とにかく!ひたすら土下座するしか……!?あっ……もう無理オワタ……

「この度は誠に申し訳ありませんでしたぁ!!!!」



私は西園寺グループの会長室に入るやいなや、会長席に座っている相手、西園寺さんの父親で西園寺グループの現会長、西園寺さいおんじ 厳蔵げんぞう氏に土下座して謝罪した。そのすぐ隣には、西園寺さんの母親である西園寺さいおんじ 麗華れいかが立って私を見つめていた。


「この度はうちの不出来な娘のせいで!西園寺様の娘さんに間違いを犯してしまい!誠に!誠に!申し訳ありません!!」


私の両隣には、私の両親がいて、お母さんが絶対に頭を上げるなと言わんばかりに私の後頭部を抑えつけている。父親はひたすら黙って土下座して謝り倒している。普通ならこんな事をされて不満の感情が芽生えたりするだろうが、いかんせん今回の件は100%私が悪いので不満の感情など出るはずがない。


「顔を上げてください」


厳蔵氏からの言葉を受け、ようやく母親は私の後頭部を抑えつけていた手を離し、私は顔を上げて西園寺さんの両親を見て驚いた。

西園寺さんには、私と同い年と私より一個上のだいぶ歳が離れた兄が2人いると聞いていた。だから、西園寺さんの両親は私の両親と同い年ぐらいか、下手したら一つか二つ上のはずだが、とてもそんな年齢には見えなかった。厳蔵氏は、やはり会長というだけあって威厳や貫禄みたいなものはあるものの、見た目だけなら30代前半に見える。西園寺さんの母親に至っては、西園寺さんが大人になったらこうなるんだろうなぁ〜という想像そのままである。こちらに至っては下手したら20代の人間に混ざっても全く違和感がない。もしかして再婚?というのがほんの少し頭をよぎったが、そういう噂は全く聞いた事がないので、この2人は私の両親と同い年ぐらいなんだろう。全く見えないけれど……


「先生……とんでもない事をしてくれましたね」


厳蔵氏のその一言で、私は顔を真っ青にして土下座をする。母親も再び私の後頭部を抑えつけ、父親は黙ってひたすら土下座を続けている。



「あれ?遥香の台本通りに言ったけど……なんか物凄い怯えられて話を聞いてもらえない雰囲気なんだけど……」


先程の冷たい感じのする声から一変、厳蔵氏は若干戸惑っているような声色で、恐らく、西園寺さんの母親とは反対側の隣にいる西園寺さんに話しかけた。


「う〜ん……先生が真面目過ぎるぐらいの方なので、ある程度怯えられる事は想定していたのですが、まさかここまでとは……」


「どうするの?これじゃあ例の話に進めにくいんじゃないの?」


なんだか西園寺さんと西園寺さんの母親が小声でそんな会話をしているような気がするけど、早くこの場をなんとかしたい私の気持ちが幻聴を送り込んでいるのかもしれない。

と、そんな時、ガチャ!と扉が開いた音がして、複数の足音が擦り付けている額から響いてきた。どうやら、誰か入室してきたみたいだけど、私は頭を上げる資格がないから誰が入ってきたか確認する事が出来ない。


「父さん。話は廊下越しで聞かせてもらったよ」


「親父。ここは俺達に任せてくれないか?俺らの話なら真由美も聞く耳を持ってくれるだろうし」


どうやら、入室してきたのは声から察するに男性2人のようである。先程の足音の感じだと2人以外にもいそうだけど……っていうか……この声……どっかで聞き覚えが……?


「うん。そうだね。分かった。2人に任せるよ」


「あぁ、おい。真由美。一旦頭を上げてくれ」


「そうそう。落ち着いて話し合おうぜ」


「えっ……?何で私の名前を……?」


そこで私はようやく顔を上げて、私に声をかけてくれた2人を確認すると……


翔一しょういち先輩……?それに……翔太しょうた君……?」


「あぁ。久しぶりだな。真由美」


「俺らとはあの卒業パーティー以来になるから本当に10何年ぶりかぁ〜!」


翔一先輩は微笑を浮かべ、翔太君はニカッと笑いながら私を見ていた。この2人は、私が高校時代に一緒の高校に通っていた兄弟である。

兄の翔一先輩は私の一個上の先輩で、知的な雰囲気を醸し出しているインテリ系イケメンで女子から絶大な人気を誇っていた人である。

そして、弟の翔太君は私と同学年である。こちらは翔一先輩とは違い、若干チャラい感じはするが、これでも、テストの成績は常に学年一位だったりする。もちろんこちらもイケメンでかなりモテていた。

