋がっていたのは楠木のイヤホンだと判明したのだから、もう楠木の携帯が俺のイヤホンに接続される理由は全くない。
誰の携帯に接続されているか分かったからには俺から楠木の携帯に接続するわけにはいかない。
あたかも俺が楠木に好意を寄せていて一緒に曲を聴きたいと思っている人みたいになるだろう?
それだけは避けたかったため、俺から楠木の携帯にイヤホンを接続するのはやめた。
まさか、自分のイヤホンが誰の携帯に接続されているか分かったのにわざわざ楠木が俺の携帯に接続をすることは無いだろうと油断、いや、諦めていると俺のイヤホンからは俺は流していないゆいにゃんの曲が流れ始めた。
どうやら、また楠木の携帯が繋がったみたいだ。
その状態を確認してから俺の携帯も楠木のイヤホンに接続する。
もはや相思相愛のカップル状態。
電車に揺られながら、帰り道もゆいにゃんの曲を聴く。今までは毎日日菜の曲を聴いていたが、ここ数日ゆいにゃんの曲を聴いていたせいで、ゆいにゃんのことが前より好きになっている自分がいた。
もちろん日菜が一番好きなのは変わることのない事実ではあるが、視野を狭めるのではなく広い視野を持つことは重要だと感じた。
駅に到着すると、俺も楠木も車両から降りるが、俺は楠木よりも先にファミレスに向かう。
俺が一人でファミレスに入店した後で楠木が入店してこれば誰かに見られていてもまさか俺たちが2人でご飯を食べるとは誰も思わないだろう。
顔は前を向いたまま目をキョロキョロしながら周囲に同じ学校の制服を着た生徒がいないかを確認する。
誰も居ないことを確認してからファミレスに入店した。
お店の中にも神田高校の生徒が居ないかどうかを確認するがその姿は見受けられない。
それから外から見られにくそうな位置にある禁煙席に座った。
自宅の最寄駅にあるファミレスは、奥の方で右に曲がっている間取りになっているため、奥に座れば外から見られることもないしお店の中にいるお客さんからの視線も最小限に出来る。
ここなら大丈夫だろうと席に座り楠木に『一番奥の席に座ってる』とラインを送った。
既読がつき『りょです‼︎』と返信が来て2分後、楠木は俺が座っている席にやってきた。
「お待たせしました」
「2分くらいなもんだ。他の生徒に見られないよう別々に入店すればこんなもんだろ」
そうですね、と微笑む楠木に対して俺は一つの疑念を抱いていた。
楠木は本当にオタクなのか?
楠木が何の利益もない嘘をつくとは考えづらいが、学校1、いや、もしかすると日本一可愛いと言っても過言ではないほどの超絶美少女がオタクであると言う事実は信じがたいものだ。
俺たちはとりあえずドリンクバーを注文し、各々好きな飲み物を取ってくる。
「それじゃあ始めるか。オタトーク」
「はい‼︎」
目をキラキラと輝かせて返事をする楠木の表情、姿勢、声のトーンから楠木がオタクと言うことは事実だと容易に理解できた。
少しでも疑った自分を殴りたい。
よし、こちらも気合いを入れよう。
覚悟しろよ楠木。俺の弾丸オタトークについて来れるのか、見ものだな。
精一杯オタトークに花を咲かせようではないか。
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