第3話 『強欲なる天馬と白い腹黒羊』    全29話。その8。


           第三章『天空を操る狂人』


            1 時刻は十八時丁度。


 何故か西の方角に足を運んでいた羊野が中々帰ってこなかったのでつい焦ってしまった勘太郎だったが、ギリギリで羊野が帰って来た事もあり何とか橋桁を降ろして貰った事に心の底から安堵する。

 もう既に日の光が山の中に落ちようとしているので、勘太郎・羊野・春ノ瀬桃花の三人は足下に気をつけながら薄暗い石階段をゆっくりと下って行く。


 所々の距離で外灯の光が辺りを照らしている事が何よりの救いだが、それでも歩く度に闇夜に包まれた林の方から動物の鳴き声や風で木々がざわめく音が勘太郎と春ノ瀬桃花の恐怖心を更に増幅させる。

 そんな負の感情が反映したのか春ノ瀬桃花は石階段を下りながら不安な気持ちを隠せずにいる様だった。

 小学生にしてはしっかりしている春ノ瀬桃花が「お父さん、お父さん、一体どうしてしまったの?」と呟きながら肩を落としていると、そんな彼女に勘太郎が優しく声を掛ける。


「心配しなくても大丈夫ですよ。今日はただの様子見ですし、お父さんの安否を確認出来ただけでも大収穫じゃないですか。お父さんを連れ戻すのはこれからです」


「え、本当ですか、黒鉄さん。それじゃまだお父さんの奪還は諦めてないのですね」


「え、あ、ああ、もちろんですよ。俺を信じて下さいよ!」


 春ノ瀬桃花を元気つける為にそんな嘘を噛ましていると、隣で話を聞いていた羊野の『な~に調子のいい事を言ってんだよお前は』と言うような視線が勘太郎の心に深く突き刺さる。


 分かってる、分かってるよ、羊野。だが今だけは、今だけは根拠の無い言葉で依頼人のメンタルを安心させる事を許して欲しい。そして今回はやはり、国家権力の犬でもある赤城文子刑事に頼らないともう限界かも知れないな。本来こんなのは探偵の仕事じゃ無いし、俺達としてもここら辺が限界だろう。


 そんな事を思っていると、まるで心の中を覗いたかの様に羊野が白い羊のマスクを勘太郎に向けながら話かける。


「もう面倒臭いんで、なんならあの宗教団体その物を潰して来ましょうか。黒鉄さんがそう命令してくれたら仕事として私があの高田傲蔵和尚やその信者達を半殺しにして春ノ瀬達郎さんを無理矢理にでも連れて帰って来ますけど」


「そ、そんな恐ろしい事を近所のスーパーにお遣いにでも行って来るかのように、さらりと笑顔で言うなぁぁ!」と勘太郎は羊野にツッコミを入れる。


「そんなの駄目に決まってるだろう。何を考えてるんだお前は」


「だって私達もしかしたら今日で殺されるかも知れませんし。なので先ずは先に先手を取っておかないと」


 突然聞かされるその羊野の言葉に、勘太郎は自分の耳を疑いもう一度聞き返す。


「な、なんだって? 今俺達が殺されるかも知れないと、そう言ったのか。話が行き成り過ぎるだろう。それに誰に殺されると言うんだよ。まさか、天馬様か」


 その鬼気迫る勘太郎の質問に、羊野は淡々とした声で答える。


「天馬様かどうかは知りませんが、馬の顔をした馬人間と聞いて少し思い当たる事があります」


「な、なんだよ。思い当たる事って」


そこまで会話が進むと羊野は仕切に周りを警戒しながら自分の考えを勘太郎と春ノ瀬桃花に言って聞かせる。


「私が昔所属していた不可能犯罪を掲げる謎の秘密組織・円卓の星座。その中の一人に確か馬の被り物をした馬人間の狂人がいたのを思い出しましたわ。その狂人が使うトリック能力が確か……天空落下トリックだったと記憶しています。それがどんな物だったのかは未だに謎ですけど」


