卯月の決意
沙織は美子の顔を思い浮かべました。
ナーキッド関係者といえば、美子しか知り合いはいません。
しかも美子はかなりの重要人物らしいのは、沙織といえども分かることです。
どう考えても美子が口を利いたと思える沙織です。
吉川様……
翌日、沙織は美子と話をする機会をうかがっていたのですが、やはり美子の周りにはいつも人が一杯、それでも何とか昼食時に、側によることが出来ました。
お礼を言おうとしますと、
「昨日は楽しかったです、また誘ってください」
と、美子から声をかけてくれます。
泣きそうになった沙織でしたが、
「そうですね、また行きましょう、私も楽しかったです、一生の思い出になります」
やっと言葉を出したのです。
美子は昼食を中庭で取る事が多く、この日も周りには、美子の取り巻きが集まっています。
この美子の言葉の後に、なんともいえない雰囲気が、取り巻きの女学生に漂ったのを沙織は気づきました。
特に鈴木智子の視線は、下級生とは思えない厳しいものがあり、恋する女の感が、その雰囲気を嫉妬と教えてくれました。
鈴木智子さん、ひょっとして我妹子(わぎもこ)さん?
そのように考えると、この雰囲気も全て理解できる沙織でした。
私だって……卒業面(そつぎょうづら)――戦前の女学校では美人ほど早く結婚して退学していく、卒業まで残った女子生徒の容姿の事らしい、作者――ではないわ。
アリスさんやアテネさんとは、比べ物にならないけど……
でも、悔しいわ、私も我妹子(わぎもこ)さんに……
そうよ、私も美子様のお側に一生仕えるのよ♪
昨日のご恩は、それでしか返せないのよ♪
一途なところがある沙織、その上に計画性も観察眼も、かなり持っています。
そこで翌日から、美子とその周りの女たちをそれとなく観察しました。
すると、美子の取り巻きの女たちにもグループがあり、アリスさんなど、美子と一緒に転校してきた生徒は、美子の他の女に対して落ち着いて対処しています。
余裕があるのです。
さらに観察していると、美子の取り巻き女たちには、ある特徴があることに気がつきました。
女性特有の陰湿なところがないのです。
見えないところでは、あまり悪口はいわない部類の女ばかり、そして積極的なのです。
……吉川様は受身なのでは……
優しく思いやりもお持ちだけど、受け入れられるには、こちらからアクションを起こさなければならないのでは……
私は行動しなくては、言葉と態度で示さなくては……
富田沙織は決意したようで、以来、可能な限り、美子の側に張り付いています。
美子はそのような沙織に対して、迷惑がるようなことはありませんでした。
むしろ、親しく話などをするようになって来ました。
クラスメートが冷やかしたりしますが、沙織はこう宣言したのです。
「吉川様のように、美しい方の侍女ならなります」
吹っ切れた沙織でした。
以来甲斐甲斐しく、美子のためにお弁当などつくり、ほんのり薄化粧なども始めました。
鈴木智子の視線にたじろぐ事もありません。
そして五月の連休に、勝負下着を身に付け、美子と『S』の関係となったのです。
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