君と出会えたこの三年。

@ayumu0707

第1話君と出会えたこの三年。



桜の蕾が花咲いて、私は高校生になった。今日は入学式で、周りは楽しそうな話し声で賑わっていた。入学式なんて中学生のとき以来なのでなんだか少し恥ずかしい。私は桜の蕾を見た途端、ちょうど一年前のあの子のことを思い出した。


桜の蕾がまだ多く、とても寒い時期に私の通っていた中学校は入学式をすることになっていた。私はこんな寒いとは思わず、マフラーも手袋もコートも何も持って来なかったのだ。体に冷たい風が容赦なくあたる。手がもう冷えて真っ赤になっていた。母は入学式の片付けの手伝いでいないし、友達も見当たらなくてどうしようかと悩んでいた時だった。

「大丈夫ですか?」

私に声をかけたのは栗色の髪の毛が似合う背の高い男の子だった。

「えっと、あの。」

急に声をかけられたものだから、なんて返そうか考えているうちに男の子は私にいった。

「手、出して。」

言われた通り手を出すと、男の子は缶コーヒーをその上に乗せた。

「急に話しかけてごめん。すごく寒そうにしていたものだから、心配になって。」

「これ、くれるんですか?」

缶コーヒーを指差すと、男の子は笑顔で言った。

「そうだよ。寒そうだし、飲んで。」

「いやいやそんな!ダメです。せめてお金だけでも。」

「本当にいいんだって!それに俺コーヒー飲めないしさ。」

すると遠くから別の男の子が来た。

「高橋!このあと遊ぶって約束しただろ?何やってるんだよ。」

「あ!ごめん忘れてた。」

男の子は慌てて立ち上がると私の方を見て笑って言った。

「俺、高橋樹。そっちは?」

「わっ私、高木。高木優香。」

「高木さんね。同じクラスになれたらいいね。」

走っていく高橋くんの背中を私はただぼーっと見つめていた。あんなに男に優しくされたのは初めてだった。

「優香。もうどこ行ったのかと思ったらここにいたのね。」

「ごめん亜美。」

亜美は私の手元を見ると、目を見開いて言った。

「え、優香ってコーヒー好きだっけ?」

「いや特に好きというわけではないよ。」

「このコーヒー!さっき別の子から聞いたんだけど、高橋くんがすごい好きなやつらしいよ。」

「高橋?」

「あんた知らないの?」

亜美はさっきの何倍も驚いた表情で言った。

「高橋樹っていうすごいイケメンがいるの!しかも運動もできて頭も良くて、凄いモテるらしいんだよ。」

私はこの時、さっきこのコーヒーをくれた高橋くんはすごくモテて、それに大好きなはずのコーヒーを見ず知らずの私にくれるぐらい優しい子なんだということしか頭になくって、亜美の言っている事なんて少ししか頭に入らなかった。すごく胸が締め付けられた。

(この気持ちを、なんて名付ければ良いのだろうか。)

初めて持ったこの感情に私は名前をつけれないままいた。

結局私のクラスの名簿に『高橋』という名前はなくて、クラスの友達と毎日楽しそうに会話をしている姿を時々見かけるだけだった。そのまま半年が過ぎた。

二学期の後半になるとだんだん寒くなってきて、私は何か温かい飲み物を買いに行こうと自販機に向かった。すると自販機の前には高橋くんとその友達がいて、私はなんだか行きづらくなって少し物陰に隠れて待っていようかと思った。

「高橋さ、好きなやつとかいないの?」

私はその話題がすごく気になって、盗み聞きは良くない!しちゃダメなんだと思いつつ耳をかたむけた。

「別にいないよ。」

「でもお前モテてるじゃん。桜木さんも好きらしいし。」

「桜木さん?あんま話した事ないけど。」

「お前ほんと鈍感だよな。凄い話しかけられてるじゃん。」

「そうなのかなぁ。」

桜木さんとは、この学年で一番可愛いと言われている女の子だ。しかも性格も良くて、誰からも好かれる存在。桜木さんと高橋くんはお似合いだといつも噂されてて、私の所にもその噂は流れてきている。

「実際桜木さんのことどう思ってるんだよ?」

私はこの質問の答えが気になって仕方なかった。こんなこと今まで一回もなかった。この気持ち、なんていうの?