「なに~っ! 天空落下トリック使いの馬の顔をした狂人だとぉぉ! そんなとんでもない奴が円卓の星座の中にいるのか! 羊野、その狂人の二つ名はなんだ」


「その狂人の名は、確か……強欲なる天馬!」


「ヒィ、ヒヒイイィーイィィ~ンッ!」


 羊野がその名を口にしたのと同時にけたたましい馬の鳴き声が石階段に響き渡る。

 勘太郎と羊野は声のした方に咄嗟に振り返り。春ノ瀬桃花の方は涙目になりながら怯え震えていた。


「ヒッヒヒイイ~ン! まさかこんな所で噂の二人に出会うとはなぁ。これも何かの縁か。それともただの偶然か。それとも誰かの策略策謀かな? いずれにしろ我の危険分子となり得る者共は今ここで廃除しなけねばなるまいてぇ!」


そういいながら突如暗闇から姿を表したその姿に、勘太郎と春ノ瀬桃花は互いに息を呑む。


体はガッシリとした体型をしていて、まるでこの天馬寺で修行をしている修行僧の様な服装をしている。

 そしてその者の胸から上は精巧に出来た青い馬のマスクの被り物をしており、まるで本物の馬の顔の用にも見える。そう思える程にリアルで本物そっくりなのだ。

 しかも赤く輝く馬の眼球は不気味に左右交互に動き回り、口からはダラリと伸びた赤い舌が更なる恐怖を掻き立てる。

 そんな繊細な仕掛けを施した馬のマスクのできに勘太郎はちょっと関心をする。


 昔、何処かの観光地の土産物店で売っていたような安っぽいゴム製の馬の被り物とは比較にならない、そんな出来だ。

 勘太郎は突如暗闇から現れたその馬の姿をした不気味な存在とにらみ合いながら必死に対峙をする。


 張り詰めた緊張感が辺りを包む中、最初に馬の狂人がこの均衡を破る。


「改めて確認をする。お前らがあの噂の『白い羊と黒鉄の探偵』だな。それで相違ないな」


「ああ、そうだが、それを知っているお前は一体なんだ」


その事実を確認するが否や、手に持った長い木の棒をダイナミックに且つ巧みに振り回しながら名乗りをあげる。


「いきなりだが名乗らせて貰おう。我は円卓の星座の狂人が一人、『強欲なる天馬』白い羊と黒鉄の探偵、お前らには早々に死んで貰うつもりだが、それだけでは面白くない。なので先ずは力比べと行こうか!」


 そう言うや否や力強くジャンプした強欲なる天馬は猛然と走り出し、先ずは勘太郎と春ノ瀬桃花に襲いかかる。

 その長い棒の一撃が近くにいる勘太郎と羊野を無視して、なぜか一番後ろにいる春ノ瀬桃花を捉える。


「な、なに、春ノ瀬桃花だとう。や、やめろおぉーっ!」


 勘太郎は咄嗟に強欲なる天馬の前に立ちはだかるが、棒術の一撃を腹部にまともに受けてしまい、後ろの草むらへと大きく吹き飛ばされる。


「ぐわわーぁぁっ! 痛てぇぇ、腹が……」


 腹を押さえ、痛みに嗚咽を漏らしながら勘太郎は直ぐに立ち上がろうとするが、痛みのせいか体に力が入らない。


 直ぐに立ち上がり春ノ瀬桃花を守らねばならないのに、このままでは桃花が……馬の狂人に突き殺されてしまう。


「ハハハーッ! 雑魚探偵はそこで寝ていろ。先ずはこの小さなお嬢ちゃんからだ。お前……一ヶ月前のあの時、我の姿が見えていたそうだな。まさかあの時我の姿を見ていた目撃者がいたとはな、まさに不覚の至りである。これは深く反省し、ミスは直ぐに改善しなければならないな。そんな訳で当然ながらこの我の姿を見た者は誰であろうと生かしてはおかぬ。直ぐにあの世に連れて行ってやるからな!」


