大変よ!?西園寺さん!!?

私はマンションの部屋の扉をバンッと音を立てて開ける。普通ならそれで驚いた表情で出てくる人が大半だと思うけど、西園寺さんはそういった表情を一つもせずに


「おかえりなさい。先生。晩御飯の支度出来てますよ」


と、ニコニコ笑って出迎えてくれた。この笑顔を向けられたら普通の人なら男女問わずに癒されるんだろうけど、残念ながら私には癒されている余裕がない。

私はツカツカと音を立てて西園寺さんに歩み寄り、そして、無礼を承知で西園寺の肩をガッと掴み


「大変よぉ〜!?大変なのよぉ〜!!?西園寺さん!!?このままだと私の人生がぁ!!?いや、私の人生が終わるのは私のせいだから仕方ないにしても!?西園寺さんの人生が大変なのよぉ〜!!?」


私は涙目になりながら西園寺さんを揺さぶってそう訴えた。こんな事をしたら普通なら怒って注意されるのが普通だろうけど、西園寺さんはまるで動じた様子もなく、先程の笑みをずっと浮かべたまま


「あらまぁ、ついに先生が私に手を出してくださるかと思ったんですが……どうやら違うみたいですね……とりあえず、先生。一旦落ち着きましょう。桔梗。先生にお水を」


「もうすでに持ってきました」


西園寺さんがそう言うと、相沢さんがスッと私の前に現れて、コップ一杯分の水を乗せたお盆を差し出した。

最初の頃は、急に現れる相沢さんにビックリしたものの、1週間も同じような感じで現れたら、もうそういうものなんだと慣れてしまった。慣れって本当に怖い……


とりあえず、私は差し出されたコップの水を一気に飲み干す。ふぅ〜……水の冷たさで少しは落ち着いてきたかも……


「あのね……!実は……!?」


「先生。とりあえず食べながら話しませんか?せっかく作ったカレーが冷めてしまいますから」


慌てていて気づかなかったけど、よく匂いを嗅ぐと物凄くカレーのいい匂いがする。その匂いを嗅いだら私のお腹が自然と鳴ってしまい、私は思わず顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「ふふふ……先生。とりあえず晩御飯にしましょう」


「……はい……そうですね……」


私は未だに恥ずかしくて俯いたまま台所へと向かった。




で、西園寺さんの手作りカレーを食べた後(ちなみに、西園寺さんなカレーのスパイスまで手作りしていた)私は今日起きた出来事を全て西園寺さんに話した。


「なるほど。分かりました。だから、先生は私達の情報が漏洩してるかもしれないから大変だと申した訳ですね」


「はい。その通りです」


なんとも情けない話ではあるが、こうなった場合頼れるのは西園寺さんしかいない。私……一応西園寺さんの担任だけど……


「しかし、にわかには信じがたい話ですね」


相沢さんが私と西園寺さんの2人分のお茶を差し出しながらそう言った。そして、相沢さんが淹れてくれたお茶は「これ?本当に市販のお茶?」と疑ってしまうぐらい美味しい。流石は優秀メイドさんだ。


「西園寺グループは大きな会社ですから、情報に関するセキュリティは徹底しています。ウィルスやハッキングなどを絶対にさせないように徹底的に管理しているサイバーセキュリティ課、西園寺グループに来たスパイ社員をすぐに見つけ出し捕らえる西園寺隠密部隊の2つがある限り、西園寺グループの情報漏洩は一切ないに等しいはずです」


前者のはともかく、後者のは普通の会社にある部署なんだろうか?


「いえ……もしかしたら……」


西園寺さんは何か心当たりがあるのか、考える仕草をしてしばし思案していたが、すぐに私の方を振り向き


「先生。申し訳ありませんが、その先生に「果たし状」を叩きつけたという不届き者の特徴を教えてくれませんか?」


「えっ……?あっ……うん……名前は聞いてないんだけど……」


私は今日会った子の特徴を事細かに西園寺さんに説明した。すると、西園寺さんの目が何故かスッと細くなり


「見た目ジャニー◯系の茶髪のイケメン2年生……ですか……」


何故か若干黒いオーラが出てるのは気のせいだろうか?が、西園寺さんはすぐにいつもの誰をも魅了する笑顔で私の方を見て


「分かりました。先生。そのバ……人物は私が対処しておきますから。先生は絶対にその人に関わらないようにしてくださいね?」


「えっ?でも……あんな宣言されて関わらずいるのって無理なんじゃ……」


「なるべくで構いません。とにかく、出来る限り避けるようにお願いしますね」


私が教師をやっている以上避けるのが難しい場面が多いような気もするけど……とりあえず私は西園寺さんに「分かった」と言って頷いて、いつものようにお風呂に入り、今日は精神的に疲れたせいか、いつもより早く眠りについた……


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