【書籍版】乙女ゲームの世界で私が悪役令嬢!? そんなのお断りです!

蒼月/ビーズログ文庫

プロローグ


「ああ……朝日が目にみる」

 ビルの谷間からのぼっていく太陽を、まぶしそうに手でさえぎりながら見上げていた。

 私の名前はかんざき。二十七さいのOLでかれは……まあいない。

 都内で一人暮らしをしているへいぼんな容姿のアラサーだ。

(ん~! 結局かんてつはしたけど、ようやく全キャラ落とせた朝はとてもすがすがしいな~!)

 目の下にいクマを作りながらも満足そうな顔をしている私は、ぞくに言うゲームヲタクである。特にゲームの中でもおとゲームと呼ばれるジャンルが一番好きで、新しい乙女ゲームの発売情報を得ると機種問わず全てこうにゅうしているほどだ。

 そんな私が今ドハマりしているのが、数々の名作を生み出してきたゲーム会社の最新作『ゆうきゆうの時を貴女と共に』という王宮をたいにした乙女ゲームである。

 その乙女ゲームを発売前からずっと楽しみにしていた私は、発売日から数日間有休を取り、る間もしんでゲームにぼつとうしていたのだ。

 しかしほとんど食事も取らず夢中になってやっていたため、やり終わった解放感と共にきようれつな空腹感が私を襲い、仕方なく現在朝ごはんを買いにコンビニに向かっているところなのである。

 交差点で赤信号に引っかかった私はおもむろにかばんの中からスマホを取り出し、画面の電源を入れて待ち受け画面を表示すると自然に顔がにやけてしまった。なぜならそこには、『悠久の時を貴女と共に』の初回限定特典である待ち受け画像が映っていたからだ。

 私がニヤニヤしながられんなヒロインをれいな男性じんが囲んでいる画像を見ていると、とつじよ大きなクラクションがひびき、おどろいて画面から目をはなし前を見た。

 するとそこには横断歩道をとことこと歩いているまだ幼い男の子と、その男の子に向かって大型トラックが急ブレーキをかけながらせまっている光景が広がっていたのである。さらに男の子の母親と思われる女性が、横断歩道の向こうから必死の形相でけてくるのが見えた。しかしどう考えても間に合わない。そのしゆんかん、私は考えるよりも先に動いていた。

 私は至るところから悲鳴があがっている中を持っていた鞄とスマホを投げ捨て、一目散に男の子のもとまで駆けつけるとその体をばす。次の瞬間、私の体は激しいしようげきを受けていつしゆん宙をい道路に落下したのだった。

 そのまま道路にたおれ動けなくなった私は、うすれゆく意識の中で男の子が無事お母さんの胸で泣いている姿にホッとしながら静かにまぶたを閉じた。

(……あのゲーム……もう一回だけ……周回……プレイ……したかった……な…………)

 そんな心残りを覚えながら私の意識はそのまましんえんちていき、そして神崎真里子としての人生はそこで終わったのである。

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