「ひいぃぃ~助けて、助けて下さい」


 強欲なる天馬は手に持った木の棒を頭上に掲げると、下を向き怯えて泣いている春ノ瀬桃花目がけて振り下ろす。


「く、くそおぉーさせるかぁぁっ! 上司命令だ。なんとしても奴を止めろ、白い羊っ!」


 勘太郎は痛みに悶える体を無理やり引き起こすと寸前の所で春ノ瀬桃花に覆い被さりながら依頼人を守る。

 あの棒の一撃を急所にでも受けてしまったら恐らくは助からないだろう。そう思いながらも背中に叩き込まれるのをじっと待っていたのだが、その一撃が勘太郎に振り下ろされる事はなかった。

 寸前の所でその棒の一撃を羊野が止めていたからだ。


 両足の太股に装備された長く大きな包丁をスカートの両ファスナーから素早く抜き放った羊野は、両手に持った二双の包丁の刃でその棒の一撃をガッシリと食い止めながらその不気味な白い羊のマスクを強欲なる天馬の方へと向ける。

 どうやら突然訪れた勘太郎の危機に羊野瞑子は完全な戦闘態勢になったようだ。

 その不気味な羊のマスクを被ったその姿は正に狂人・白い腹黒羊と呼ぶに相応しい。そんな異様な姿をしていた。


 二人の狂人同士がお互いに対峙する中、不気味に赤々と光る白い羊のマスクの眼球が強欲なる天馬の顔を捉える。


「ホホホホッ、強欲なる天馬さん、戦う相手を間違えているんじゃありませんか。今この包丁で馬刺しにして差し上げますから、そんなに焦らないで下さいな」


「クククク、お前は元円卓の星座の狂人の白い腹黒羊か。今は白い羊と呼ばれているそうだが、羊のマスクを被ったお前がそのままの姿で、この天馬寺にわざわざ現れるとは少し驚いたぞ。そんなお前がなぜ、あのへっぽこ探偵に従っているのかは知らないが、邪魔をするのならかつての仲間とて殺す……この木の棒で叩き殺す……そして突き殺す!」


「ホホホ、面白いですわ。たかだかお空でおままごとが出来るお馬ちゃんがですか。そこまで言うのなら是非とも楽しませて下さいな!」


「いいだろう。望むところだ!」


 そう言うと強欲なる天馬は棒術の達人がごとく木の棒を振り回しながら豪快に構えると、羊野に向けて素早い連打の突きを繰り出す。

 その突きを羊野は寸前の所で華麗に全て交わすと強欲なる天馬に対抗するかの用に素早い包丁の連打を繰り出すが、その攻撃をまた強欲なる天馬は全て棒術の技術で受け流してしまう。

 そんなどちらも譲らぬ攻防一体の激しい戦いが二人の狂人の間で繰り広げられているさなか、勘太郎は第一に依頼人でもある春ノ瀬桃花の無事を確認する。


「大丈夫ですか、春ノ瀬さん。怪我はありませんか」


「は、はい、私は大丈夫です。探偵さんこそお腹は大丈夫ですか」


「ええ、これしきの怪我は探偵という仕事柄日常茶飯事ですから、気にしないで下さい」


 探偵とはいえ、こんな危険なことは滅多に無いのだが、春ノ瀬桃花が気にしないように嘘を言って安心させる。

 本来なら戦っている羊野に加勢に行くのが本当なのだろうが、勘太郎が行ったら返って羊野の足手まといになることはあの息をつかさぬ激しい戦いを見ていたら嫌でも分かる事なので、取り敢えずはその場で二人の狂人の戦いの動向を静かに見守る。

 そんな勘太郎に今できることは、いずれ訪れるかも知れない一瞬の隙を見極め、春ノ瀬桃花を逃がすチャンスを見逃さないように細心の注意をはらう事だ。強欲なる天馬への追跡はその後からでも遅くはないだろう。


 しかしまさかあの円卓の星座の狂人が直接肉弾戦で挑んで来るとは、こんな事は先ずめったに無い事だぞ。これじゃ~もうトリックとか推理戦とか全く関係ないじゃないか。

 狂人が操るトリックとその仕掛けを見抜く俺達探偵との推理合戦を……つまりは狂人ゲームを向こうから仕掛けて来ないと言う事は、この強欲なる天馬と言う狂人は、あの創設者でもある狂人・壊れた天秤からの命令には従っていないと言う事なのかな?

