※ここから数話は相沢 桔梗さんの恋バナをお送りします

私が初めて好きになった人


それは、今の私と同じく西園寺家のメイドとして働く私よりも10歳程離れた人


彼女はどんな仕事もそつなくこなして私の憧れでした


そして、その憧れが恋心へと変わるのに時間はかかりませんでした



しかし、私とその人は決して結ばれることのない関係でした……





「ねぇ、相沢さんには好きな人はいないの?」


佐藤様の一件から約2日程経ったある日の事です。奥様が唐突に私にそんな事を聞いてきたので、私は思わず箸が止まってしまいました。これも、奥様がお嬢様に自分とは別の人に恋をしてもらいたいが故の策でしょうか?そんな事は不可能なのに……それを察してかお嬢様の目が若干鋭くなり、奥様を問い詰めます。


「先生。何故そんな事を聞くのでしょうか?」


お嬢様のこの問いかけに、いつもなら奥様は目を泳がせながら必死で言い訳をするのですが、何故か今日に限って顔を真っ赤にして言いづらそうにしています。何やらいつもと違う様子に私とお嬢様は首を傾げました。


「あ……あの……その……笑わないで聞いてくれる……?」


本当にいつもとは違う様子の奥様に、私もお嬢様も驚きつつも、2人揃って首を縦に振りました。すると、奥様はしばし口ごもっていましたが、やがて意を決したように……


「あの……ね……私……あんまり積極的にガールズトークの恋愛話に混ざる事しなかったんだけど……本当は聞くだけでもいいからガールズトークに混ざってみたいと思っていたの……!!」


物凄く恥ずかしそうにそう告白した奥様。その奥様の告白に私もお嬢様もしばし呆然としてしまいたが、お嬢様はすぐにプイッと横を向いて口元を抑えました。


「ちょっ!?西園寺さん!?笑わないでって言ったでしょ!!?」


お嬢様の態度に奥様は抗議の声をあげる。どうやら、奥様はお嬢様が笑うの堪えようとしていると思っているようですが、恐らくアレはフェイクです。お嬢様の内心は


(ちょっ!?なんなんですか!?この可愛い生き物は!!?可愛い♡可愛い♡可愛い♡♡)


と、悶えているに違いありません。笑いを堪えてるフリをしているのは、恐らく悶えてだらしのない顔を奥様に晒さないようにする為でしょう。


「ご……!ごめんなさい。先生。まさか先生がガールズトークに憧れているとは思わなくて……!」


ようやく復帰したのか、上手いことさっきまで笑ってしまいましたと言わんばかりの表情をするお嬢様は流石だと思いました。


「もう!私だって……こんな歳だけど……それなりに恋愛話には興味あります……」


奥様は顔真っ赤にして頰を膨らませました。お嬢様はそんな奥様に悶えてしまいそうになるのを堪える為に、自分の足を抓って微笑みを浮かべながら耐えていました。

奥様が恋愛話に興味があるのはなんとなく分かっていました。基本このマンションの部屋はお嬢様が掃除していますが、お嬢様が忙しい時は私が掃除します。その時、奥様の本棚を整理したら教材や参考書に混じって、少女漫画や恋愛小説があったのを確認しています。案外奥様は、自分には恋愛は縁遠いものと考えていても、漫画や小説にあるような恋愛に憧れていたのかもしれません。もしかすると、お嬢様はそれも分かった上であの作戦を実行したのでしょうか?


「それで……前に西園寺には聞いた事があるから、相沢さんの方はどうなのかなと思って……」


これは……お嬢様に恋愛に興味を持たせる意味も多少ありそうですが、純粋な好奇心で聞いてきてますね。その証拠に奥様の目がいつもよりキラキラしている気がします。しかし、奥様には悪いですが私の恋愛は……



「桔梗ならいますよね。好きな人が」


私は恋愛には興味ありませんと返そうとしら、お嬢様がサラリと微笑みながらそんな爆弾発言をしてきやがりました。

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