くちうるさい魔王城

遊爆民/Writer Smith

くちうるさい魔王城

 何ものをも拒む陰気な森の奥深くにおどろおどろしくそびえつ、一つの城。

 人々はそれを魔王城と呼ぶ。


 その魔王城の最上階、玉座の間で魔王デスキングは頭を抱えていた。

 彼の悩みであった酷い痛みを与えてくるお尻の痛み、--痔--、を解決してくれるほどの心地よい座り心地を与えてくれる玉座に座ってだ。

 しかも、キリキリと胃を痛めながら……。


(どうしてこうなった……)


 闇の世界で万能な筈の魔王デスキングは軍隊を組織して光の世界に攻め入った。


 それはいつの時代でも同じで、何代にも亘って同じことを繰り返してきた。

 闇の世界からの侵略。当然、光の世界からも侵略があった。

 そのたびに同じだけ命が失われ、最終的には均衡するまでに押し返す。

 いつもの事だった。


 そう、それが今までの常識だった。


 だが、今は違う。

 魔王デスキングが頭を抱えるのはその常識が覆されたからだ。


 今度こそ攻め入って光の世界を併呑する。

 当然、その気持ちで攻め入るのだ。何代も前の魔王からそうだった。

 いまの情勢を鑑みれば、全く異なる結果を見ているのであった。


 そう、魔王デスキングが見ている世界地図、それもどこまでが自軍の勢力下にあるのかを示す魔法の地図を見れば一目瞭然だった。

 地図では明るい色で塗られた場所がすでに九割に及んでいる。


 そう、九割もだ。


 先代の魔王であれば最大でも七割まで攻め込まれてしまったが魔王軍を立て直して、逆に光の国へ攻め込み自軍の勢力下を七割にまで持って行った事もある。

 攻め込まれても部下達の働きにより戦線を維持できたのだ。


 だが、今の魔王の命令に命を賭けてまで従う部下は少ない。

 そのために光の軍勢に攻め込まれ、主だった者達が死んでしまい、この魔王城にまで攻め込まれるのは時間の問題だった。


「ああ、どうすればいいのやら」


 闇の世界で万能を誇る魔王デスキングと言えども、光の戦士の刃を受ければそれで人生、いや、魔王生が終わってしまうだろう。

 そうなったら、この世界は光に飲み込まれてしまい、再び力を取り戻すのは不可能だろう。


『ああ、みっともない……』


 頭を抱える魔法デスキングの耳に聞きなれぬ声が届いた。


「だ、誰だ!吾輩に意見するのは!」


 魔王城の玉座の間には誰も入れるなと伝えてあったはず。それなのにもかかわらず魔王デスキングの耳に声が聞こえたのだ。誰かが侵入してきて嘲笑って来たとキョロキョロと玉座の間を見渡すが誰の姿も見えない。

