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「そ、そんな! お待ちください父上! キャロルと同じ身分ということは、まさか平民になれということですか!? このわたしが平民!?」

「そ、そうですよ! なぜデニス様が平民なんですか!? 悪いのはすべてメリッサなのに!」


 必死に言い募るデニスとキャロルに、国王は冷淡な目を向ける。


「黙れ。そもそも今申しつけたことは公爵夫人とは無関係。……第一、そこの平民が学園に入学してきたのは、公爵夫人の卒業後。夫人はマヌエル公と華燭の典を挙げた後、公爵とともにずっと領地に籠もっていたというのに、どうやってそこの平民を虐げられるというのだ」


 すると、キャロルの目が驚きのため見開かれた。


「えっ、そんなのおかしい。なんでメリッサが学園にいないのよ! それじゃ、あたしを虐めたことにならないじゃないの!」


 デニスと取り巻き以外の者達の冷ややかな目がキャロルに突き刺さる。しかし、キャロルはそれに気が付かないままだ。


「……語るに落ちるとはこのことだな。このような穢らわしい平民のために我が国の威信が揺らがされたのかと思うと、虫酸が走るわ」

「おっ、お待ちください父上! なぜメリッサが学園に在籍していないのですか!? メリッサはわたしと同学年のはずだ。それなのに、おかしいではないですか!」

「……勘当したおまえに父と呼ばれる筋合いはないが。それに公爵夫人が既に学園に在籍していないのは、別に不思議でもなんでもない。おまえに執拗に絡まれて困り果てていた公爵夫人を見かねて、マヌエル公が飛び級を勧めたのだ。元々優秀であった公爵夫人はそれを難なく成し遂げ、おまえより一年早く卒業してマヌエル公と結婚した。ただそれだけのことだ」

「そ、そんな馬鹿な! それでは父上はキャロルの言ったことが嘘と申されるのですか!?」


 デニスが驚愕を露わにして国王に問うた。取り巻き達も驚きを隠せない様子だ。


「嘘もなにも、そこの平民が『それでは虐めたことにならない』と申した時点で狂言であると自ら証明したではないか。それに、国の機関で調査した結果、そこの平民の自作自演であると判明したと先程伝えたはずだが?」

「…………」


 愛する少女に踊らされていたとようやく認識したデニスと取り巻き達は、もはや黙りこむしかなかった。


「そっ、そんなの嘘よ! あたしは本当にメリッサに虐められて!」


 浅ましくも嘘を重ねるキャロルに、周囲から侮蔑の視線が送られる。


「ここまで明らかになっていて、なぜそのような虚言を吐くのだ。そもそも平民ごときが王太子妃となる公爵夫人を呼び捨てにすること自体、明らかな不敬。貴様のおかげで受けた国辱と合わせて、楽には死なさないから覚悟しておくのだな」

「……っ!」


 国王から受けた宣言に、キャロルが愕然とした様子で立ち竦む。だが、それを慰める者はもはやいない。


「なっ、なによ! たかがモブが偉そうに! あんたもメリッサも、あたしの幸せの踏み台になってりゃいいのよ!」


 国王を指差して暴言を吐くキャロルに、周囲は既に怒りよりも哀れさえ感じるようになってきた。


「……誰か、この愚かな娘を黙らせよ」

「御意」


 近衛騎士がキャロルの前に進み出て、猿ぐつわを噛ませ、縄で拘束すると、部屋の隅に転がした。

 キャロルは芋虫のように身をくねらせ、呻き声を上げていたが、これではこれからの話し合いの邪魔はできそうもないだろう。


「ち、父上! これでわたし達がなにも悪くはないのは証明されましたよね? でしたら、わたしを平民とするというようなお戯れは取り下げてください!」

「……わたしはおまえに父と呼ぶなと言ったはずだが? 何度も同じことを言わせるな。不愉快だ」

「ち……、陛下!」


 さすがに国王を父と呼ぶことがまずいと学習した様子のデニスが言い直すが、国王の目はどこまでもすげなかった。


「おまえを平民としたのは、王族のみならず貴族としてもふさわしくないと判断したからだ。国王からの書状を疎かにするような者、平民としても温情をかけ過ぎなくらいだ。……もっとも、これからのおまえ達に、平民としての平穏な生活ができるとは思えんがな」

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