「うーん。別に好きではないけど、良い人だとは思うよ。可愛いし。」

心がズキズキする。痛い、苦しい。寒くもなくなった。でもなんでこんな苦しいの。風邪なのかな。

(保健室に行こう…)

足音に気づいて高橋くんが振り向く。私はそれに気づけずにいた。

「え、やば。」

「どうしたんだよ高橋。そんな顔真っ赤にして。」

「別になんでも!さっさと教室戻ろう。」

(どうしよう。聞かれたか?誤解されてないと良いけど。)

高橋くんの頬は真っ赤になっていた。

そのまま、私達は二年生になった。クラス替えになって。やっぱり私のクラスには高橋くんはいなかった。でも桜木さんとは同じクラスで、これから仲良くなろうと思っていた。

教室に入ると桜木さんは偶然隣の席だった

「よろしくね。」

「うん。こちらこそよろしく。」

私達は急速に仲良くなっていった。そして一学期の終業式の日。私は桜木さんに呼び出された。

「どうしたの?」

「私。前に好きな人いるっていったじゃん?」

「そう、だっけ。」

「私好きな人いるんだけど、高橋くんなの。」

私はこの時、去年自販機の前で高橋くんたちがしていた会話を思い出した。やっぱりそうだったんだ。すごくお似合いな文句なしの二人なのに、なんでこんなに胸が締め付けられるの?

「それで私、今日告白しようと思う。高橋くんに。だから、待っていて欲しいの。優香ちゃんには一番最初に伝えたくって。」

いつもはこんなお願いなんてしない桜木さんが珍しくって、私は勢いに負けて頷いてしまった。桜木さんは「頑張るね」と言って高橋くんの所へ向かった。桜木さんが告白すると言っていた教室の廊下で、私は待っていた。

「付き合ってください。」という桜木さんの声が聞こえたら、高橋くんの声が聞こえて、耳を塞ぎたくなった。「ありがとう。」という返事が聞こえたからだ。もう私はいてもたってもいられなくって、教室のドアの前を突っ切って、階段を降りた。

「え、優香ちゃん?」

「どうしたの?」

「いや…ごめんなさい。返事はまた今度聞かせてください。友達を追わないと。」

桜木さんが教室から出ようとした時、高橋くんが答えた。

「ありがとう。嬉しいけど、好きな子がいるんだ。ごめんなさい。」

桜木さんは高橋くんに「返事してくれてありがとう」と返すと、教室を出ていった。後から追いかけて来た桜木さんの制服には涙の滲んだ跡がいくつもできていて、私は内心ホッとした自分を殴り飛ばしてやりたかった。

それからまた月日は流れて、三年生になった。私は三年になって桜木さんと高橋くんと同じクラスになった。あれから高橋くんと桜木さんは目も合わせもしなくなって、私は少し複雑な気持ちになっていた。大好きな二人が仲が悪いのはあまり見ても良い気持ちにはなれない。どうしたら二人が前のようになれるか考えた。

(そうだ!)

「高橋くん。桜木さん。今日の放課後遊ばない?」

私はそういって二人を外に連れ出した。三人でゲームセンターに行ってゲームをしたり、クレープを食べたり。次第に二人も笑顔になって、私達はだんだん仲良くなった。そんなある日。桜木さんが言った。

「二人とも進路どうするの?」

「私まだ決めてない。」

「もう三年だよ?」

「そうだけどなかなか決められなくて。」

「俺、決まってる。」

高橋くんが何か決心したような風に言った。

「俺フランスに留学する。」

「留学!?」

桜木さんはびっくりして声をあげた。私は驚きのあまり何も言えなかった。

「俺将来は料理人になりたくて。それで海外で修行しようかと思ってる。」

「頑張ってね!」と言って笑う桜木さんに合わせるように「頑張れ」としか私には言えなかった。帰りに高橋くんと別れ駅に着いた後、桜木さんが私の顔を覗き込んだ。

「いいの?高橋に留学させて。」

「良くない。」

「なら止めに行けば良い。」

「どうすれば良い?」

「告白するんだよ。」

私はそのまま駅を飛び出した。さっきいた公園に行って、高橋くんと別れた所に行って、彼の背中を探し続けた。もう息ができなくなるくらい、頭で何も考えれなくなるほど走った。走り過ぎてカラカラになった喉。私はその場に倒れこんだ。目の前には未開封のソーダが置かれていて、そのソーダの後ろには高橋くんが笑顔で私を見つめた。二年前の入学式の日と同じ光景だ。

「大丈夫?どうしたんだよ。」

息切れをしていてうまく気持ちを伝えられない。

「あの、私…」

手を伸ばして彼の手を掴もうとする。でももう彼は飛行機に乗る準備をしていて、みんなで「じゃあね」って。そうだ。私告白できなかったんだ。あのまま何も言えなくて、笑顔で「なんでもないよ」って言うだけだったんだ。もう彼は背を向けて行こうとしている。最後に彼は振り向いて言った。

「また会おう。」

そう泣きそうな目で笑う彼の事を私は今でも、これからも、ずっと。


忘れないよ。


飛行機の飛ぶ姿が滲んで見えない。








































































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