第187話
「なんで藤原が?
どうして
僕も何が何だか分からない状況なのに、虎君から説明を求められる。
きっといつもの僕なら戸惑いながらもありのままを伝えるだろう。でも、今は―――。
(なんで僕が責められるの?)
勝手に理不尽だと腹を立てて、虎君の問いかけに応えずに玄関へと駆けだす僕。
僕を呼ぶ虎君の声を背中に受けながら一度も立ち止まることも振り返ることもせず一心不乱に駆ければ、すぐに玄関へと辿り着くことができた。
玄関では母さんが久しぶりに家に来た慶史に驚きながらも歓迎するように笑顔で話していて、慶史もそれによそ行きの顔で愛想を振り撒いていた。
「慶史、こんな朝早くにどうしたの? それに、
バスルームから玄関までなんて全然大した距離じゃないのに、息が弾む。
肩を上下させながら友達の突然の訪問に困惑を示せば、母さんが口を開く前に慶史がさっき以上の満面の笑みで僕に手を振ってきた。
「やだなぁ、葵。やっぱり忘れてるね? 今年のクリスマスパーティーは中等部で最後なんだからみんなで騒ごうって約束してたでしょ?」
「! え……?」
「慶史君、葵君の『どうしたの?』はこんな早朝にどうして迎えに来たのって意味だよ? 『約束』の時間はお昼だったんだからね?」
「そーそー。いくらなんでも早すぎるって俺等、止めたよな?」
僕が忘れてるって笑う慶史と、そんな慶史に待ち合わせの時間はお昼だったんだから僕の動揺は当然だと言う朋喜。そして悠栖もありもしない『約束』が『ある』と言わんばかりに朋喜に同意していた。
僕はますます何が何だか分からなくなる。
(どういうこと……? 約束なんて僕、してないよね……?)
記憶に全くない『約束』。
でも、もしかしたら僕が覚えていないだけで実は三人に誘われてクリスマスパーティーに行くと答えてしまっていたのかもしれない。
と、そこまで考えてハッとした。
(違う。きっとこれは僕のためだ……)
気づいて三人を見つめれば、三人は笑いながら『夜通し騒ぐ準備はできてる?』なんてことを聞いてくる。数日家を空けても不自然にならないように。と。
「あら。お泊り会なの?」
「はい! 寮でみんなで沢山騒ぐつもりです!」
驚く母さんに慶史が見せるのは『良い子』の姿。でも、『ダメ』と言わさない圧を感じられた。
「そうなの……。てっきりいつも通り家に居ると思ってたのに……」
「ご、ごめん、母さん。言うの、忘れてた……」
友達の優しさに泣きそうになったけど、僕は必死に涙を堪えて笑った。
笑って、着替えて荷物を取ってくると踵を返した。
「あ! そういえば葵部屋移ったんだよね? 新しい部屋、見てみたいなぁ!」
「! 俺もマモの部屋見てぇ!」
「なら僕も見たいな!」
だから一緒に行っていいよね?
そう尋ねてくる三人に、僕は笑って頷くと一緒に行こうと三人を促した。
部屋に向かおうと足を進めた僕の耳に届くのは母さんの声。母さんは僕を追いかけてきただろう虎君に声を掛けていた。
(虎君……)
慶史達のおかげで少し冷静になった頭に自分の態度があまりにも酷いものだったと反省する僕は、虎君に謝ろうと足を止める。
でも、虎君に呼びかける前に慶史に手首を引かれてしまって、謝ることは叶わなかった。
「け、慶史っ」
「ダメだよ、葵君。慶史君、物凄く怒ってるんだから」
「え? なん、で……?」
「瞼パンパンに腫らせて『なんで』じゃないだろ? つーか、慶史だけじゃなくて俺だって怒ってんだぞ」
ちょっと待ってと声を掛けるも、慶史は返事をせずに僕の手を引っ張って階段を昇る。
それに慶史が怒っていることは分かった。でも、それでも僕は虎君が気がかりで後ろを気にしてしまう。
後ろを振り返る僕に、後ろをついて歩く朋喜は慶史の気持ちも汲んで欲しいと苦笑いを浮かべる。そして、悠栖も不機嫌な面持ちで『怒ってる』アピールをしてきて……。
「え? え? あの、僕、何か、した……?」
「葵君は何もしてないよ」
「でも、じゃあなんで二人とも凄く怒ってるの……?」
こんなに怒ってるのに僕の事を怒ってるわけじゃないってどういうこと?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます