第21話 幼女と朝の目覚め
朝。
雨上がりの軒先に雨だれが残り、空を見上げればピンク色の朝焼け、その隙間に乳白色の日の光がところどころ差し込んでいる。
町にはまだ人の気配はない。
ただところどころの家からは、朝食の用意を始めたからか煙を登らせる家がちらほらと見えている。
その幼女は早起きだった。
まだ瓦礫のすみで惰眠を貪っていたエスカランティスの顔を土足で踏みつけ、ひとこと「メシ」と、朝飯を要求してくるのだった。
「そんなものはここにはないぞ」
エスカランティスは眠い目をこすりながらアリスに抗議した。
「オレは貧乏転生者だから、メシはここにないんだ」
「店があるくらいなんだから、どっかに何かあるでしょう?」
「店はあるけど、食料はない。カネもない。寝るくらいしかできない」
「起きろっ!」
二度寝を決め込むエスカランティスの横っ面を、アリスの小さな足が踏みつけた。
「ヌ…………遊びたいなら外行って遊んでくるといいぞ」
「ハラがへった。早く起きて何かつくれ」
「何かいい考えが浮かんだんだろう?」
「考えは浮かんだわ」
アリスはエスカランティスの顔を足の底でぐりぐりしながら、何か物思いにふけるかのように遠い目をした。
エスカランティスを見下ろしながら。
足でエスカランティスの顔を足でいじめながら。
エスカランティスがイヤイヤしながらアリスの足から逃れようとする様子を、アリスは見て楽しんでいるようだった。
とはいえ、この幼女の体重はとても軽い。
どんなにぐりぐりと顔を踏みつけられてもその足の感触はマッサージにも似た感触程度である。
こんな幼女に足でフミフミされるのもまたいいような……い、いかん!
「起きなきゃ!起き……う」
くぎゅううううう、とエスカランティスの腹がなる。
こきゅう、とアリスの腹も鳴る音がした。
このぼろ家(というか、まだほぼ廃墟。掃除はしたしある程度の家具は集めた)でまともな飯は作ったことがない。
むしろ昨夜食べたあの塩スープがまともに食べた飯だった。
ここまで落ちぶれたかオレはッ!と思うことも無くはなかったが、兎にも角にもエスカランティスは食事を用意しようと腹に決めた。
立ち上がればキュウウウと音がなり、一歩歩けばキュオオオオオ……と腹がなる。
「お、オレは腹が減ったぞ」
「それは私もだエスカランティス。このままじゃ私たちは飢え死にするしかない。けどな、ここで寝ていても飢え死にするしかないんだぞ」
「じゃあ、どうするつもりなんだ?」
「決まってるだろう」
戸口に立ったアリスは、自信満々の笑みを受かべて振り返った。
「奪うのさ。食べきれないほど余らせている奴から、必要なものをな。仕事はそのあとだ」
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