第115話

 相手がどう思っていようが、自分が友達だと思えば友達だし、違うと思えば友達じゃない。ただそれだけ。

 それは確かにその通りなんだけど、でも茂斗しげとのように割りきれる人は多くないと思う。だって、茂斗の言葉に納得してる僕ですら、相手から同じ気持ちが欲しいと願ってしまうんだから。

「そうかもしれないけど……。でも、やっぱり大事な人には同じ気持ちでいて欲しいって思っちゃうよ……」

「それは相手に求めすぎだ。……相手に求めたり望んだりするから一喜一憂して、それが望む結果じゃなかったら瑛大えいたみたいに相手を攻撃するんだろうが」

 別に瑛大の擁護をしたわけじゃないけど、僕の言葉が不快だったのか、茂斗は眉を潜めて瑛大の言動を批判する。

 自分が辛いなら、嫌なら、相手から去れば良い。でもそれができないなら、自分の気持ちに折り合いをつけるしかない。

 そして間違っても相手に望みをぶつけてはいけない。相手は物ではないのだから。相手は自分と同じ意思のある人間なのだから……。

「考え方や感じ方は人に言われて変わるもんじゃねぇーだろ? 『大事に思って欲しい』って言われて大事に思える奴なんてこの世にはいねぇーよ」

「そうだけど……」

 思い通りになる気持ちなんて、この世にはない。

 そう僕をまっすぐ見つめて言い切る茂斗に気圧され、僕は俯いてしまった。

「……し、茂斗の言ってることは、正しい、と思うよ……。でも、僕は瑛大の事友達だと思ってるもん……」

 茂斗の言葉は、確かに正しい。でも、そもそもの発端は僕が瑛大を傷つけたせい。僕が瑛大に誤解させる態度を取ってしまったせい。

 だから、瑛大の事を悪く言わないで欲しい……。

 小さい声ながらも必死で訴えるのは、茂斗に分かって欲しいから。僕も瑛大もお互いを大切な友達だと思ってるから……。

「はぁ……。お前は本当、友達に甘いよな」

「ご、ごめん……」

 反論する僕に、茂斗が返してくるのは溜め息。

 僕の事を心配してくれてるってことは伝わってる。だから、反論したことは謝っておく。

「……瑛大と仲直り、したいんだ?」

「したいよ。……傷つけてたこともちゃんと謝りたいし、態度も直したい……」

 茂斗の声が、ちょっと柔らかくなる。

 落としていた視線を上げたら、茂斗は苦笑交じりに僕を見下ろしてた。

「そっか。なら、あいつが怒ってる根っこが何かちゃんと考えるんだな」

「そのつもり。……でも、ちょっと自信ない……」

 そもそもの原因を知ることが大事だってことは僕も分かってる。だから、ちゃんと考えるつもり。

 でも、ちゃんと理解できるか不安。だって僕には僕の考えしか出てこないから。僕の想像を超える『原因』は、思いつくことができないから。

「? 虎に相談するんだろ?」

 感じてる不安を伝えたら、そんな言葉。『いつもみたいに』って言葉が聞こえそうなぐらい当たり前に出てくる虎君の存在に、僕はまた視線を下げてしまった。

「今、茂斗に相談してる。つもり……」

「え? 俺? マジで?」

「うん。……ダメ?」

 ダメじゃないけど……って呟きの後、予想外でびっくりしたって声が続く。

 そして、僕を知ってたら当然とも言える質問が投げかけられた。

「虎と喧嘩したのか?」

「してないよ」

「ならなんで俺?」

 こういうことは絶対虎に相談してるよな?

 茂斗からすれば当然の疑問だと思う。今まで僕が一番に相談する相手と言えば、虎君以外考えられなかったから。

(僕だって虎君に相談したいよ……)

 でも、不安を覚えてしまったから相談するのが怖い。

 僕は茂斗の疑問に答えられず、黙り込んでしまった。

「なんかわかんねぇーけど、訳アリっぽいな」

「……相談、乗ってくれるの? 乗ってくれないの?」

 ちゃんと話をしろ! ってまた攻撃されるかもって思ってたけど、茂斗は頬を掻くと「今回だけ、な」って僕の頭をポンポンって優しく叩いた。

「瑛大の事も虎の事も、あんま難しく考えんなよ」

「うん……」

 茂斗から見たら、僕は物事を難しく考えすぎらしい。

 別に難しく考えてるつもりはないし、むしろ茂斗よりシンプルに考えてるつもりだった僕は縋るように双子の片割れを見上げてしまう。

「んな顔すんなよ。……とりあえず、瑛大の事はすげーシンプルなんだし、な?」

「全然シンプルじゃないよ。僕のどんな言葉が瑛大を傷つけたのか見当もつかないんだから……」

 知ってることがあるなら全部教えてよ。

 これ以上友達を傷つけないようにするためには、自力で気づくのを待ってる場合じゃない。

 だから他力本願過ぎって茂斗に突っぱねられる覚悟で茂斗が知ってることを、感じたことを教えて欲しいって頼み込む。

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