 当然、感知できるはずの魔力も近くにはいない。世話焼きの部下達は玉座の間から離れた場所に控えている。


『ああ、みっともない。最弱の魔王の居城となるなんて、なんと耐えがたい……』

「さ、最弱だと?その、四天王の中でも奴は一番最弱みたいな事を言うのは!」


 それにもかかわらず向けて来る声に、当然のだと言わんばかりに魔王デスキングは怒りを露にするのだが……。


『だから君はだめなんよ』

「誰だ!吾輩の前に出てこい」


 魔王デスキングがそう叫ぶと、彼の座する玉座の前に人の姿が現れた。

 当然、敵対する光の世界の者ではない。しかし、全く見たこともない姿であり、しかも少年の姿をしているのだ。


 その姿を見て魔王デスキングは剣を抜いて躊躇なく切り掛かった。

 だが、剣の手応えどころか、その姿を通り越して後ろに回ってしまった。


『いきなりとは酷いな。だから君は負け続けるんだよ』

「し、知ったそうな口を聞くな!だいたい、貴様は何なんだ。どこから入ってきた?」


 少年が振り向きながら魔王へと小言を向けるが、それに反発するかのように魔王はさらに剣を向ける。

 その姿に”やれやれ”と肩を竦めるのだが、自分の正体を告げようと天井へ指を向ける。


『歴代魔王に姿を現すのはこれが初めて……いや、初代魔王が僕を作ってるから、二人目かな?初めまして、今代の魔王デスキング。僕はこの城、魔王城の意思だよ』

「はぁ?城が意思を持っているだと。馬鹿な事を言うな!」

『本当の事なんだけどなぁ……』


 魔王城の意思だと告げた少年はポリポリと頬を指で掻いている。

 まるで人、そのものがそこにいるかのように。


 実際、魔王が信じられないのも当然だった。

 目の前に現れた姿が少年だったことが大きい。

 始めて魔王城が建設されたのが約千年前。それから様々に拡張されて巨大な都市ほどに大きくなっている。


 歴史ある魔王城に沢山の部下が住んでいるのだが、その中に少年の姿などありはしない、それが魔王の考えだった。


『ふ~ん、そう言うことか……。それならこれではどうかな?』

「あ、ああぁ……」


 少年はそう言うとゆっくりと成長するように姿を変えて行き、最後には真っ白な頭髪と長い髭を生やし、蝙蝠の様な大きな翼を背中に蓄えた威厳ある老人に姿を変えた。


『では、これではどうじゃ?少しは信じてくれたじゃろうか』


 強大な力を持ち、万能な魔王デスキングであっても年齢を自由に変化させることはできない。違う姿を真似することは出来るが、このようにゆっくりと変化させるなどは彼でも無理だった。


「も、申し訳ございません。吾輩が間違っていました」

『うむ、信じてくれてうれしいぞ』


 老人に姿を変えたが、話しにくいと感じたのかゆっくりと少年の姿に戻って行った。


『ごめんね、この方が君は話しやすいと思うからね』

「それでしたら……」


 老人から少年の姿へと戻り、魔王は何となくホッとしたようで表情が緩んできていた。

 少年もこれなら話でも大丈夫だろうと、本題に入るのである。


『さて、君がふがいないばかりに、この魔王城が出張らなくてはいけなくなった。それは肝に銘じてほしいのだが、良いか?』

「はい。言い訳もできません」

『よろしい。では、当面の課題を一緒に考えていこう』


 少年は何処からともなく黒板を取り出して玉座の間へと設置した。

 上から書こうとしたが少年の背の高さが足りず、なんとも不格好な少年の姿があった。魔王はその姿がどうにもほほえましかったのか、思わずくすくすと笑い声を漏らしてしまう。


『こら、真面目にやらんか。もういい、お前が書記だ』

「吾輩が?」

『そうだ、笑った罰だ』


 少年は笑ったお返しにとチョークを魔法の眉間へと投げつけた。

 実体を持ったチョークが至近距離から眉間に突き刺されば当然痛い。

 どうなるかと言うと……。


「お~!の~!魔王城様、すいませんでしたー!」


 と、勢いよくジャンピング土下座!

 額を床にグリグリと擦り付ける程に謝っている。


『わかれば宜しい!』


 それではと魔王にチョークを渡して何かを一つの窓を空間に発現させた。

 魔王城の能力の一つである、”空間ノート”だ。

 それは、魔王城の力の源である水晶体に魔王城の意思たる少年が記した情報が逐一表示されるのである。


 水晶体は魔王城の力の根源であると同時に、少年の意思を司っているので壊されたりでもしたら大変なのだ。

 とはいえ、これを壊せるのは光の世界から派遣された勇者であるのだが、その勇者も束になって来なければ壊せない代物でもある。


 とは言え、壊されてはならぬので水晶体はバックアップがきちんと取られている。

 心配はいらない。


『現状を確認しよう。まず、魔王デスキング』

「はい。何でしょうか?魔王城様」

『そう卑屈になるな。まぁ、いいか。一番の欠点は君が短絡的にしかものを考えていないって事だな』


 今の魔王の最大の欠点は短絡的な思考、つまりは気が短い事であった。

 長期的な作戦を考えられず、その時その時の戦果を期待してしまっている。

 すべてにおいて勝ちを要求されるので、負けると明らかな戦場の部下達はたまったもんではないと士気が上がっていなかった。


「ですが、戦いとはすべて勝たなくてはいけないのでは?」

『愚か者!!』


 老人の姿に変わった魔王城のバックに雷が落ち、迫力満点の姿で魔王デスキングを一括した。


『良いか、戦いとは最後に立っている方が勝ちなのだ。一時、負けてもその後に勝てばどうでもいいのだ。その時に必要になるのは戦力。お前は撤退させるべき場所でも死守を命じておる。そして、戦力の投入において最も下策な逐次投入をしている。勝てる筈もあるまい』


 老人の姿となった魔王城の言うとおりだった。

 短絡的にそして、直線的に考えすぎて、捨てる場所を支え無ければならぬと勘違いしていた。

 本来なら、取られても、その後に取り返せばいいだけなのだ。


『お前の目的はなんだ?』

「えっと、光の世界を征服する、ですね」

『わかっているではないか。なぜ、それを忘れる?』


 その言葉を最後に魔王城は、再び少年の姿に戻った。


『まず、その短絡的な性格をどうにかしないと……ねぇ』

「ねぇ、と申されましても、吾輩には何の考えも浮かびませんが?」


 魔王デスキングに自らの欠点を治せと伝えても、治らないだろう。いままで、それが欠点として認識していないのだから。

 少年となった魔王城は重い溜息を吐き出して見せた。

 透明感のある意思だけの存在、実体を持たぬ幻影と思える少年が溜息を吐く様は何ともシュールである。


『そうだな……。とりあえず、治せるところから治していこうか。それに……』

「それに?」


 威厳ある魔王とも思えぬ表情を見せながら、少年の言葉に首を傾げている。

 ただ、その表情は期待に満ちた表情であると言わざるを得ない。


「しばらく、僕が君の参謀として見ているから安心してね」

『おぉ!!』


 思っていた以上の言葉に魔王デスキングは感嘆の声を上げた。

 それは、この劣勢を打開するであろう秘密兵器を手に入れたも同然であると。


 だが、魔王デスキングはこれからの行われる改革に思考が追い付いていないのも事実である。何が起こるのか、それは魔王城自身にしかわからないのであるから。


『では、まず最初に聞きたいのは、今の闇の世界の軍勢に工兵はどれだけいるのかだね』


 工兵と言えば一般的には、軍隊の中で花形部隊である攻撃部隊の後ろに隠れ目立たない部隊と思うだろう。当然、それは否定できない。

 だが、殺したり、壊したりする軍隊の中で、作り出す部隊と言っても過言ではない。

 それがどれだけ用意できるかを聞いたのだ。


「一万は用意できましょう。あと、魔法を使えばゴーレムならあと一万は下りませんな」

『なるほどね。じゃ、さっそくをそれを用意させて』


 魔王デスキングは用意するのはやぶさかではないと伝えるのだが……。


「あの、魔王城様。一つお聞きしてもよろしいですか?」

『なにかな?』

「簡単な事です。今現在、我が闇の世界は光の世界の軍勢に攻め込まれて工兵を出す余裕などありません。それに、何処にどう使おうと言うのでしょうか?」


 至極当然の疑問だった。

 当然、それをわかったうえでの指示であるのだが、さすがにこれには答えねばならないだろうと口を開いた。


『そうだね、いうなれば更地に都市を建設する、かな?」

「えっと、更地ですか?」


 魔王デスキングは首を傾げる。

 魔王城から光の世界の軍勢が占拠している場所まで、鬱蒼と茂る森が広がっている。とても更地と呼べる場所などどこを見ても無かった。


「魔王城様。更地など何処にもありませんが?」

『今は更地なんかないよ。だけど、この魔王城が今まで蓄えた力を使って、敵に占領された土地を更地にしてあげようと思ってね。まぁ、三割ほどは敵を殲滅してあげるから、ね』

「……そんな事出来るのですか?」


 魔王デスキングが不思議に思うのも仕方がないだろう。

 一割でもかなりの面積であり、距離もある。

 魔王デスキング配下の悪魔共でも更地にするには一万の軍勢を数日間、釘付けにさせる必要がある。

 しかし、魔王城はあっけらかんと答える。


『可能だよ。だけど、使えるのは一度っきりだから、そのあとは頑張って占領地を回復するんだよ』

「そう言う事ならわかりました。魔王城様の指示に従いましょう」


 少年の姿をした魔王城に恭しく頭を下げるとすぐに工兵に指示を伝達して城の前に集めさせるのだった。


『そうそう、僕も君についていくからちょっと待っててね』

「魔王城様も行かれるのですか?」

『更地にするにはこの城の力が必要だけど、僕自身はこの広間から出られないから、外出用の体を用意するのさ』


 そして、魔王デスキングの前にいた少年はスッと姿を消した。少年が消えたその場に、何処からか様々なパーツが飛び込んできて人の形を作って行った。

 木製の体と手足、頭には小さな水晶体が埋め込まれ血のように赤い腰まである髪で覆われて行った。

 さらに、漆黒のドレスが飛んできて人形を包み込むと、荘厳な魔王に見合う美しい姫へと変貌した。その姿は誰もが振り返る程に美しく、まさに美の化身とも言える艶姿であった。


