恋しい人 第13話
慶史につられて僕も虎君を振り返れば、此方を気にしている虎君の姿が。
僕を見ている気がして確かめるように手を振れば、虎君も同じく手を振り返してくれる。やっぱり僕を見てくれていたみたいだ。
嬉しくて笑顔になる僕。
慶史はそんな僕の頭をぐりぐり抑えつけるように撫でまわしてきて、「愛想振り撒かないで」と仏頂面を見せる。
「あのめちゃくちゃ美形な三人組って三谷の知り合い?」
「うん。そうだよ」
「父親と、……兄貴と姉貴?」
虎君達を『美形』だと褒めてくれる姫神君。姫神君も凄く綺麗なのにそんな姫神君が『美形』と言うなんて、やっぱりみんなカッコいいんだとちょっぴり鼻が高い。姉さんが綺麗なことは知っていたけど。
「えっと、母さんのボディーガードをしてくれてる人と、僕のこ、――っ幼馴染と、僕の姉さんだよ」
姫神君の勘違いを訂正しよう『家族』を紹介する僕に、慶史が脇を突いてきたのは虎君のことを『恋人』と言いかけた時だった。馬鹿正直に言わないの。と言わんばかりに。
慶史のおかげで自分の父親が大企業の社長を務めていることを思い出した僕は慌てて虎君との関係を偽った。姫神君に嘘を吐いた罪悪感を覚えたけど、もっとちゃんと仲良くなってから話すべきことだと自分に言い聞かせた。
「え? 『母親』のボディーガード? 姉貴のじゃなくて? てか、幼馴染がなんでいんの?」
「えっと、それはその―――」
「葵は双子で、ご両親は兄貴の入学式に出てるから父兄として幼馴染の『兄貴代わり』とお姉さんが来てるんだよね?」
「そ、そう! 母さんには父さんが付いてるし、姉さんが僕の入学式に行きたいって聞かなくて、陽琥さん――ボディーガードの人が今日は姉さんに付いてるんだ」
僕の家族をよく知っている慶史達には普通のこと。でも、知らない人の目には奇妙に映っちゃうんだろうな。姫神君は訝しそうな顔をしていたから。
慌てて説明を重ねようとしたんだけど、慶史にそれを遮られる。そろそろ教室に行こう。と。
気が付けば他の皆も昇降口に向かっていて、僕は自分のクラスが何処か確かめていなかったから急いで確認しないとと掲示板を振り返った。
「マモ、行くぞー」
「ま、待って! 僕、何クラスか見てないんだ」
すぐに確認するから!
僕はそう急いで張り出されているクラス分けから自分の名前を探す。けど、それを邪魔するのはもちろん慶史で、遅れて目立ちたくないでしょ。と僕の腕を引っ張って歩き出してしまう。
「ちょ、慶史! 待って! 待ってってば! クラス分からないって言って―――」
「全員一緒。Aクラス。分かった?」
「本当?」
「葵には嘘吐いたことないでしょ」
だから行くよ。
そう言った慶史に僕は大人しく従い、抗うことを止めて隣を歩く。
前を歩く悠栖から「俺等にも嘘吐くなよ」と突っ込まれていたけど、慶史は適当にあしらって二人のじゃれ合いがまた始まった。
「お前等って仲良いのか悪いのか分かんねーな」
「悠栖と慶史君のコレはじゃれてるだけだから気にしないでいいよ。まぁ、すぐ慣れると思うけど」
「ふーん……。ま、言い合いはほどほどにしてくれよ。煩いのは好きじゃないんだ」
子犬がキャンキャン鳴いてるみたいで頭に響くと言う姫神君。
ちょっぴり言葉がきついと感じたけど、裏表のない性格なんだろうなと僕は解釈する。
「姫神は口が悪いよな。……見た目に反して」
「オイ、聞こえてるぞ」
「よかった。聞こえるように言ったから」
慶史が肩を竦ませ挑発するも、姫神君は苦笑だけでそれには乗らなかった。悠栖ならすぐに挑発に乗って言い返すだろうに。
「確かに俺の見た目は男らしいとは言えない。でも、『でも』、だ。お前らにだけは言われたくないぞ」
「ちょ! 意義あり! この中じゃ俺が一番男らしいからな!」
「はいはい。悠栖は男らしいでちゅねー」
「! 慶史!」
姫神君も慶史も、そして悠栖も、僕からすればみんな綺麗で可愛くて中性的だと思う。朋喜も勿論。
きっと四人は凄くモテるんだろうなとこれから始まる高校生活を想像する。
(四人ともトラブルに巻き込まれなきゃいいけど……)
寮生活だし本当、犯罪まがいなトラブルが起きなければいいんだけど……。
四人が心配で僕の表情は曇ってしまう。これから入学式で楽しい高校生活が始まると言うのに全く相応しくない表情だ。
(ダメだダメだ! 慶史達に心配かけちゃう……!)
表情に出易いってことは分かってるから、俯いて隠そうと試みる。まぁ、すぐにバレちゃうだろうけど。
「三人とも、いい加減にしなよ。葵君が色々想像して泣きそうな顔してるよ」
ほら。やっぱり。
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