 この強欲なる天馬が天空落下現象を操る狂人なら、必ずその首領でもある壊れた天秤が俺達に向けて何らかのリアクションを起こして来てもおかしくは無いはずなのだが?

 勘太郎がそんな思いに浸っていると、目の前では強欲なる天馬の力強い棒術裁きが羊野瞑子を襲う。羊野は正確無比の素早いスピードと天才的な感性で強欲なる天馬に対抗するが、不慣れな夜の石階段での戦いのせいか強欲なる天馬の方がやや優勢のようだ。


 そんな二人の狂人の戦いのラッシュが約二分間ほど続いた時、強欲なる天馬が牽制しながら後ろに下がり、戦いは一時中断する。


 同じく対峙する羊野瞑子の方は荒い息を吐きながら羊のマスク越しに少し疲れを見せている様だった。


「クククク、驚いたぞ。まさか白い羊がここまでやるとはな。流石はあの壊れた天秤が認めた狂人なだけのことはあるぞ。だがその若さで双剣術にも似た技術を修得しているとは一体誰に教わったのだ。お前のその双剣術裁きからは、あの切断のトリックを使う狂人『断罪の切断蟹』の長鋏裁きがダブって見えるぞ」


「あんな人体の切断なんかに生きがいを感じている、ゆがんだ偽善者馬鹿と一緒にしないでくれませんか。この技術は自己流ですわ」


「カカカッ、まあそういうことにしておくか。いずれにしろだ。お前がどんな天才的な技術を持っていたとしてもお前のそのか細い腕力では我の棒術から繰り出される剛力に押しやられ、いずれは疲弊し完全に力負けに至ると言うのが現実の結果だ。つまり、お前の攻撃は素早いだけでやたらと軽いのだよ!」


 そう言うと強欲なる天馬は二の腕を突き出しながら、力の差が分かる用に己の鍛え上げられた腕の筋肉を見せて力の差をアピールする。

 その体力の差をマザマザと見せつけられた羊野はいつもの様に余裕に満ちた言葉を消すと、殺意に満ちた殺気を強欲なる天馬の方へと向ける。


「おう~怖い怖い。さすがの白い腹黒羊もお怒りか。ならばそろそろこの強欲なる天馬ならではの、神の馬の奇跡をお目にかけると使用かのう。お前達は今から我の奇跡を目撃する生き証人となるのだ!」


 そう言うと強欲なる天馬は頭上に木の棒を掲げると、その棒を振り下ろしながら叫ぶ。


「天馬様の意思に反した者には死の裁きを、天罰天昇! 天罰降臨! 天罰無情ぉぉぉ!」


 強欲なる天馬が大声で叫んだのと同時に、夜空を覆い隠す枝を突き破りながら、絶望の悲鳴と共に一人の男が真下の石階段へとその頭を叩き付ける。


「ぎゃあああああぁぁぁぁーぁぁぁーっ!」


 その衝撃は余りにも凄まじく。頭は割れ血が飛び散り。首はあらぬ方向へと折れ曲がり。石階段に体中を叩き付けられながら下へ下へと、まるで血まみれの人形が転がるかの用に落ちて行く。


