巴御前
脇役C
第1話「駒王丸」
平安時代末期のある
とある神社の奥まった場所にある、
夕食の片付けも終わり、ぼんやりと高貴そうな親子が鞠遊びを
その親子とは、
「お父上が、死んだ」
ふいに、若干五歳の
そのお父上がいる
ただ急に、今まであんなに興じていたはずの
「そのような不吉なことを申すものではありません」
母である
子どもはまだ善悪を知らない。
ただ感じたことを、夢か
それも無理からぬ話だ。
だからこそ、
居候とは言え、この神社は
そう切迫したものではなく、このご時世だから用心もかねて、別荘で子守に専念して欲しい。
七五三を終えるまでは、子に魔が尽きやすいものだからと。
すぐに帰れると言っていたはずが、音沙汰がない。
たまりかねて
そこで何か尋常じゃないものを感じたが、女、子どもにできることはない。
(まさか、今夜)
そんな考えが、
だが、すぐにかき消す。
私たちを逃がすほどに警戒していたなら、それ相応の準備をしているはず。
どこの
その二人がそう簡単に討ち取られるわけがない。
「もう寝ましょう」
「来る」
先まで
「明かりを消して」
そう
明らかに
その者達に殺された。
いや、5人だけじゃない。
大蔵館では、
「
「消して」
侍女は、悲鳴が漏れそうになる口を手で押さえながら、ろうそくの炎を消した。
「私が守る」
「
玄関に近い部屋から順に、襖が開かれていく音がする。
もう数分も経たないうちに、この部屋は開かれる。
「私が守る。
「そんなことさせるために、貴女を育ててきたんじゃない!」
両手には、母の形見である
だが
ついに襖は開けられた。
襖を開けた男の、足の甲に向けて
その主は当然、相手の攻撃を想定しながら、反撃の準備はしていた。
それも居合いの達人である。
間合いに入ったものをことごとく斬ってきた。
今日はもうすでに、
しかし、視界に入らなければ対応はできない。
「ぐっ」
男はうめいた。
その場所に、すぐ男の刀が降りてきて、床を差し込んだ。
男の攻撃が突きでなければ、
横には襖、上には長押(柱を水平方向につなぐ部材)があり、刀を
室内という状況を生かし、相手から自分がどう見え、刀がどういう軌道を描くか分かっていなければ、避けられなかった。
この
そして、刃物を迷いなく振り下ろすことができる度胸。
刃物を向けられてもひるまない胆力。
すべて5歳の少女のそれではない。
「
もう一人の武士が、そう叫ぶ。
その武士には、人影に隠れて松明に照らされないほどの大きさで、人を攻撃するものなど、獣以外に思いつかなかった。
しかし、
ともかく、
命を狙われる。
さっきのような奇襲は成功しないだろう。
しかし
松明の影と影とを移動する。
「いたぞ! 右だ!」
闇と闇の間にあった
しかし、
しかたなく、突きに切り替える。
「くそっ!」
当たらない。
もはや、突きの軌道では
しかし、所詮は子どもの動き。
男は刀に注意を向けさせ、
「ぐっ」
「
松明に照らされたのは、壁に体を預けて倒れ込む
男はそこでようやく、自分の足を串刺した正体を知った。
「……鬼の娘か」
○○○○○○○
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