モンティ・ホールのスケコマシ太郎

ちびまるフォイ

選択肢はひとつしかない

「「「 それで、いったい誰を選ぶの!? 」」」


3人の彼女に迫られたスケコマシ太郎は悩んでしまった。


1女とはいつも一緒にいて楽だし、ありのままでいられる。

2女とは一緒にいるとお互いに高められる大切な存在。

3女は穏やかで気立てがよくこれまで感じたことのない優しさがある。


「そんなこと、俺に決められないよ!」


太郎は逃げ出してしまった。

それがその場しのぎだとわかっていても。


悩みながら歩いていると道には水晶の前に座るおばあさんがいた。


「もし……もし、そこの方。色恋に悩んでおられるようですな」

「わかるんですか!?」


「占いを長くやっていると人の顔を見ただけでだいたいわかるんだよ」


「実は……今、3人の女性に結婚を迫られていまして

 みんなちがってみんないい子なので悩んでいるんです」


「なるほどねぇ。その3人の中には1人だけ殺意を隠している子がいるよ」


「そんなばかな! みんないい子ですよ!」


「女の本心を男が見抜くなんてできないさね」


「その……殺意を持っている子って誰なんですか」


「おっと、この先はちゃんと料金を払ってもらうよ」


「そういう魂胆かい!!」


不安を煽ってこの先はWEBで、というアコギなやり口に怒った太郎はその場を立ち去った。

三日三晩悩みに悩んだ末に一番付き合いの長かった1女を選んだ。


「ありがとう、これからも一緒だね」

「もちろん!」


「……結局、男なんてみんな自分を超えないような人が好みなんだね」


2女は呆れてしまった。


「太郎さんが選んだのなら、私は応援します。悲しいですけど……」


3女は寂しそうにした。


1女との結婚生活がはじまっても、

これまでの交際の延長線上なのでスムーズだった。


「太郎、今日は帰り早いの?」

「あーー、どうだろ。わかったら連絡するよ」

「うん」


幼馴染からの付き合いも合って阿吽の呼吸。

やっぱり1女を選んでよかったと思っている。


その反面、あの怪しい占い師の言葉がひっかかっていた。


「……やっぱりモヤモヤするから確認しておこう」


ふたたび老婆の居た場所を訪れると、消費増税で値上げした占い場があった。


「おばあさん、俺の顔覚えていますか!?」

「もちろんだとも」


「こないだ、3人の女の中に殺意を持っている人がいると言っていましたね。

 それは誰なんですか。教えて下さい!」


「それはできないよ」

「金ならあります!」


「そうじゃなくて、どうやらその子は殺意をうちに秘めてしまったのさ。

 だからもう特定することはできない」


「そんな……」


「だが、お前さんが誰を選ぶべきだったのかは教えることが出来るよ。

 ただし1人だけだけどね」


「本当ですか! お願いします!!」


「ムムム……きえぇぇぇえ!!」


老婆の水晶にはぼんやりと3女の顔が浮かんだ。


「お前さんが選ぶべきはこのこのようだったんじゃな」


「選ぶべきって、なにを基準に?」


「この子を選べばお前さんの運勢は大きく好転したじゃろう。

 お前さん自身のオーラも優しくなり、多くの人に愛される人生を送れたはずじゃ」


「……ふ、ふん。別にきにしてねーし。今で満足していますし」


「そして、少なくともこの子はお前さんに殺意は持っとらんよ。

 殺意を持ってなければ結婚相手として選ばれるわけがない」


「それじゃ、殺意をもっているのは1女か2女ってことですか」

「まあな」


犯人はわからずじまいではあったが、太郎は意識して1女を観察するようになった。


「……なに? じろじろ見て」


「いや……別に」

「変なの」


疑わしいと思えばなんでも怪しく見えてしまう。

1女が料理のために包丁を握ることですら驚いてしまう。


1女がいない間になにか殺意の証拠でもないものかと探したが、

そんなものが見つかるはずもなかった。


「3女と結婚すべきだった、かぁ……」


結婚生活をはじめてみて、楽ではあるが変化は訪れなかった。

もしあのとき3女を選んでいれば占い師の言う通り幸せになれたのか。


思えば、3女はいつも優しくて敵を作らず一緒にいるときはいつも笑っていた。

自然と人が集まってきて、穏やかで温かい空気感に包まれていた。


花畑で小鳥と話すお姫様のような存在だった。


「今さら離婚して、やっぱり結婚しようだなんて言えないしなぁ……」


頭の中でぐるぐると考えても答えは出ないと踏んだ太郎は、

女友達に今の悩みを打ち明けることにした。


「変えたほうがいいよ」


「はやっ。即答じゃん」


「なあなあで結婚しただけでしょ?

 結婚してからそういうこと考える段階でもう合わないってことじゃん」


「そうとも……限らないだろ」


「そうとも限るよ。とにかく、相手を変えたほうがいいよ」


女友達の即答でますます太郎の頭は地獄の釜よりも混沌を極めた。

訪れたのはやっぱり占い師のもとだった。


「おばあさん! 俺が進むべき道を教えて下さい!!」


「だいぶざっくりじゃな。そんなことは教えられないよ。

 ただし、お前さん随分頑張ったようじゃな。人生に新しい道が開かれておるよ」


「新しい道?」


「今日、誰かと合わなかったかね? その子を選ぶこともできるようになったようじゃ」


「え!? 女友達ですよ!?」

「相手はそう思っとらんかもしれんけどねぇ」


全然意識してなかった第4の可能性が現れた。

たしかに今まで恋愛相談をするたびに呼びつけても嫌な顔ひとつしなかった。


「彼女に乗り換えたほうが……いいんですか」


「お前さんが選ぶべき相手を占ってやろう。きえええええ!!」


占い師はふたたび水晶に手をかざして奇声をあげた。

水晶にはぼんやりと2女の顔が浮かんだ。


「この子はお前さんが今選ぶべきだった女性じゃ。

 もし選んでいれば彼女から多くのことを学び人生を豊かにしたじゃろうな」


「ああもう悩ませないでくださいよ!!」


「そして、お前さんの残り選ぶ相手のどちらかに殺意を隠している子がおるよ」


「ごくり……。確率は50%ってわけですか……!

 もう1度占ってもらうことはできないんですか」


「わたしゃこの街をもう去るよ。さっきの占いはお別れのサービスさ」


「そんな……!」


太郎は人がいなくなった夜の海でひとり考えていた。

1女とこのまま結婚生活を続けるべきか。

それとも女友達の好意を受け止めて新たな門出へと踏み出すか。


優柔不断だった太郎はついに決断した。


「俺は……俺は1女を信じる!!!」


太郎は最初の決断を信じけして選んだ相手を変えなかった。


 ・

 ・

 ・


老婆が街を去る頃、凄惨な殺人事件が起きた。


「聞いた? 夫が刺殺されたんですって」

「怖いわねぇ。殺意を持ちながら結婚生活を続けてたってこと?」


老婆は街を立ち去る頃につぶやいた。


「……結果ちゃんと理解してれば

 殺意を持っている子が誰かわかっただろうに……」

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