「ば、馬鹿な、一体どこから落ちて来たんだ!」


「ひ、人がまた空から落ちて……い、いやあぁぁぁーぁぁ!」


 その光景は余りにも無情で衝撃的だったせいか、人が死ぬ瞬間を見てしまった春ノ瀬桃花は悲鳴を上げながらその場で気絶をする。

 無理も無い。まだ小学生の春ノ瀬桃花には余りに残酷な光景だった事だろう。しかも人が死ぬ瞬間をまた同じ場所で二度も見てしまうとは、全くついていない少女である。

 そんな春ノ瀬桃花を介抱しながら、勘太郎は強欲なる天馬を驚愕の目で見る。


「ハハハハハハ、驚いたか。これが天馬様の神通力だ。あらゆる罪人を神の天罰で裁くことが出来る神の力だ。当然これにはトリック(仕掛け)など全く無い。何せ全て本物の出来事なのだからのう」


 神の力だと、そんな馬鹿な。大体奴は円卓の星座の狂人だぞ。絶対に何らかのトリックを使って人を上空から落下させているに違いないのだ。だが一体どうやって、どんな方法で人を上空から落としているのか、その方法が全く分からない?


 そんな事を考えている勘太郎に、強欲なる天馬は高笑いをしながらその自信満々な態度を崩さない。そんな傲慢な態度を取る(自称)馬の神様に、羊野は憮然とした態度で言い放つ。


「そんなちんけな空中落下殺人トリックなんかを神の奇跡などと得意げにのたうち回られても困りますわ。そんなお粗末な謎は、二代目・黒鉄の探偵を名乗る黒鉄勘太郎さんなら即座にいつもの名推理で簡単に解決できますから。おそらくは三日もあれば天空落下トリックやあなたの正体もついでに見破る事が出来るでしょうね」


 如何にも得意げに語る羊野瞑子の啖呵を聞いていた勘太郎の顔がみるみる青くなる。


 な、お前なにまた勝手な事を言ってるんだ。こんな不可思議な謎、俺なんかに到底分かるわけが無いじゃないか。俺の探偵としてのハードルを無闇矢鱈に上げるんじゃない。極度の緊張の余りに失神してしまうわ! と勘太郎が心の声を上げていたが、構わず羊野の話は続く。


「まあ、自分のお粗末なトリックに自信が無いからこそ証拠隠滅の為にわざわざ私達を殺しに来たのでしょうね。自分の手がける空中落下トリックにそんなに自信が無いのなら、力ずくで私達を殺すなり、尻尾を巻いてとっととここから逃げるなりすればいいじゃ無いですか。今ならまだ間に合いますよ」


 その羊野の挑発に強欲なる天馬の口から「なんだとう、抜かしたな、この小娘が!」と言う言葉が漏れる。どうやら強欲なる天馬の自尊心に火が付いてしまったようだ。その反応を見届けた羊野は更なる挑発を繰り返す。


「それとも勇気を出して私達とゲームをしますか。どうやら壊れた天秤からの命令は受けてはいない様ですが、強欲なる天馬、あなたに『狂人ゲーム』での対決を希望します。この挑戦を受ける勇気はありますか!」


「狂人ゲームだと。円卓の星座の創設者でもある壊れた天秤と初代・黒鉄の探偵・黒鉄志郎との間で、国家公認で秘密裏に行われていたというあのリアルトリック殺人ゲームの事か。確か円卓の星座が関わる事件には一般の警察は一切介入出来ず。代わりにその狂人ゲームに参加出来るのは、壊れた天秤に参加を認められた挑戦者、黒鉄探偵事務所の奴らと一部の警察関係者だけだと聞いた事がある。探偵側が勝てば事件は未然に防がれ、もし敗れれば円卓の星座のルール通りに罪の無い一般市民が無差別に殺害されると言うまさに狂った謎解きゲームだったな。その闇のゲームを今まさに我と繰り広げようと言うのか。我の天空落下現象の奇跡を利用して。なんて不届きな事を考えるおなごだ。まさに神である我を試そうと言うのか」


「はい、試させて頂きます。して答えはいかに?」


 ちょ、ちょっと待て! なんか話の流れからして俺達と強欲なる天馬とで狂人ゲームで決着をつけると言う流れになって来たぞ。

 しかも三日で事件を解決出来るとか言っちゃてるし、ホラを吹くにも程があるだろう。

 普通に考えてそんなのは先ず絶対に無理だぁ!

