ブラックホール男の絶対無双
聖光統亭
第1話 プロローグ
M71482銀河の調査に向かった宇宙船は、今まさにブラックホールに飲み込まれようとしていた。
乗組員達には、確実な死を覚悟したとき、機内にある試作段階の転送装置の実験台になるという使命がある。
失敗しても科学の発展に貢献したという栄誉ある死を迎えられるのだ。
装置の起動点検をしていた俺=
走馬灯なのか、物理的現象なのか、時間の流れが緩やかに感じられ、その一瞬の奇跡が与えられたのだった。
「頼む!」
目を閉じ、両手を合わせながら、
記録上は人類初の転送となる。
その功績が称えられれば、無念に散った他の乗組員達も少しは浮かばれるだろうか。
俺だけが装置内の転送エリアにいる状況だったとはいえ、彼らを見殺しにした事実を背負って生きていけるのだろうか。
転送した先は本当に自分の知っている地球なのだろうか。
いつの間にか音が無くなっていた。
目を開けようにも、やり方がわからない。
時が停止しているのか、それとも死んでしまったのだろうか。
まるで真っ黒な夢の中にいるようだ。
これは神様が与えてくれた、最期の回想タイムということにしておこう。
やっぱ、ろくな人生じゃなかったな。
俺は施設で育った。
いい思い出はないが、義務教育を受けさせてくれたことには感謝している。
社会に出てからは、目的も無くただ生きていた。
そんなときだった、宇宙船乗組員の一般公募を知ったのは。
人類が初めて月に着陸してから二百年余り、一般人でも宇宙船に搭乗できる程に科学は進歩していた。
それを実証するための被験者第一号として、三十五歳の誕生日に当選通知を受け取ったのを覚えている。
このミッションから帰還すれば、時の人として俺の名は知れ渡り、人生の大逆転劇が始まるのだと思っていた。
しかし、そう簡単にはいかないものだな。
……この辺で回想を終えるとしよう。
◇◆◇
ふと気付くと、重力から解き放たれるような
平らで乾いたむき出しの大地と、四方を囲む海が見える。
どうやらそれほど大きくはない島のようだ。
気候は春のように穏やかで、重力や酸素もあり、青い空には白い雲と太陽らしき恒星が浮かんでいる。
昼でも見える月のような衛星が三個あり、地球の月より大きく見える。
景色を見るまでもなく自分の知る地球ではないことは既にわかっていた。
だがそんなことはどうでもよかった。
どうやら俺はブラックホールのような存在になったようだ。
厳密に言えばその特性を持ち合わせているというのが正解だろう。
説明はできないが、
誰もが無意識にする呼吸も、仕組みについて詳しく説明できる者は少ないだろう。
感覚はそれに近い。
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