『どう?これなら貴方の側にいてもおかしくないでしょ』


 祭りに参加した街娘が嬉しそうにクルっと体を回転させる動作を真似すると、スカートの裾がフワッと舞い上がり、ドレスと同じ漆黒のハイヒールと素肌が透けて見えるタイツが魔王デスキングの視線に飛び込んできた。


「驚きました、魔王城様」

『その名前もどうかと思うわね……。この姿では暗黒姫ダークネス・クイーンとでも呼んでもらえるかしら?』

暗黒姫ダークネス・クイーンですね」

『様はいらないわ。暗黒姫ダークネス・クイーンでいいわよ』

「承知!」


 魔王デスキングは暗黒姫ダークネス・クイーンとなった魔王城へ恭しく頭を下げるのであるが、その魔王城はそれを戒める。


『貴方が一番なのだから、妾には頭を下げずともよい』

「承知。それにしても……」

『なに?』

「魔王城様はいろいろな姿に変わると同時に言葉使いも変わると思いまして……」

『ほっといてください。それよりも準備に取り掛かりますから妾達も外へ急ぎますよ』

「承知!」


 暗黒姫ダークネス・クイーンは手にした漆黒の扇で口元を隠しながら魔王の言葉を遮った。

 そして、魔王デスキングは暗黒姫ダークネス・クイーンを従えるように玉座の間から歩き出し、工兵が揃い集まったであろう魔王城の正門前へと急いで向かった。




 威風堂々とした魔王デスキングと妖艶な艶姿の暗黒姫ダークネス・クイーンが魔王城より出でて工兵達が揃い踏みする城前広場へと姿を現すと割れんばかりの歓声が巻き起こった。

 彼らの主の魔王と、彼の横に相応ふさわしいドレス姿の姫をその目に見て心を震わせていたのだ。始めてその目に見る姫ほど、主の横に相応しい姫はいないと。


「魔王様、工兵一万、ことごとく集まって御座います」


 魔王デスキングの前に跪いたオークの一人が報告を述べた。

 彼の姿は後ろに並ぶ一般的なオークと違い、一回り、いや、二回りは大きな体躯を有しており、堂々とする姿は誰にも負けてはいなかった。

 その体躯をもってすれば最前線でも敵を屠りまくるのではないのと脳裏に浮かぶのだが、力が強いだけの彼では最前線で戦う力は持ち合わせていない。その為に後方での工兵と言う地味な部隊に所属しているのである。


 そのオークが率いる部隊の他に、叫び声を上げるオーガーや幼児の様に落ち着かぬトロル、そして、彼らよりも体躯が小さく工兵なのかと疑問を投げかけたくなる魔法使いなども見える。

 ここに並ぶ彼らは魔王デスキングが自慢する工兵達である。


「うむ、ご苦労。暗黒姫ダークネス・クイーンよ、今はこれだけである」

『大丈夫でしょう。あとは貴方が命令を与えるだけです。では、敵の軍隊ごと、更地にしてしまいましょう』


 暗黒姫ダークネス・クイーンが右手を高々と掲げると、広場を中心としてゴゴゴッと地鳴りが始まった。

 整然と整列していた工兵達も何が起こっているのかと、きょろきょろと辺りに顔を向け始める。そして、誰が叫んだかその声をトリガーにして皆が一斉に巨大にそびえつ魔王城へと顔を向ける。


 その魔王城の一部、正面の建物とその四隅に位置する尖塔がかすかに動き始める。


 魔王城はいくつかの区画から構成されている。

 初代魔王がしたとされる、正面の建物とその四隅に位置する尖塔。

 そして、二代目以降の魔王から徐々に支配者に相応しい姿へと増築し始めた、それよりも奥に位置する天高くそびえ立つ建物とに分かれる。

 そして今、初代魔王がしたとする建物が動き始めたのである。


 まず、四隅の尖塔がくぐもった音を響かせながら張り出した。中央の建物とは太い廊下で結ばれる様に変形する。そして、中央の建物は四隅の尖塔を脚にして基部から独立して地面から浮き上がった。

