第28話 親しき仲にも闇あり

 魔物のアンデッドで活動できるサンプルもあったほうがいいだろう。

 数種類のアンデッドを探して適当に回収しておいた。


 地下洞窟の最深部の探索は、気が向いたらまたそのうちしよう。




 王都のギルドへ転移した。

 その先は応接室だ。

 まだアリスとの約束の時間までは余裕がある。


 レインが前回同様、窓際の席に座っている。


「解体作業はもう飽きたのか?」


 【完全バニシュ】状態を解除した。


「おあ!? ……いきなり話しかけられるとびっくりするじゃないか」

「慣れてくれ」


「姿が見えないうちから話しかけないでくれればそれでいい。ただの心霊現象だからな」

「気を付けよう」


「解体作業は俺の生きがいさ。今は手のかかる新人のサポートで忙しいんだ」


 俺のことだろうが、なら辞退すればいいんじゃないか、とは言えなかった。

 彼がいなければ、こんなに都合よく冒険を楽しむことはできなかっただろう。

 なにをどこまでしてくれているか、興味はあるがいちいち聞く必要もないだろう。

 おそらく、全ていい感じにしてくれているのだと俺は信じている。


「それは申し訳ない」


 軽く一礼しておいた。


「お、なんだ、珍しく低姿勢じゃないか」

「親しき仲にも礼儀ありと言うからな」


「親しき仲とはうれしいね!」


 考えてみれば、まだ知り合って日は浅い……、というか昨日初めて会ったばかりなのだが。

 波長が合うというのか、一緒にいてしんどくない、まさに親しき仲と言っても過言ではないだろう。


「お疲れのところすまないが……」

「疲れてはいない、忙しいだけだ」


「忙しいところすまないが……」

「忙しいがお前のためと思えば忙しくはない。何かしこまってんだ? そんなにもったいぶることでもあったのか?」


 いつも通り最高の専属担当だ。


「ああ、今回はいろいろ複雑に込み入った内容だ」

「いいね! 早く聞かせてくれ」


 彼の瞳が輝く。


「もしかしたら聞いているかもしれないが、地下洞窟の依頼の件だ」

「ん? 聞いてない、……かもしれんな」


 アリスの判断でいちいち報告を通していないのかもしれない。


 依頼書や追加資料を見せた。


「この討伐の件だ」

「あ~、これな。国から頼まれてたけど、今のところ問題なさそうで放置してたよ」


 Aランクの依頼をいきなり受けたことについて、彼は驚いている様子はない。


「誰も受ける者がいなかったのか?」

「いや、いるにはいたんだが、情報が少ないせいか解決までには至らなかった」


 ペナルティが無い依頼なので、気軽に受らけれるのにもったいない。

 ダンジョン探索なんかまさに冒険の醍醐味だいごみと言っても過言じゃないだと思うのだが。

 それともAランカーがこの国には少ないのだろうか。


「受けたのは当然ちゃんとしたAランクだろ? 俺のことは棚に上げさせてもらうとして」

「ああ、誰もが認めるAランク、ガルケンという男だ」


「そのガルケンはこの依頼について、どれほど貢献できたんだ?」

「比較的浅い階層でも腕に覚えがある者以外は近づかないように通達してくれと報告を受けた。冒険者達の安全につながったとは言えるな」


「行けば誰でもわかるだろう」

「あのガルケンが言ったとなれば、皆が従うんだ。それだけの発言力があいつにはある。だから今あの洞窟でうろつくようなバカはいなかったはずだ」


「全階層見たわけではないが、たしかに誰もいなかったな」


 俺が連れて行った山賊達を除けば。


「依頼を達成できなかった場合、わざわざ失敗したことを公表する義務はない。依頼を受けているところを見られれば気付く者もいるだろうが」

「ん?」

「だが、彼の力を持ってしても解決できなかったと公表することで、危険性の高さを示し、興味本位での探索に制止をかけてくれたのだ」


 ガルケンもレインに信頼されているのだろう。


「他のAランカーにとっては、出し抜くいいチャンスじゃないか」

「現役で言えば今この国には彼しかいない」


 Aランクってそんなにレアな存在だったんだ。

 となると、やっぱりレインもすごいんだな。


「今は、と言うと?」

「ガルケン以外のAランクの冒険野郎共は他国に出て行ったよ」


「止めなかったのか?」

「そんな権利は無い。ガルケンもいるし、まあ俺もいる。ギルマスは……いないに等しいが」


「他国とのバランスが崩れると思うのだが?」

「それについては知りたければ後で話そう」


「そういえば随分と脱線してきたな」

「気にするな、熱心な生徒には教えがいがあるってもんよ」


「では、あらためて結論から言う。討伐対象を捕まえてある」

「マジか。あっさり言うねぇ。これでガルケンを超えたわけだ」