そんな絶大な人気のイケメン2人と、高校時代も地味っ娘一直線な私、まるで共通する部分がない私達だったが、とあるきっかけもあって2人とは仲良くさせてもらっていた。そのとあるきっかけとは……


「それに……?夏流なつる先輩に……秋穂あきほちゃん……?」


「久しぶりね。真由美。私とは去年ぶりかしら?」


「私とは先週会ったばかりだね。真由美ちゃん」


翔一先輩の隣には、私の一個上先輩で、中学時代からかなりお世話になった先輩、相澤あいざわ 夏流先輩。

翔太君の隣には、私と同い年で高校時代では、私と同じ地味属性ではあったが、むしろ地味なようで無茶苦茶可愛いと男子から密かな人気を誇っていた、篠宮しのみや 秋穂ちゃんがいた。

私を見つめている夏流先輩と秋穂ちゃん。2人共スーツ姿だが、夏流先輩は「美人秘書になれる」と高校時代から言われてくるぐらいの人だったので、スーツもよく似合っていた。私と同じく眼鏡をかけているが、夏流先輩の場合だと、私のように地味っ娘にならず、むしろ知的なクール美女のような存在感を出していた。

秋穂ちゃんも、いかにも癒し系な女性社員さんといった感じが出ていて、男性社員のほとんどはこんな秋穂ちゃんを見ていたら疲れが癒される事間違いなしだろう。

これで、私と一個上だったり、私と同い年だったりするので若干不公平さを感じずにはいられない。


そして、私が翔一先輩や翔太君と話すきっかけとなったのがこの2人なのだ。翔一先輩は夏流先輩に、翔太君は秋穂ちゃんに惚れていたので、2人の共通の知人である私から色々情報を聞き出したかったという話である。

まぁ、と言っても夏流先輩も秋穂ちゃんも、2人に惚れていたので、何もしなくても4人はすぐに付き合いはじめるだろうと思っていた。現に、そんなに時はかからずに4人はそれぞれのパートナーと恋人同士になった。私がしたのはせいぜいプレゼントのアドバイスぐらいである。


「けど……なんで4人がここに……?」


4人が一緒にいるのは別に不思議な事じゃない。翔一先輩と翔太君は性格が真逆ながらも仲がいい兄弟なので、よく2人でお互いのパートナー連れてダブルデートをしていたみたいだし。それに、翔一先輩も翔太君も、夏流先輩と秋穂ちゃんと同じ日に結婚したと何年か前に報告がきたから、夏流先輩や秋穂ちゃんは旦那の付き添いで来たという感じだろう。けど、4人がここにいる理由が全く分からない。すると、翔一先輩は何故か呆れたような溜息をついた。


「全く……真由美。お前は俺達の苗字を忘れたのか……」


「まぁ、仕方ないんじゃないの?俺ら、苗字で呼ばれるのを嫌がって名前で呼ぶように言ってた訳だし」


翔一先輩の言葉に、翔太君が苦笑を浮かべながらそう応える。そうだ。2人はどこかの大企業の息子だから、あまり苗字で呼ばれると、その苗字の企業で付き合ってると思われて嫌だと言っていたっけ……あれ……ちょっと……待って……そうなると……もしかして2人の苗字は……


「もしかしなくても…………お2人の苗字は…………」


「お察しの通り西だ」


翔一先輩の言葉で私の疑問は全て氷解する。そうか。ならいて当然よね。なんせ、先程チラリと聞いた話だと、厳蔵氏は社長の座を息子に譲ったという話だし、恐らくその社長が翔一先輩で、もしかして翔太君は副社長かな?つまり、2人の会社で職場なんだからいて当たり前なんだ。

そういえば、2人も西園寺さんと同じくバイト三昧しながら成績優秀だったよなぁ〜。それをすごいなぁ〜って本当に尊敬していたんだよなぁ〜。そっか、上2人の兄がやっていた事を西園寺さんもやっていた訳か……そっかそっか……西園寺さんは……翔一先輩と翔太君の……い……妹…………




「私の命を差し出すので!!!!両親や親族に至るまで苦しめるのだけはご勘弁を!!!!」


私は再びそれはもう額が真っ赤になるほど2人に土下座した。今の私の心境を表すなら……


私の人生オワタ…………である。




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