第六章 山下梅香の物語 遺産
超色っぽい梅香さん
ミヤコ・メイドハウスバトラーに任命された山下梅香は、ミヤコを歩く毎日を過ごしていた。
気になっていた織田千代子の事は、マルス移転の前に解決し、今はメイドハウスの設立準備のために、その敷地を探していたのである。
そして思い出の学校へたどり着き、そこから土地が見つかり、建物が建ち、テレビ局がやって来た。
そしてテレビ出演することとなり、その結果、一通の手紙が送られてきた……
まさか自分にも、千代子のような……
* * * * *
日本帝国の古都、京都がマルスへ丸ごと移転して程なくした頃、ミヤコと名前を変えた京都は、少しずつ落ち着いてきました。
市内には鴨川がそれなりに流れ、一応東山連峰に見立てた山並みもあります。
できる限りの文化遺産は移設されており、この後、二次移設計画が計画されており、京都近郊の多くの名所なども移設される予定です。
なんせ人がいないのですから簡単なのですよ。
山下梅香は感慨深く、ミヤコの三条あたりを歩いていました。
「こうして歩けるなんて夢のようね……」
京都宮川遊郭六条楼で娼妓をしていた山下梅香、あのまま悪い病気をもらい、朽ち果てると覚悟していた日々が、嘘のようです。
織田千代子の件も解決し、彼女の妹になるめぐみが現れ、幸せそうな千代子に、心から良かったと思える梅香さんです。
「めぐみさんも文さんも可愛いし、早くこちらに呼んであげたいわね、やはり育った場所に住まうほうがいいわ」
「嫌なことがあったとしても、故郷なんだから……」
「故郷があるほうが、いいに決まっているわ、頑張ってミヤコ・メイドハウスを設立しなくては……」
先ごろ『夫人』に昇格し、ミヤコ・メイドハウスバトラーを拝命した山下梅香は、ハウス設立の準備に来京したのです。
ミヤコ・メイドハウスは都女子学園を管轄し、宮川遊郭六条楼をゲストハウスとして管理することは決まっていますが、後は未定なのです。
美子さんから、
「ゆっくりとすればよいですよ」
と、いわれていますが、やはり前倒しで設立したいと、考えている梅香さん。
そういうわけで、まずはハウスの所在地を探して、毎日ミヤコを歩いているわけです。
「どこかいいとこないかしら……同志社なんて良いけど、とるわけにはいかないし……郊外は避けたいし……難しいわね……」
見るからに優しそうで、超色っぽい梅香さん。
昨日の夜、宿泊ホテルのバーでオレンジ・サキニーという、日本酒とオレンジジュースのホットカクテルなどを傾けていると、色々と声をかけてくる輩が次から次に、中には、露骨な物言いのジェントルマンもいましたね。
六条楼にいた時とは、別人のようになっている梅香さん。
現在三十二歳を過ぎていますが、とにかく若く見えます。
お肌もしっとり、髪もつやつや、上品で淑女、なのにゾクッとする色気が、まとわりついている女性です。
そんな女性がほんのりほほを染めて、グラスを傾けているのですから、叔父さま方はイチコロでしょうね。
ただ本人は、そんな気はサラサラありません。
「私は美子様の物、人生を捧げているのですから、言い寄られても困るわ……」
「仕方ないわね、明日からは、チョーカーを見えるようにしなければ……」
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