 羊野の奴、強欲なる天馬を挑発する為の嘘とは言え、ちょっと俺を持ち上げすぎだぞ。強欲なる天馬がピクピクと体を震わせながら何故か俺をガン見しているじゃないか!


 馬のマスク越しではあるが、その勢いある視線は気迫となって嫌でも勘太郎に伝わってくる。

 自尊心の強い強欲なる天馬のプライドをワザと煽り、直接的な戦いでは無くあくまでも推理と謎を掛けた狂人ゲームでのルール上の戦いに持って行くとは、さすがは白い羊・羊野瞑子である。


 まあ正直、肉弾戦じゃ例え羊野の力を持ってしても少し分が悪いみたいだし、余計な危険を避ける為には仕方の無いことではあるのだが。

 そんなことを勘太郎が考えていると、羊野の思惑通りに強欲なる天馬がその答えを出す。


「いいだろう。その話乗ってやるわ。弱い者いじめでお前らを仕留めても何の自慢にもならないからな。そこまで言うのなら我が神の力、三日で見破って見るがいい。恐らくは無理だろうがな。何せ仕掛けなど始めから無いのだからな」


「あら、逃げないで私が提案した狂人ゲームを承諾して下さるとは、少しは骨があったのですね。ならその挑戦、白い羊と黒鉄の探偵が確かに承りましたわ」


 そう言いながら綺麗にお辞儀をする羊野を見ながら、勘太郎は心の中で静かにほくそ笑む。


 うまい。相手は気付いているかどうかは分からないが、これは円卓の星座を通した正式な狂人ゲームでは無い。俺達と強欲なる天馬だけで勝手に交わした個人的な狂人ゲームだ。

 つまり、勝っても負けても、これは俺達と強欲なる天馬が勝手に行った狂人ゲームの為、円卓の星座はこの件には一切関知しないはずだと言うのが勘太郎の考えだ。


 だとするならば、天馬寺に関わった人達は別として、例えこの事件を解決出来なくても一般市民は誰一人として死ぬ事は無いと言う事だ。

 そんな思惑など知ってか知らずか、強欲なる天馬は「カカカカカッ、今日はもう引き時の用だな。今回は初顔合わせと言う事でこれで引いてやるとするかのう。と言う訳でいつでも天馬寺を訪れるといいぞ。お前達が再び来るのを首を長くして待っているからのう!」とだけ言い残すと、強欲なる天馬は豪快に木の棒を振り回しながら真っ暗な林の中へと消えて行くのだった。


「あ、待てぇぇ!」と叫びながら強欲なる天馬の後を追おうとした勘太郎を羊野が止める。


「待って下さい、黒鉄さん。暗い林の中を走るのは非常に危険です。どうやら強欲なる天馬はこの辺り周辺の山々を知り尽くしているみたいですからね。それにあの馬のマスク、どうやら暗視ゴーグル内蔵型みたいですわ」


「そ、そうか、道理で向こうは明かりも無いのに自由に林の中を移動出来る訳だぜ。強欲なる天馬め、また随分とあの馬のマスクに金をかけた物だな」


「黒鉄さんの驚く所はそこですか」


「いいだろうそんなのは、どうでも。そんな事よりも、あの強欲なる天馬とか言う狂人の関与はもう既に分かっているんだから、警察が何とかあの天馬寺に踏み込んでガサ入れでもしてくれないかな」


「一般の警察官に円卓の星座の狂人が現れたと訴えても、一体何を言っているんだと言われて相手にもされないと思いますよ。何せ円卓の星座の存在は日本の現総理や警察上層部の意向で秘密裏にされていますからね」


「まあ、円卓の星座の存在が明るみになれば正直国民はパニックを起こすかも知れないからな。当然か」


 そんな事を呟きながら勘太郎は、ポケットから携帯電話を取り出すと警視庁捜査一課・特殊班、赤城文子刑事に連絡を入れるのだった。

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