「そこのところについては、運ゲーの要素があった。彼には運がなく、俺には運があっただけだ」

「謙遜だねぇ」


「たしかにハイランクでないと、厳しい戦いだったと思うが、強さだけでは解決できなかったことはたしかだ」

「ま、お前はなにかを持ってるってことだ。というか、『厳しい戦いだったと思うが』、ってお前が戦ったんだろ?」


 また不思議なことを言っていやがる、というような視線で笑いかけてくる。


「まあ、そうなんだが……」

「まだ物足りないか。他国にいけば同じAランクの依頼でも、もっとしびれる内容があふれているかもな」


 ギルドは世界で共通だと聞いているが、依頼の内容までは共有していないのだろうか。

 また脱線するので後で聞くとしよう。


「今この国を出ていくことは考えていない。当面はレインと一緒に活動させてもらいたいしな」

「やけにリップサービスがあるじゃないか。……そうか、女だな?」


「いや、そういうことでは……」

「紹介しろってんなら任せておけ」


 完全には当たらなかったが、半分ぐらいは正解している。

 野生の勘と言うべきか、レインにはそれがあるな。


「捕まえたのはいいが、なにをしでかすかわからない奴なので、魔法が使えないような空間で解放しないと危険だ」

「なるほど、ここのギルドにも簡易的なものなら無きにしもあらずだが……お前がそこまで言うなら、国の施設を借りるのが安全だろうな」


「簡単に借りられるもんなんだな」

「まあ国からの依頼なわけで、見せる必要もあるんだったら、反対されることはないだろう」


「生きていると言えばいいのかとりあえず動くアンデッドもサンプルとして捕まえてある」

「まあ、それも討伐対象のお披露目と一緒でいいだろう」


 ノーチェックで行く気らしい。


「話は後二つある。一つはエレの町の追加依頼の件だ」

「捜索対象がいたのか?」


「いたのだが、アンデッドになっていた」

「なんだと? まさか……」


「そう、俺が捕まえたエンクロマンサーがどこからか召喚したのだ」

「なんと伝えるべきか」


「ありのままを伝えたほうがいいと思う。依頼者は覚悟を決めてるんだろ?」

「まあそうだな。う~ん、変なウソをつく必要もないかぁ」


「どのように引き渡そうか?」

「お前は本当に落ち着いているよな」


「普通だ」

「そうか。そいつは動くのか?」


 依頼者の前でそいつなんか言ったらおしかりものだ。


「ああ、ある意味活きがいい。確かめてみるか?」

「待て、ここで出すなよ」


「それからもう一つの話だが、それについても最終的に人間用のおりが必要になる」

「人間?」


「ああ、後さらに必要なのは、プロの尋問屋といったところか」

「それならここにいる」


 彼は右手の親指で自らの顔を指した。


「レインが?」

「プロかどうかなんて、誰が決めるものではないがな」


 彼は邪悪な笑みをたたえた。

 拷問と取り違えていそうだ。

 結局はそうなってしまうのだろうが。


「ではそれもお願いするとして、場所を変えるか」

「作業場に行くぞ。ちなみに、他人を一緒に転移させられるのか?」


 いよいよきたか。

 別にかまわないのだが、俺をタクシー代わりにするつもりだろう。


「一緒となると体が引きちぎれるかもしれない、が」

「が?」


「一度俺の【ストレージ保存領域】に入って移動すれば、似たようなことはできる」

「一瞬この世から消えてなくなるってことか?」


「そうなるな」

「一回やってみよう!」


 度胸がすごいな。


「格納する場所を間違えたら、即死だ」

「いや、そこは間違えるなよ絶対に」

「大丈夫だ」

「こんな事もあろうかと、前いたところの、この辺りに、俺専用の小屋を作ってあるから、そこに移動すれば、周りも驚かないだろう」


 身振り手振りで場所の説明を受けた。


「作業員には秘密を厳守させているなら、別にいいと思うが」

「見ても絶対なにも言うな。漏らせば殺すと言ってある」


 そこまで言わなくても……。


「ならいいじゃないか」

「先客がいたら困るだろう?」


 万全を期してということか。


「わかった。全然かまわないんだが、ただの興味本位か?」

「それもあるが、館内をうろついてると声かけられて面倒なことに巻き込まれる可能性があるから」


 なるほど、少しでも無駄なことをしたくないみたいだ。

 人間忙しくなると、そうなるよな。


「それなら行こう。痛みは無いから安心してくれ」

「いやいや、なんか逆にこえぇよ」


 気持ち丁重に、彼を闇に送り届けた。

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