 最後に、中央の建物に存在する上構部は首のような廊下を引きながら前方へと張り出して行った。


「おお!これは素晴らしい」


 魔王デスキングが興奮の声を上げて喜んだのは、魔王城が一つの生命体の様に動き回れるようなった事だ。

 四つの脚を備えた魔王城はゆっくりとだが器用に動き回り、その場より離れた場所へ位置を取った。


『それでは、これより敵の殲滅を行います。この攻撃は一回限りですので、迅速に命令を出される事を期待します』

「うむ、承知した!」


 暗黒姫ダークネス・クイーンが右手を上げて魔王城を操作し、基部より張り出した上構部の方角を固定させる。


『高空視点での目標補足。十個の目標をロックオン。誤差修正、プラス二。総員、耐ショック、耐閃光防御!これより、攻撃を開始します』

「え、何?耐ショック?」

『発射!』


 魔王デスキングが暗黒姫ダークネス・クイーンの言葉を理解するより早く、魔王城の上構部から短い閃光が十回黒い雲が漂う上空へ向かい上がって行った。


 魔王デスキングや並んでいた工兵達に辺り一面を真っ白に染める閃光が襲い掛かった。

 直接見ていた者達は閃光で目を眩ませられ、瞳の奥深くにダメージを負った。

 その直後、閃光により震えた空気が暴風になり彼らに襲い掛かかった。咄嗟に身をかがめて耐えた魔王デスキングや、重量級のオークやオーガは耐える事が出来たが、華奢な魔法使いは暴風に体を攫われ、数メートルも吹き飛ばされ地面に激突してしまった。


「ギャァーー!」

「魔王様ーー!」


 相当離れていたにもかかわらず、十回の閃光から出た余波が彼らを苦しめた。

 その余波が収まって、視力を回復した彼らが目をあけると、黒く垂れこめていた雲が真上から無くなり、見渡す限りに真っ青な空が辺りを支配していた。


『魔王様。これで十個の目標は蒸発し、更地になりました。今こそ工兵を出して領地を回復させるのです』


 殲滅させた目標ははるか遠くで目視による確認は不可能である。暗黒姫ダークネス・クイーンが行っていた高空視点からの情報で、攻撃を受けた十個の目標全てが悉く黒煙を巻き上げ、瓦礫の山になる事もさせずに吹き飛ばしたとわかったのである。


「お、おお。そうだな。よし、皆の者出撃だ!敵が支配していた我らが領地を取り戻すのだ!」

「「「おおぉーー!」」」


 魔王デスキングの号令一下、工兵達は雄叫びを上げながら我先にと、先を争う様に出撃して行った。

 魔王デスキングの力ではないが、あの閃光を見た事により、揃っていた魔王軍の士気は天井知らずのうなぎ上りで上昇していた。


 もう、彼らを止める者はいない。

 それは、闇の世界の勢力による反撃の狼煙が上がった瞬間でもあった。


 圧倒的な攻撃を見た工兵達は口々に言うだろう。

 魔王デスキングは圧倒的な力を持ち、勝利してくれるはずだ、と。

 いままで魔王デスキングに懐疑的な目を向けていた者達もこれで従順な部下となるだろう。


『では、魔王様。あとは上手い事配下を指揮して敵を屠ってください。あ、相談役にはなりますので、いつでも声を掛けてくださって構いません』


 暗黒姫ダークネス・クイーンはこのままの姿で魔王城の参謀として働くと告げて来た。魔王デスキングにしても、過去に存在した魔王達を見て来た暗黒姫ダークネス・クイーンが傍にいてくれることは非常に嬉しかった。


「これで、勝つる!」


 これから、魔王デスキングによる光の世界への蹂躙が始まるのであった……?







『一つ、忘れていました』

「何か?」

『魔王様には、魔王城の心をわかっていただきたいと思い、こんなものを用意しました』

「はぁ?」


 暗黒姫ダークネス・クイーンが用意したのは、四つの脚で動き回れるようになった魔王城のミニチュアだった。

 しかも、中に入れるような仕組みを作っており、手足を伸ばせば四隅の尖塔を己の意思で動かせるようになっていた。


『さぁ、この中に入って、妾が何を考えているのか、思考してみてください』

「そんなの聞いて無いぞーーー!!」


 工兵達が出撃し誰もいなくなった魔王城前の広場に魔王デスキングの叫び声が響き渡った。


 がんばれ、魔王デスキング!

 負けるな、魔王デスキング!


 闇の世界の命運は、魔王のその肩にかかっているのだ。

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